ROSALÍA - F*cking Money Man ルーツとフラメンコへの情熱

歌って踊れてがっつりプロデュースまでこなすRosalía、今回は彼女の最新EP『F*cking Money Man』について。
ROSALÍA - F*cking Money Man (Milionària + Dio$ No$ Libre Del Dinero)
EPは『Milionària(億万長者) 』 『Dio$ No$ Libre Del Dinero(神は我々をお金から解放する)』の2曲から構成される。『Milionària(億万長者) 』 の映像は昔はよくあった一般人が出演しゲームで賞金を獲得できるテレビ番組のパロディ。散財の仕方とお金への執着が歌われている。『Dio$ No$ Libre Del Dinero(神は我々をお金から解放する)』は闘牛士風の衣装で、お札の雨が降り炎に囲まれる中で歌っている。歌詞は『Milionària 』と正反対で、お金を燃やす、お金が泣いているとか毒だとか。 リリース日、スペインの新聞El Paísに一面広告を出した。拝金主義への批判とも受け取れる。メッセージもやり方も、日本の国民的人気女性ポップシンガーがそんなことするのはちょっと考えられないからかっこいい。

『Milionària(億万長者) 』 はスペイン語ではなくカタルーニャ語で歌われている(Rosalíaはカタルーニャ州出身)。安室奈美恵が"うちなーぐち琉球語)"で歌うみたいなこと。しかし歌詞の中にスペイン語が混じっているとして、言語純粋主義者に怒られてしまう。cumpleaños(誕生日)をブロークンにしたcumpleanys(カタルーニャ語ではaniversari)、escoltada(カタルーニャ語では escortada)、botellas(カタルーニャ語では ampolles)というスペイン語の単語が歌詞に使われている。私はバルセロナがお気に入りでカタルーニャのことも興味もっていたけれど、おそらく世界中にはスペインとは異なるカタルーニャ文化があることも知らない人が多いはず。時代とともに言語は変化するし、これだけ世界中に少数民族言語で発信されるんだからそこまで細かいこといいじゃんとも思う。その一方、祖母が日常的に使っていた「堪忍しとくれやす」といった古い京都弁や大阪弁が好きで、標準語の混じったようなのを聞くとなんだかなぁと寂しく思ってしまう。民族言語ともなれば指摘したくなる気持ちも十分理解できる。この記事の最後「言語論争してるけど"F*cking Money Man"と英語でリフレインされているのを誰も気にしてない。」と突っ込んでるのがちょっと面白い。Rosalíaはメディアでラテン系(Latinx, Latino/Latina)にカテゴライズされることが多いが、Hispanicが正しいという記事。ラテンアメリカは、北米・中南米カリブ海諸国を含むが、スペインなどのヨーロッパ諸国は含まれない。ワーホリでオーストラリアにいて移民の話をするとき、LatinoとHispanicは日本人からすると見た目でわからないし、いつまでたってもうまく区別ができなくて苦労したな。Rosalíaのことを調べる過程で、Hispanicについて考える機会も増え理解も深まりそう。Rosalíaはフラメンコをポップソングにすることで広めるだけでなく、歌詞の中でも敬愛するフラメンコシンガーについて触れたり、フラメンコによくある歌詞表現を用いる などしてフラメンコ文化の認知度向上にも貢献している。MVの中でもよく言っている"La Rosalía"、スペイン語では一般的に人名の前に定冠詞をつけると蔑称となるが、フラメンコ歌手や歴史上の人物には付けるらしい。(カタルーニャ語では親しさを意味するそうなので、そちらの可能性もあるけど。)フラメンコ界でもRosalíaを認めない人がいる。フラメンコはジプシー(ロマ族)の文化だが、Rosalíaはジプシーではないからだ。東京の出身の都会っ子が歌う琉球民謡といったところ。2018年ジプシーの活動家Noelia Cortésは、フラメンコがアートの形をさせられプラスチックでパックされた肉のように売られているのは一種の組織的人種差別で、苦しめられているとした。それに対しRosalíaは、自分のフラメンコに対する情熱の証として、フラメンコを学び大学で学位まで取得したことを挙げ、批判に対しディフェンシブに答えていた。だが最近は、ジプシーにとってフラメンコはとても重要で、素晴らしいジプシーのフラメンコアーティストがいることを踏まえた上で、フラメンコギター奏者のトップPaco de Lucía、女性フラメンコの象徴とも言えるLola Floresは共にジプシーではないことを認めるべきだとオフェンシブに主張している。「音楽は人種やテリトリーを超える」と。Association of Feminist Gitanas for Diversity (多様性のための女性ジプシー協会)はRosalíaを目立ちたがり屋だとはねつけた。Rosalíaが資本主義の構造でしかないとか、フラメンコを莫大な予算を投じたキャンペーンの装飾品にしかしていないという意味を読み取ったとき、Rosalíaは憤る。「アーティストがポップになるのは、人々がそれを選ぶからだ。」「ビッグなポップスターになることを夢見ることはできるけれど、そのポジションに押し上げるのはリスナーだ。私は有料のマーケティングキャンペーンをしたことがなかった。コンテンツが本質で機能する。Malamenteをリリースしたときはレーベルに所属していなかった。私は友達と一緒にEl Mal Quererを作った。1年半以上かけて一緒にプロデュースした。もしあなたがクリエイティブな人間で、制作の中でたくさんクリエイティビティを発揮すれば、おそらく成功するだろう。人々がマーケティングのことを言うとき、彼らは理解していない。人々に(聴けと)強制させることはできない。」成功とお金、F*cking Money Manは彼女のこういった状況から生み出され、人々に問いかけるに至った背景がよくわかる。
Rosalíaは、Billie Eilish, Dua Lipa, Pharrell, Arca, Oneohtrix Point Neverといった錚々たるアーティストとコラボを進行中とのこと、リリースが楽しみだ。

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