国のナイトタイムエコノミー施策に対する提言

国によるナイトタイムエコノミー施策の課題

先の記事でこの1年追ってきた国(観光庁)のナイトタイムエコノミー施策をまとめたが、振り返って思うこと。
①べニューやウェブサイトなど入れ物を新しく作るばかりで、中身のコンテンツがない。
②単発大規模なイベントが多く、ローカルが中長期的に継続して潤わない。
③代理店、大手芸能事務所が潤い、個人のアーティストに落ちない。
③風俗ではないナイトカルチャーの価値を理解している人が参画していない。
④中長期視点で、将来的に経済を生み出す文化や人に投資されていない。

国が数値目標を設定したので国や都は予算を確保したが、使い方がわからず、とりあえず単発イベントに注ぎ込んでしまっている。ナイトタイムエコノミー施策は日本国の経済が回り経済成長するためであって、大手の一部の人が儲けて、海外ブランドを買っていては経済が回らない。

国や東京都のナイトタイムエコノミー施策への提言

批判ばかりしても仕方ないので、だったら何にどう税金を使えば、長期的にインバウンドの夜間娯楽消費が伸びるか、提言をしたい。

政府目標値KPI 2020年
夜間を含む娯楽・サービス費1兆円増(訪日外国人1人当たり2.5万円の消費増)

多言語による小箱とローカルDJの紹介コンテンツ

・既存メディアとコンテンツの質

税金を投入してウェブサイトやメディアを立ち上げたはいいが、コンテンツが酷い。既に民間で豊富で優良なコンテンツを持つサイトがあるので、そこに予算を回してほしい。
<NOCTIVE>
コンテンツが少なく、質が低い。VENTの外国人DJのイベントばかり宣伝して、盛況な日本人イベントは宣伝しない。Wikipediaをコピペしたような文章とフォトグラファーの写真を借用したツイート。Time Out Tokyo(英語版)に東京のほぼ全ての小箱情報が網羅されていて、銭湯での入浴マナーなど外国人客とのトラブルを避けるためのコンテンツまである。NOCTIVEを維持費用を、Time Out Tokyoでのコンテンツ政策に資金を回してほしい。
<MUSIC NIGHT OUT Tokyo>
観光庁が支援しているミュージックバーのサイト。ミュージックバーや小箱を一覧にしただけで(主要小箱が抜けている)、コンテンツがなく、サイトも重く、活用されるとは思えない。Time Out Tokyo(英語版)に、特集ページを追加するだけで良かったのでは。
<JAPAN RAINBOW NIGHT OUT>
観光庁のモデル事業。ゲイバーしか載せておらず年齢を指定していて、LGBTフレンドリーというより差別的。モデル事業として不適切だと思う。

・ライターの質

Catherineさんのブログは、日本のインディーズアーティストを丁寧に自分の言葉で、オタクなのでとても詳しく紹介してくれている。東京だけではなく、地方のローカルなスポットも。日本人の私でさえ地方に行ってみたくなるような魅力的な紹介文。盛った写真をインスタに投稿するインフルエンサーとは違う。インフルエンサーの写真を見てやって来るお客さんは、映える写真を撮ることしか興味がないけれど、オタクのブログを読んでくるお客さんは、文化を理解して楽しんでくれる。こういう方に記事を書いてほしい。
Resurface to Reality – æsthetic archive, event, & music reviews

・クラブやミュージックバー紹介の動画コンテンツ

海外にも知名度のあるDJが地元を紹介する、この映像シリーズは良かった。リスニングバーの紹介も、RedBullやCocaleroではなく日本の酒業メーカーがスポンサーである点も良かった。あそこまでの完成度は必要なく、むしろもう少し気楽な方がよいかもしれない。YouTuberなどの既存の豊富な人材とコラボすればコストを抑えて数を制作することができる。小箱や小箱のパーティを紹介する映像コンテンツを支援してほしい。特にアニクラとJPOPイベントを。
Japan City Guides: Tokyo

Japan City Guides: Kyoto and Osaka
Japan's Hidden Listening Bars: SHeLTeR | Resident Advisor x Asahi Super Dry
Japan's Hidden Listening Bars: Bridge | Resident Advisor x Asahi Super Dry

・一般的な日本のクラブのルール紹介

クラブ初心者の人に必要な情報をまとめた記事は毎週600人に読まれている。日本語のみで無名ブログにも関わらず。薬物や喫煙ルール、お酒の提供時間は国によって異なる。日本のクラブ共通のルールを動画やイラストで多言語で説明したものがあると、外国人旅行者にとっては便利で、トラブル回避にもなるはず。

・パーティレポ、DJの紹介記事

私のブログのパーティレポやDJの紹介は、特にギグの前に、よく読まれている。今時みっちり文章が並んだブログなんてと思われるかもしれないが、意外と読んで下さる人は多い。箱側のパーティレポは、都合のよいところだけ切り取った写真だけであったり、宣伝色が強く派手な言葉を並べただけのことがほとんど。宣伝色が強くて読む気にならないし、実際ほとんど参考にならない。
ツイッターのタイムラインには、オリジナリティのある面白そうなパーティ、DJにこだわりをもって続けているようなパーティが並んでいる。もっとイベントレポートやインタビューをして英訳してあげれば、外国人観光客と繋げることができる。Time Out Tokyo(英語版)で、週2本くらい小箱のパーティレポやローカルDJインタビューをやってほしい。Time Out Tokyo(英語版)でダメなら、NOCTIVEで。

アニクラの紹介

好きなアニメのTシャツを着てアニクラに来た外国人を見て、DJがそのアニメの曲をかけてあげると喜ばれるらしい。コスプレやサイリウムも楽しめる。
MOGRAのアニクラDJは、日本人テクノDJより海外遠征をして、大きな会場でDJしている。最近色んな海外アーティストをフォローしているけれど、みんな子供の頃日本のアニメを見て影響を受けていて、そうでないアーティストを見つけるのが難しいくらい。20年以上かけてすっかり世界に広まったアニメの力を使わない手はない。アニクラは飽和状態でお客さんを取り合っている状況らしいので、海外客を取り込むのが良いと思う。観光庁が支援しているメディアはアニクラを全く取り上げないけれど、コンテンツを増やす。

・KPOP、ターンテーブリズム

世界的にもKPOPの勢いはすごくて、海外の人からすると日本も韓国も似ているし、日本でもKPOPイベントは大盛況なのだから、楽しんでもらえばよい。DJ Koco a.k.a. ShimokitaさんやDJ松永さんなど、世界的に通用するターンテーブリストもいる。テクノやシティポップだけでなく、日本独自のコンテンツは多くある。Time Out Tokyoの「週末行くべきパーティー5選」のような形式で、日本でしか楽しめないパーティを厳選して紹介してほしい。紹介するメディアがあると、紹介されようとしてイベント側も質も上げてくるはず。

箱やDJのプロモーション力強化支援

ウェブサイトや一覧という箱を作っても、コンテンツが最新で更新されていかなければ活用されない。箱やオーガナイザー自体が外国人観光客にイベントのプロモーションをできるようサポートする。
シティポップやアニクラの外国人観光客のニーズはあって、イベントもたくさんあるのに、マッチングできていない。内輪向けの読めないフライヤー、ジャンルを書かない、箱の名前も見つからない、もちろん日本語のみ。日本人の私だって、希望とマッチするイベントを見つけるのは難しい。客目線がなくて、本当に蹴っ飛ばしたくなるくらい下手でもったいない。
税金使ったメディアが代わりに上手に紹介してあげられる数は限られているし、選択により不公平が生まれる。箱やDJ自身が発信力を高めるようにすれば、やる気がある箱やDJ全部ががプロモーション力を上げることができる。例えば、箱の喫煙・ロッカー・トイレの情報をまとめただけの記事が読まれ続けている。たったそれだけの情報を必要としている人が多くいる。(ちなみに、リツイートばっかりしてるとミュートされて読まれなくなりますよ等のノウハウは、私のブログにも書いている。)
観光客向けプロモーション力を高めれば、国内向けのプロモーションも上手くなるはず。経済が回る。

多言語対応支援

渋谷エンタメフェスのウェブサイトの自動翻訳は悲惨だった。自動翻訳を使ってもよいが、誤訳され易い日本語ばかりを使っていた。箱のウェブサイトの英語もだいたい酷い。クラブ内注意書きやドリンクメニュー、クラブで必要な文章は決まっているのだから、各店舗が四苦八苦して変な外国語にするより、テンプレートを作って提供してあげれば効率が良い。

外国人向けシティポップバー

日本で日本のシティポップを聴きたいニーズはあるようなので(現地でその音楽を聴きたい気持ちはよくわかる)、海外で人気のある有名なシティポップが流れ続けているミュージックバーがあるとよいかもしれない。アニソンイベントが多い箱は既にあるので、ニーズと箱(イベント)を繋げるだけで良い。
Any bars in Osaka/Kyoto/Tokyo that solely play 80s Japanese city pop? : JapanTravel

日本の景観活用

・Cercle誘致

Cercleは世界の絶景で有名DJやアーティストがプレイするシリーズ。チャンネル登録者数100万人以上。単なる観光PRの動画と違って、プレイが続く1時間半や2時間景色を見続ける。
Cercleの動画、字幕でインタビューが表示されるようになっていた。FUJI ROCKにも出演したNicola CruzのCercleの動画を観ていたら、苗場の宣伝をしてくれていた。(29:44あたりから)
「今年日本で素晴らしい場所を知ったんだ。苗場と呼ばれる山でフジロックというフェスをした場所。富士山じゃなく。とても素晴らしい景色のある、とても素敵な。全体的に日本は美しい。いつかCercleと一緒に日本に行きたい。」

アジア初のCercleはシンガポールのマリーナベイサンズ。日本にはお城・神社仏閣・大仏、富士山・洞爺湖屋久島・軍艦島、絶景だらけ。日本でプレイしたいと言ってくれてるアーティストがいるのだから、是非誘致してほしい。単発のイベントに税金を投入しても、1回きりで日本にいる外国人にしか効果がないが、こういうコンテンツは世界中で何年も視聴されるので、宣伝効果が広く長く続く。費用対効果が高い。

新宿ゴールデン街、高架下

香港の九龍のような風景は世界的に人気で、海外のMVでも香港の露店やそれを真似たセットがよく出てくる。新宿ゴールデン街のような細い路地にごちゃごちゃとした古びた店が並ぶ景色は人気。神戸 元町の高架下モトコーも70年の歴史があり、戦後の闇市の風情を残すディープスポットだった。古くからのテナントを追い払って、真っ新の駅ビルみたいにしてしまうなんて。築地もつぶしてしまう前に、レイヴができたら歴史に残っただろう。

・近代建築

ヨーロッパでも外側だけ残して中身は新築か再現というのはよくある。「日本のBerghain」と自慢できるのに。

 明治の近代建築 旧三菱銀行神戸支店(旧ファミリアホール)を取り壊しておいて、新たに高級ホテルを作るとか考えられない。ヨーロッパの人は歴史のあるものに価値を感じるし、世界中旅行して年金ももらえるバブル世代にも受けそうだし、富士屋ホテル奈良ホテルのように残せるように支援すれば良かったのに。
財投で地方に高級ホテル50ヵ所新設は公正な政策か?

・京都南座

京都南座でのDJイベントは動画でしかみていないけれど、立地以外、南座の良さを一切生かしていなかった。歌舞伎座ならではの幕や室内装飾、それらを引き立てたる照明があり、他にはない音の鳴りの良さがあるはず。あの演出ならWORLD KYOTOが合っている。

差別や異文化理解の促進

日本のクラブは男性社会で、ゲイコミュニティもマッチョで排他的なところもある。フライヤーで使う画像やコラージュの仕方なども、無自覚で差別的だったり人や文化を傷つけるようなものがある。

今年急速に意識が変わってきたり多様性を理解しようとする動きがあったけれど、文化や宗教に関する理解はまだまだ。日本のお笑いのネタなど、SNSやっている人はまだ差別と認識できても、「何がダメなの?面白いのに。」という人は結構多い。容姿や自虐ネタとか、ブサイクいじりとか。アルコールや服装、NGなジェスチャーなど、全ての国や文化を知ることはできないけれど、何がなぜダメなのか、事例をシェアできる仕組みがあるといいと思う。

炎上すれば築き上げてきたブランドも一瞬で失い、回復のためにはコストもかかる。

日本のクラブカルチャーを育てる

アムステルダムマクドナルドが、お店に来てくれるティーンに日頃の感謝を込めて、ティーンの限定クラブイベントを開催している。外国人観光客だけでナイトクラブは維持できない。日本のクラブカルチャーやクラバーを育てないと。10代が安価で使えるDJブースを開放するとか、DJ教室、安全なDJイベントの開催に支援をする。べニューやウェブサイトという箱物ではなく、人に税金を使う。
Club McDonald's 2019

著作権侵害対策、デジタル配信推進

ナイトタイムエコノミーにとって音楽は必要不可欠で、世界的に有名なDJはヒット曲を持っていることが多い。日本の音楽が経済活動の資源になる。
シティポップはもちろん、クラブでかける音楽も著作権侵害はひどい。YouTubeにはシティポップを含む日本の名歌謡曲があふれていて、日本の最新の音楽より多く聴かれている。デジタル配信されておらず、音源を入手できない海外の人が、ファンカルチャーのような形でYouTubeに上げている場合もある。確かにそれらはシティポップブームに貢献した。けれど、音源をそっくりそのまま別の名前をつけて、Bandcamp等で販売されていることもある。音で曲名を検索すると、オリジナルではなく違う曲名がヒットする。異なる曲名のContent IDに紐づけられる。先にContent IDを取得した方に、使用料が流れ続ける。日本の音楽がきちんとContent IDを取得すれば、不正アップロードはシステマティックに停止できる。
文化庁 文化審議会著作権分科会「著作権侵害に関する Google の取り組み」
JASRACは管理しているだけだと言って、海外の著作権侵害に対して動いていないように見える。個々のアーティストが、個別に海外侵害者を訴えるのは非常に困難なはず。JASRACは回収した利用料を支払う先がなく、内部留保がたまりすぎて新事業をするようだ。国内から徴収を強化するだけではなく、日本最大の著作権管理団体として、巨額の著作権侵害対策や著作権侵害の被害者を支援すべきでは。そうさせるよう国や政治家が動くべき。今から新しい事業で収益を上げるより、既存の取りこぼしを減らす方が成功率は高い。ミュージシャンに還元され潤えば、また次の経済活動の糧となる、新しい音楽が生まれ易くなる。
海外のシティポップファンも音源がデジタル配信されておらず、仕方なく違法アップロードを聴いている事情もある。費用さえ支払えばワンストップでデジタル配信できるサービスを作る。中高年のアーティストや著作権者は、デジタル配信のメリットや配信しないことの損失を理解できていない人も多く、また手続きも難しいこともあり進んでいないと思われる。
分配保留の著作権料16億円を新規事業に JASRAC
分配保留の著作権料16億円を新規事業に JASRAC:朝日新聞デジタル

若者やクラバーと施策を作る

ナイトタイムエコノミーの議論や施策を練る際に、ナイトタイムに働く人やクラブで現役で遊んでいる人を巻き込む。座っただけでウン万円のクラブにしか行ったことがない議員、クラブをナンパやドラッグをやりに行く場所だと思っている官僚や公務員の人だけで進めない。

私だって提言が聞き入れられるなんて思っていないけれど、こうやって考えて記録しておくことに何かの意味がある。別の国なら、箱やDJが団体作って政治家に働きかけているのでしょう。

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