電算機的 BEST MUSIC 2021年

年間ベストは、結果よりも選ぶ過程に価値があると思う。よく聴いていた時期から間を空けて、他の月に聴いていた曲と比較しながら、改めて向き合ってみる。どれも自分にとっては大切な曲で、簡単に選ぶことなんてできない。でもそこをあえて順位までつけて選んでみる。もう一度丁寧に聴き直すことは、作品を愛しむことの1つではないだろうか。

10月から年間ベスト候補を選び始めていたのに、11月12月もリリースが豊富で、決めるのに難儀した。

2021年は、アイドルに限らずKPOPに幅広くどっぷりとはまりながらも、ベトナム・ラテン・ロシア・ウクライナの音楽もしっかり堪能し、振り返ればとても充実していた。お気に入りのアーティストも増えた。

注目していた若手アーティストが評価されたのも嬉しかった。アルゼンチンのプロデューサーBizarrapは、ラテングラミー4部門にノミネート。同じくアルゼンチンのNicki Nicoleは、Tiny Desk Concertsに出演、Becky G、Nathy Pelusoと共にChristina Aguileraの曲でコラボし、ラテングラミーでパフォーマンスを披露、更にCoachella 2022に出演が決まった。Destiny Rogersの『Tomboy』がBLACKPINK LISAのダンスパフォーマンスビデオに起用され、一気に知名度を上げた。LISAの影響力が絶大であるのは説明するまでもないが、紹介されたアーティストと楽曲の実力がなければ一瞬のバズで終わる。Destiny Rogersは起用された後直ちにリリースを連発し、私のブログのアクセス数から察するに、一過性ではなくファン層を広げたように思う。イギリスのSSW Maisie Petersは、Ed Sheeranのレーベルと契約。日本の音楽メディアがインタビュー記事を出したり、公式日本語訳が出たりして驚いた。Qrionさんも、メディアでの取り上げられることが増えた。Anjunadeepの力もあると思うが、『Monolith』や12曲入りのアルバムリリースなど実力もあってのこと。

ラップとラテン音楽の味わい方が掴めてきた年でもあった。日本のラップは、大体が「アキオ名義」みたいに聞こえてしまって、ラップやHIPHOPはなんと退屈でつまらんと思っていたが、Bewhyを入り口に、自分が好きなラップを見つけることができ、楽しめるようになった。レゲトンのリズムは演歌並みに全部同じに聴こえて苦手だったが、Rita Indiana『Como un dragón』とTokischaに出会ったことで、苦手意識のあった異国の癖の強いローカルフードが美味く感じるような変化が起きた。その過程を経て、Arca『Prada/Rakata』を聴けたのは、自分的には良かった気がしている。

①Đen x JustaTee - Đi Về Nhà (ベトナム

ベトナム旧正月に実家に帰ろうという歌。牧歌的で昭和の日本を感じる。地味ながら、記憶に残る美しいメロディ。紅白歌合戦で全員が合唱しそうなアンセム。Hondaがスポンサーというのも嬉しい。

②Zventa Sventana – Стежки-дорожки (ロシア)

ロシア民謡をアレンジした讃美歌のようなポップソング。高らかに鳴り響くバグパイプに似た楽器音と力強いコーラスのハーモニーが聴きどころ。

オリジナルの民謡は、こちら。聴き比べると、現代風に仕上がっているのがわかる。

③BIG Naughty 서동현 - Bravo 부라보 (Feat. Coogie, GSoul) (Prod. GRAY) (韓国)

高校生にしてJay Parkが設立したHIPHOP/R&BレーベルH1GHR MUSICと契約したBIG Naughtyが歌う人生の賛歌。人生を積み重ねれば深みが増すものではないし、その時の年齢にしか出せない味がある。心に沁みた。

④Maya Delilah - Breakup Season (Feat. Samm Henshaw)  (イギリス)

アコースティックギターを愛する20歳のSSW。まず、ふわりと包み込むMayaの歌声の虜に。Samm Henshawとのデュエットにより、さらにその魅力が引き出されている。そしてMayaは、本当に幸せそうにギターを弾く。その姿に憧れて、若い女の子がギターを始めるのも納得。

⑤Dose & МОТ - 10 Баллов (カザフスタン、ロシア)

カザフスタン出身でプロデューサーから歌手になったDose(Айдос Джумалинов)。しっとりとした歌声と多幸感あふれるコーラスに元気付けられる。

 
 
 
 
 
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⑥John Duff - High Heels feat. Lillias White (アメリカ)

力強いピアノを伴奏に太くハスキーな声で歌い上げるのは、細いハイヒールへの憧れ。ときめき、高揚する気持ちがストレートに表現されている。

⑦BewhY 비와이 - Side By Side 나란히 (韓国)

韓国ホラードラマのサントラ。こんなストリングスががっつり入って4つ打ちダンストラックのようなラップがあるのかと驚いた。BewhYきっかけで、K-HIPHOPを掘るように。お気に入りのアーティストが兵役に入ってしまうという初めての体験も。

⑧WayV 威神V - Action Figure (中国)

K-POP男性アイドルグループの中で、しなやかで大人っぽい歌やダンスをするWayVがかなり気に入っていたのだが、メンバーの不祥事でフルメンバーで活動できなくなり、年末もこの曲がライブで披露されることもなく、とても残念だった。複数のファンに手を出すというアイドル御法度と言え、相手は未成年でもなく犯罪でもないのに、日本とは違ってさすが厳しいと実感した。ルーカスの低い声があってのこの曲。

⑨ D-Hack 디핵, PATEKO - OHAYO MY NIGHT (韓国)

リリースは去年だが、TikTokで火が付き、チャートを逆走した。タイトルのみならず、MVは日本で撮影、日本語字幕を入れるほど日本文化好き。反日感情もある韓国で、aespaやNCTと並んでチャートインしている光景は、田舎の弱小チームがプロと肩を並べたような気持ちよさがあった。TikTokでは、踊れるメロディや共感できる歌詞があれば、新旧関係なくシェアされるので、今まで権威によりフィルタリングされていた音楽にチャンスをもたらしていると思う。

⑩ Bizarrap, PTAZETA || BZRP Music Sessions #45(アルゼンチン、スペイン)

BZRP Music Sessionsは、アルゼンチンのプロデューサーBizarrapが、Tiny Desk Concertsを参考に、小さなスタジオでローカルアーティストと始めたシリーズ。2.8億回再生など、1億回再生が10本以上ある。アルゼンチンに留まらず、スペイン語圏やスペイン語ができるアーティストとコラボしている。BizarrapはEDMやクラブミュージック好きなこともあり、ラテン語圏で人気のレゲトンと比べ、テンポがよく、ノリの良いメロディがあり、ダンサブル。スペイン語は話しているだけでも歌っているかのように華やかだが、それがラップとなると一層賑やかになる。このシリーズではローカルアーティストも起用しているが、距離の離れた国の売れ始めのアーティストとのコラボしたり、ある程度知名度のあるアーティストの別の面を引き出し新たなファン層を獲得することにも一役を買っている。女性アーティストの比率も高い。アルゼンチンという南の小さな国で、小さなスタジオでのセッションで、ラテングラミーに4部門ノミネートされるまでになった。適当にやってバズったのではないので、日本のベッドルームプロデューサーの方々も参考にできることがあるのでは。

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