いち早く配信に移行したオーストラリアのクラブシーン 成功と次なる課題

DJ配信市場の飽和、収益化の難しさ、著作権問題、閉鎖期間中のファンの繋ぎ止めなど、日本でも課題は同じだと思うので、参考になればと思い和訳した。海外も含めると、現在DJ配信は供給過剰状態。こういった成功例や課題をオープンに議論する番組があると、面白くて問題解決にもなるのでは。以下、和訳。

"パーティを続け"コロナウイルス封鎖の間も確実にDJに支払いがされるよう、ライブ配信に切り替えるナイトクラブ
Nightclubs are turning to live-streaming to 'keep the party going' and ensure DJs are paid through the coronavirus shutdown | Business Insider

・ナイトクラブは、コロナウイルス封鎖の間パーティを続ける方法として、ライブ配信セッションを主催しています。
・Business Insider Australiaは、One Six OneとPoof Doofと、彼らの新しいライブ配信イニシアチブについて話しました。
・これらのナイトクラブのいくつかは、DJが収入を得続けるよう、DJへの支払いを確保していきたい考えています。

コロナウイルスの蔓延を防ぐためにオーストラリアでナイトクラブが閉鎖された後、ビジネスオーナーはライブ配信に切り替えました。

オーストラリアのいくつかの会場や組織は、社会的距離の措置を守りながら、FacebookInstagram、Twitch、またはYouTubeのいずれかを利用して、DJセットをライブ配信しています。 メルボルンのナイトクラブThe Breakfast Club、シドニーの77のナイトクラブで行われているシドニーのThe Stonewall HotelとThe House of Minceの24時間ライブ配信を含め、いくつかの箱が参加しています。

「ナイトクラブやプロモーターが一丸となって、本当に素早くオンライン配信を開始しました。」インクルーシブイベントプラットフォームであるHeaps Gay、そのクリエイティブディレクターであるKat Dopperは、Business Insider Australiaに語りました。
Dopperは、シドニー市のナイトライフアドバイザリーパネルにも参加し、the 2020 Sydney Gay and Lesbian Mardi Grasのクリエイティブディレクターでした。

オーストラリアのElectronic Music Conferenceのエグゼクティブプロデューサーであり、Music NSWの理事であるJane Slingoは、Business Insider Australiaにメールで、コミュニティのモチベーションが高まり、オンラインで創造力を活かすことができたのは「素晴らしい」と語りました。

彼女は言います。「本来、エレクトロニックミュージックコミュニティの人々はデジタルネイティブです。音楽業界のこの一帯は、COVID-19のかなり前から既に、ライブ配信イベントの歴史があります。BoilerRoom、Cercle、Worldwide FMイベントのようなグローバル配信イベントです。 ですから、生活がより恒久的にオンラインに移行するように、DJやクラブナイトが配信においても、いかに迅速であったかをしっかりと印象付けたことは、驚くことではありません。

Poof DoofとOne Six OneのSwitchでのライブ配信

メルボルンを拠点とするクィアナイトクラブのPoof Doofは、コロナウイルス関連の封鎖により完全に仕事がなくなった後、ライブ配信に切り替えました。

オーナーのAnthony Hockingは、Business Insider Australiaに、毎週土曜日の夜に8年以上営業してきたと語りました。オーストラリア全土でショーを開催し、パース、アデレードブリスベンシドニーで連続公演を行っています。 2019年11月には、メジャーな会場グループMerivaleと提携し、シドニーの象徴的なナイトクラブIvyでイベントを主催しました。

「正に好調でした。」とHockingは言い、毎晩2000から3000人の人々が来場するほどだったと説明しました。 それに加え、Poof Doofは、コロナウイルスの発生により全てが休止する前、Mardi Grasイベントの大きな連続公演にも参加していました。

彼は言いました。「ほんの一瞬でクローズされましたが、こんなにも素晴らしいMardi Grasキャンペーンと素晴らしい夏を過ごせたことは本当に幸運でした。私のプロモーター、DJ、パフォーマー、経営陣、業界の誰もが、仕事にあぶれています。」

しかし、「パーティーを続ける」ため、毎週土曜Facebookライブ配信で、オンラインサービスの方法をとることに決めました。また、その後、ソーシャルメディアにフル配信を投稿し、1週間は巻き戻して視聴できるようにしています。

「まだ続けており、8年4か月の間に土曜日を抜かしたことはありません」とHockingは語りました。 ライブストリームは、午後9時から午前2時まで行われ、Jimmi the Queenがホストしています。 クラブには複数カメラのセットされ、DJがそれぞれ1時間のセットを行います。

そして、2週間前の同社の最初の配信は、32,000人以上の視聴者を獲得し成功したと、Hockingは語りました。

人々は…自宅でドラァグの衣装に身を包み、服装の写真を送っていました。」と彼は言い、オンラインには多くの積極性があり、「それは素晴らしかった」と付け加えました。

ビクトリアのナイトクラブOne Six Oneもライブ配信に切り替えました。 最初のライブストリームDJセットは、土曜日の夜6時から深夜まで開催され、4人のDJが参加しました。

One Six Oneのスペシャル プロジェクトマネージャーであるZok Szoekeは、クラブがソーシャルメディアで、何をかけてほしいか音楽リクエストをするよう呼びかけたと、Business Insider Australiaに語りました。両親が子供たちも一緒に踊るために何かを望んでいたので、イベントは午後6時より早く始めることさえしたと、彼は付け加えました。

金曜土曜を通して、一度に30人から60人の人が参加し、ナイトクラブの視聴者は合計で約500人でした。

One Six Oneは今週の土曜日にもう一度ライブ配信を行う予定ですが、社会的距離のルールは過去に絶えず変化しているため、Szoekeは、更なる変更があった場合の計画を立てています。

「基準や条件は、少しずつシフトし続けます」と彼は言いました。 また、Szoekeは、DJがリモートでも作業できるようにすることを目指しています。

Szoekeはまた、ZoomやHousepartyなどのアプリでユーザーがお互いを見ることができるようにして、ライブ配信をよりインタラクティブにしたいという彼の希望を述べました。 「私たちは、視聴者を私たちの目の前に画面に表示できるような場所に引っ張りこめればと思っています。」と彼は言いました。

ライブ配信の収益化の課題

Dopperは、これらのライブ配信を利用する箱が直面する、主な課題のいくつかを強調しました。

1つ目は、特に初心者に対して、必要とされる様々なタイプのテクノロジーをナビゲートできることです。 2つ目は、スポンサー持ちか、click per view(広告視聴のクリック)か、クラウドファンディングかにかかわらず、収益化する方法です。

誰もが同じことをしているので、かなり飽和した市場になるでしょう。」と彼女は言いました。

Slingoは、これらのイベントの収益化の難しさについても懸念を示しました。 「音楽セクターが危機により特に大きな打撃を受け、アーティスト、クリエイティブ、技術スタッフが必死で働いて稼ぐ必要があるとき、これらの配信を生み出すために無償の労働を提供すべきという前例がある。」と彼女は言いました。

それにもかかわらず、Slingoは、24時間のHouse of Minceで、GoFundMeを通じ、何とか$9,000以上(約60万円)の資金を調達できたと語りました。これを、プロモーターが、配信に関わる全ての人々に平等に分配しています。

クィアコミュニティにある程度の収入を提供するためのものだったことを、Hockingが付け加えた上で、Poof Doofは、DJとパフォーマーに支払いました。

彼は言いました。 「全DJと全ドラァグパフォーマー、彼らは全てのブッキングを失いました。少しのキャッシュフローも全くありません。少なくともDJとパフォーマーに支払うことができれば、家にいる人々に本当に楽しいプロダクトを届けることができます。」

同社はまた、配信上にアーティストを支援するために$5から$20の範囲で送金できるPayPal寄付リンクを貼りました。Red Bullや飲料会社のLionを含むPoof Doofの協賛も、クラブが閉鎖されている間、ライブ配信をサポートします。

「これまで私が資金を提供してきましたが、協賛企業が維持費用を提供しようとしてくれているようです。」とHockingは言いました。

One Six Oneは、Facebookライブ配信を、無料で開催しませんでした。 その代わり、SzoekeはVimeoページをセットアップしました。これは1配信あたり2ドルが視聴者にかかります。全ては、確実にDJに支払われるようにするためです。

彼は語りました。「DJに支払うことができればという考えでした。もしそれが構築されれば、プレイしているDJに利益を分配し、少なくとも彼らにいくつかの仕事を与えることができます。 軌道に乗り、需要があれば、(週に)3、4晩できます。そして、これにより、現時点で無料ギグの場所を、効果的に完全な勤務表に戻すことができます。」

Facebook経由でライブ配信するときのライセンス法について懸念

Szoekeは、Facebookライブ配信を行うことを検討したときに、ライセンスに関する懸念を指摘しました。

彼は言いました。「私たちはFacebookについて考えました。なぜなら、それがみんながやっている場所だからです。しかし、私たちは著作権にも注意を払い、音楽のライセンスを支払いたいと考えています。 これは現時点では実際強制されているとは思えませんが、著作権が関係しており、繋がりのある全員が支払いを受ける必要があることを認識しています。」

Slingoは、ライセンスの問題も提起し、配信がライセンスに準拠していることを保証するモデルが存在する必要があると指摘しました。

APRA AMCOS(組織がメンバーから音楽を演奏および再生することを許可する音楽著作権団体)は現在、FacebookInstagramYouTubeでのライブ配信の公開権について、包括的なライセンスオプションがあると彼女は言いました。 組織は、コロナウイルス大流行の中で、
商用および非商用のオンライン配信に関するアドバイスを含む、オンラインライセンスの改定を追加することもしました。

ただし、Slingoは、特にこの時期に、ライセンスがいかに複雑になるかを強調しました。

彼女は言います。「マスター(レコーディング)権があり、DJがライブ配信でプレイする際に特に普及しています。PPCA (レコード会社とレコーディングアーティストを代表する非営利団体)には、APRAと同じ包括的ライセンスオプションはありません。代わりに、レコーディングの使用に関するレコードレーベルのライセンス クリアランスを参照しています。」

「1人のDJが2時間のセットでプレイするレコードの数を想像し、それをライブ配信でのDJフルラインナップで掛け算してみて下さい。それは地雷原(潜在的問題が多い状況)です。」

それでもなお、Slingoは、この問題を、音楽業界が、新しい、つまりもっと簡素化した、ライセンスに対する支払モデルを作る好機だと捉えています。

「さまざまな著作権者とそれぞれの著作権収集団体がクラブ、会場、アーティストと協力し、扱いやすく公正な新しい世界の報酬モデルを作成することを望んでいます。」とSlingoは言います。

「私が今いる期間に対し、COVID-19以前のライセンス支払いモデルを単に適用することは、私の考える解決策ではありません。既に非常に多くの人が混乱し、ライセンスに準拠するために何を導入する必要があるかを認識していません。 ライセンスプロセスは劇的に簡素化する必要があります。」

収入源無しで聴衆を維持しようとすること

Dopperによると、アーティストは"弾力性のある"束であり、自分の仕事を生み出すのに慣れていると言います。 しかし、彼らの仕事が完全になくなった今、それは挑戦になりました。

彼女は言いました。「私たちは最小限の予算で自分の仕事を生み出すことに慣れており、長い間それを行ってきました。 だから、それは私たちにとって全く新しいことではありません。しかし、今年の残りの期間、私たちの全ての仕事がほぼ完全に一掃されたということは、私たちは本当に決断しなければならないことを意味します。」

Dopperは、今の最大の要因は、収入源なしに、Heaps Gayが一生懸命構築してきた聴衆との関係をどうやって維持するかが、彼女にとって最大の要素だと言いました。

Dopperは説明しました。「私のアーティストの友人は、実際それを本当によく説明しました。私たちのほとんどが、流砂の上に家を建てたようだと彼は言いました。 私たちは聴衆を築き上げるために一生懸命取り組んできたので、ビジネスまたはアーティストとして、違う場所で出演し、聴衆を維持したいと考えています。 私たちの仕事がすべて消えるのを見るのは、とても悲しいことです。」

Slingoは、特に、家庭で非常に多くのコンテンツオプションにアクセスできる人々の長期的な影響について、聴衆に関してと同じ見解を共有しました。

彼女は言いました。「多くのアーティスト・箱・プロモーターは、非常に健全なソーシャルメディアの数を持っています。多くはニッチですが、地元のクラブやエレクトロニックミュージックカルチャーにとって、非常に重要です。 ライフラインとして配信を検討しているが、大規模なデジタルフットプリントを持たないアーティストやコレクティブについて、心配しています。彼らは、視聴者数が少ないか、要素としてエンゲージメントが不足していて、既に多くの人が経験している不安を悪化させています。」

「今のところ、ニュースフィードのCOVID-19関連の更新により、これまで以上に視聴者の気が散っている間、非常に多くの個々のパーティーが注目を集めるための、ある意味で、津波のような競争のように感じています。」

社会的距離ルールが終了するまでいつまで続くのか、強制閉鎖に逆戻りするのかわからないので、ナイトクラブや芸術業界の人々が、先を見越すのは難しいことです。

Dopperは言いました。「それは、芸術業界にとって我々が予想できない最大の影響になるでしょう。」

「大規模イベントを行うために、いつ会場で予約するべきかわかりません。」

以上、和訳はここまで。

文中、子供と一緒に踊りたいというニーズに適応した例があった。以前ブログでも紹介したMark Kanemura、彼は、自宅隔離で運動不足になりがちな人々のために、小さな子供も参加できる時間に、インスタグラム ダンスパーティをを開催している。Mark Kanemuraがいつものように仮装し、ダンスのインストラクターとなって、音楽と振り付けを配信してくれるもの。彼自身も仕事がキャンセルになっている状況だろうに、人々のために楽しい時間を提供している。
https://www.instagram.com/mkik808/

何度も書いている話だが、私がクラブに行ってみたのは、配信を観たのがきっかけだった。どうしてもこの人たちのライブを観たいと思い、怯えながら渋谷のホテル街を抜け、クラブに行ってみた。情報を持ち合わせておらず、人が少なく空いているスピーカーの前にいてしまい耳を傷め、副流煙がきつくなってからは、自宅でもDJミックスを楽しませてもらっている。
クラブやDJの人は、クラブミュージックが好きでも、クラブに来れない人のことを考えたことがあるだろうか。聴覚や呼吸器の問題でクラブの環境に適応できない人、車いすや身体的な問題で来れない人、地方の居住者や未成年、BoilerRoomなどDJの配信配信は、あらゆる人に平等だ。わからない曲名やDJ名は、コメント欄の親切な人が教えてくれる。バーカンでなめられて、粗雑な扱いを受けることもない。家だからまったり聴くかといえばそうとは限らず、人目を気にせず奇妙なダンスをして、ストレスと発散することもできる。
配信は、現場重視の人にとっては、キャッシュを稼ぐための一時しのぎかもしれないけれど、クラブに行くことが難しい人にとって、クラブミュージックとの大事な接点となっている。
DJの内容ではなく、人や会話の魅力で集客していたDJには、配信は厳しいかもしれない。ルックスとか話し上手とか、どこに住んでいるかも関係ない、ミックスだけが勝負のフェアな世界。性格や政治思想がどんなだから知らないが、上手くて他のDJと違う独自性のある人のミックスは、何度でも聴きたくなる。クラブでは盛り上げることができるのに、配信ではいまいちの人は、DJの実力不足なのでは。

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