誰が日本のテクノハウスシーンをダメにした? 1/3 ~多様性~

立て続けにDJやクラブ関係者の嫌な話を見聞きしてしまい落ち込んだ。クラブカルチャーって何なんだ?自分にとってどんな場所だっただろうか。ブログを書きまくるほどに惹かれたのは何だったのか。

クラブの入り口でIDは見せるが記録は残らない。私の名前も年齢も、どこの会社でどんな肩書で働いていて、いくらの家に住んでるか、誰も知らない。明るいラウンジでは少し人目が気になったが、フロアは暗く、皆DJやライブに夢中で隣なんて見ていない。東京に来てから、仕事でも趣味でもここは自分の居場所だとしっくり来る場所は見つけられなかった。平日は遅くまで働いて、土日は趣味に運動と英語。仕事で評価され、友達に愛されるための見た目や話し方に気を使い、疲れ切っていた。クラブはここに居てもいいと感じられたし、そもそも居ていいとかダメとかさえも考えなかった。
フロアでぼんやりしていたら、女の子が友達の手を引いてフロアの真ん中に駆け出していく。嬉しそうにokadadaさんのことを「すごく人気がある人。」と説明しながら。明け方少し空いたフロア、okadadaさんのDJで幸せそうにゆらゆら踊る人たちを、柵に頬杖をつきながら眺めていた。こんな天国みたいな平和な空間が渋谷のど真ん中にあるんだなと。The Black Madonnaは「フロアの上では皆平等だ」と言ってらしい。確かokadadaさんが配信でそう言ってた。その言葉通りの空間だった。
私にとってクラブは、匿名になり自意識から解放され、こうしなければならないという同調圧力がなく、自由に楽しむことができる場所だった。
2017年5月 track maker @VISION
2017年11月 trackmaker @VISION 6th Anniversary

クラブカルチャー史を見ても、クラブはマイノリティの居場所だったはず。
クラブカルチャーにおけるセクシュアリティのオルタナティブ歴史

 

以下、批判。

海外からのアーティストと人気SSWが出演したイベント、大盛況だったがSSWのファンが踊らなかったようだ。主催の某DJ
「ライブのお客さんにもクラブの文化を知ってもらいたいし、みんなもう少しオープンな気持ちでイベントに臨んでほしいです。お地蔵さんでも何でも楽しみ方はそれぞれ自由ですが、そんなにライブだけを楽しみたいなら、各アーティストのワンマンに行ってください。」
「曲を知らないから乗り方がわかりませんという質問がハテナです。乗り方に正解なんてないし、間違ってたって全然良い。爆音でビート聴いてたら自然と体が動くはずなので、何故抑えようとするのですか…恥ずかしい?揺れてない方がステージから見てて恥ずかしいです。体不動で口と首だけ動いてる絵がね」
「てか、ライブにしろクラブにしろ、一人でも楽しめますか?とか、一人じゃ不安ですとか、聞いてくる人達。そういうこと思ってしまってる時点で、人生損してるって思わないのかな…。一回、どうなのか実際体感してみて、今後通い続けるのかどうか決めれば良い話じゃない?そんなに3500円が勿体無いかw」
人気イベントでイベント前日当日には私が初めてクラブに行く人向けに書いたエントリもいつもより多く読まれていた。おそらく初めてクラブに行った人が多かったと推測する。私はクラブに初めて行ったときはもちろん、今でも初めてのパーティや箱のときは緊張してミーアキャットみたいになる。そんな見た目でも本人は十分楽しんでる。イベントの余韻に浸ってるときに、主催の「恥ずかしい」とか「ワンマンに行ってください。」というツイート見てしまったら楽しかった思い出が台無しだし、クラブに行くのが怖くなってしまう。例えば飲食店が「今日の客は味をわかってないし、ナイフの使い方が間違ってた。」とSNSに書き込んでいたとしたら。客への不満をSNSで発信するDJをしばしば見かける。主催の考えは尊重するし客を選別することが悪いとは思わない。但し禁止事項があるならイベント前に言ってもらえると助かる。Discwoman(ジェンダーの問題を提起しながら女性アーティストやLGBTQのアーティストを積極的にサポートするニューヨーク拠点のプラットフォーム、コレクティヴ、ブッキング・エージェンシー)来日時のDOMMUNE配信番組に出演されていたり、多国籍のアーティストを繋ぐ仕事をされていたので、音楽の楽しみ方も含め多様性について他人より理解があり寛容な方ではと勝手に期待していた。障碍があって立つことはできても踊れない、1日中立ち仕事をしてからイベントに来て立ってるだけで精一杯だったかもしれない。客一人一人の目を見て「恥ずかしい」とか「ワンマンに行ってください。」とまで言うような方ではないと思う。客を個ではなくmassで見ているから、一人一人の顔が見えないからつい言ってしまうのでは。

DOMMUNE CHICKS ON A MISSION presents「We are CHICKS!」
TALK:AKIKO USUKI、MIMI SHIMADA、NAZ CHRIS、YUKI KAWAMURA、RIRIKO NISHIKAWA
2017年、アムステルダムのNight Mayor(夜の市長)であるMirik Miran氏が中心となり、世界各国のナイトシーンで活躍する女性を集めカンファレンス・ワークショップが開催された。日本代表として参加した臼杵晶子氏を中心に、彼女と親交のあるDJやクラブで働く女性が出演した。Discwomanの回も良かったし国際女性デー企画ということもあり、女性がブッキングされにくい点などオープンに議論されることを期待していた。ところが普段から親交が深い人が集まったからか、TSUBAKI HOUSE、YELLOW、芝浦GOLDの話で盛り上がる。女性だからという理由で嫌な思いをしたことがない人ばかりを集めてしまったようで、「女性というのを言い訳にしない。」と言い出す人まで。宇川氏は「美人DJ言っちゃいけないんだって。」と不満がある様子、出演者も同意したように受け流す。「美人」という表現を用いることが良いか悪いかではなく、美人と不美人が夫々がどのように感じるかを議論し、様々な立場の人の気持ちを理解することが多様性の理解だと思うのだが。YELLOW、芝浦GOLDの話を引き合い出し「昔は良かった。」と話したがるテクノハウスおじさんは腐るほど目にしてきたが、"昔は良かったおばさん"もクラブ業界に溢れていて、その層が中心となってクラブ業界を動かしていることがわかってしまい愕然とした。仕事や子育てに忙しくクラブにも行けない。おそらくゆっくりミックスを聴く時間もないだろう。数年いやそれ以上前に名を馳せた外タレDJが毎月同じ時期にやってくる。親交も深まり、次の年も呼んであげる。腕の落ちた外タレより、よっぽどスキルも選曲センスもある才能豊かな若手がゴロゴロいることを、箱のブッキング担当者は知らない。ブッキング担当者がいかに費用を抑え良いDJを呼ぶかで、その地位を競うこともないのだろう。これは本当にショックだったが、薄々感じていたことが当たっていてすっきりもした。それに比べ、ライバル店でもある他のクラブや地方にも出没し、今一番人気があるDJやミュージシャンをピークタイムにもってくるclubasiaのスーさんは本当に凄いんだなと改めて感心した。ライブハウス層をクラブに取り込もうと始めたとき、クラブでモッシュピットなんてと叩かれたらしい。オタクをクラブに連れてきてしまったtomadさんやMOGRA 秋葉原も風当たりが強かったのかもしれない。外タレ無しでVISIONを超満員にするマサキフジタさんも、古い考えの人に囲まれてよくあそこまで実現されたと思う。
"CHICKS ON A MISSION"の一人
「昔クラブにいた、「とにかく若い子には(ナンパ目的抜きで)気軽にお酒をご馳走するカッコいい金持ちの大人」に、ここしばらく全然出会えていないのは何故。。。」
クラブ関係者、特に専業DJはあまりにも世の中の景気を理解していない。就職氷河期、ITバブル崩壊リーマンショック、派遣切り、最近では大手の早期退職募集という名のリストラ。クラブでお酒を振舞っていたお金持ちが、どれだけ今生き残っているだろう。これからクラブに来る10代後半の親世代にもあたる。奨学金という借金をかかえ東京で一人暮らし、クラブのエントリー/酒/交通費合わせて6千円として、毎週通えるほど余裕があるのは限られた人なのではないか。

誰が日本のテクノハウスシーンをダメにした? 2/3 ~年功序列~
誰が日本のテクノハウスシーンをダメにした? 3/3 ~ドラッグ~

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