Dorian Electra ハードスタイルに中世やファンタジーを取り込む

Resident Advisorの特集記事に、Dorian Electraの話が。英語の原文が首をかしげてしまうところがあって、何度か訳すのを止めようかと思ったが、なぜ中世文化やファンタジーを用いたのかが理解できる内容で、とても興味深かった。

When Medieval Mysticism Conquers the Dance Floor · Feature ⟋ RA

人里離れたイギリスの城で、My Agendaのパートを書いたDorian Electraはこう話します。「特に多くのハードスタイルの音楽には、まさに中世やバロックに聞こえる実に巨大で壮大なコード進行があります。戦っている兵士のような、こういった極端な即座の増強は、剣を振り回したりオカルトの儀式を行うのとさほど違いのないディオニソスのスリルを表しています。「中世やファンタジーといった更にドラマチックなビジュアルと組み合わせると、あまりに壮大で極端で馬鹿げているので、自己認識を示さざるを得なくなります。」と付け加えました。「壮大さを、若干ニヒルに達観しながらも、深い親しみを感じる振れ幅ををリスナーに提供します。少なくとも、私はそのように見ています。卑屈な態度の先に。」

注釈1
「Like a soldier in combat, such drastic intensification of the immediate presents a Dionysian thrill not too dissimilar to wielding a sword or performing an occult ritual.」
the immediate (主語) presents (動詞) a Dionysian thrill(目的語) 
immediateは形容詞なのですが、主語となる名詞がなかったので、immediacyと解釈して訳しました。

注釈2
「Beyond based and cringe.」
basedも形容詞で、こちらもまた形容する対象の名詞がなく、baseのタイポか迷いましたが、判断つきかねたので、訳していません。

ファンタジーの美学により、自身の物語を紡ぐ力を持つ場所である代替現実を創造するのに、ケルト族や民話のビジュアルを用いるというふざけた歴史修正主義が許容されると、Electraは説明します。この仮想世界は、もちろん、特にセクシュアリティジェンダー流動に関して、現実より遥かにインクルーシブ(包含的)で多様で、Z世代の10代にとって紛れもない大きな原動力です。多くのクィアの人たちにとって、特に若くクィアがどんなものか分からない頃には、ファンタジーのようなものに没頭するのは、至極当たり前のことです。そして、自分の周りの世界と、実は一体感が得られていません。」と(Mordorkoreの)Limは言います。圧倒的に異性愛者で男性の労働者階級であるハードスタイルの文脈に乗せると、若いクィアの若者が、以前はのけ者にされていた場所を取り戻すことが許されます。

中世とファンタジーのビジュアルに関連付けられる極端なマッチョは、クィアのレンズを通すと破壊されます。「私は、誇張された男らしさと、中世の音楽とビジュアルのドラマが大好きです。キャパを極端に超えないものに、飽き飽きしています。我慢ならないのです。」とElectraは同意します。「私は伝統的なキリスト教の合唱音楽とグレゴリオ聖歌が大好きです。宗教的美学やシンボルについても同じことが言えます。歴史的に抑圧するために使われてきたものを取り戻すことができる大きな力があります。特にクィアな人々にとっては。」

疑う余地なく、今起きているこの種の新異教主義の復興は、オンラインにルーツがあります。既にパンデミック以前から若者文化の巨大な要素であったTikTokは、2020年に若い人々が繋がりを求めて殺到し、新たに意義を持ちました。My AgendaやLady Gagaの最新リミックスアルバム『Dawn of Chromatica』で聴くことができる過激主義サウンドのイギリス人プロデューサーCount Baldorは話します。「多くの人々は、家に居て飽き飽きし、インターネットのウサギの巣穴に落ちていきました。TikTokにはコスプレイヤーの巨大なコミュニティがあり、人々は興味を示していると思います。アプリの(ほぼ)ランダム性により、多くの人がおそらく以前は気付いていなかったサブカルチャーと出会っています。」

しかしながら、中世の美学が広まるのは、将来への強い悲観を反映しているのかもしれません。以前『Z世代の皮肉政治学』を調査した、アーティストでソーシャルメディアの研究者であるJoshua Citarellaは、こう説明します。「今日のポップカルチャーにおける中世美学の広まりは、歴史の進歩が止まり、『クラウド封建制度』が象徴する古い社会モデルに後退していっているという認識が、幅広く持たれていることを意味します。それぞれの世代がその前より悪化しているので、今の若者は、国の国民というより、プラットフォームのアルゴリズムルール下でのテクノロジーの奴隷のように感じています。社会や人類の知識の取り仕切り方が古いやり方に戻っているというテーマは、現在の失政への文化的応答です。」

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