Moritz Simon Geist アナログ手法でロボットが奏でる疑似テクノ

音楽に限らずヨーロッパのカルチャー(ドキュメンタリー・映画・ニュースも含む)コンテンツを配信しているARTE、YouTubeのチャンネルARTE Concertでは、クラシックコンサート・バンドライブ・DJを配信している。COVID-19による隔離期間中は、ヨーロッパを中心としたクラブからも多く配信された。(クラシックコンサート・バンドライブも配信されていることを、日本ではあまり知られていない気がする。)
ブログで書きたいことが多過ぎて、手を付けられずにいたが、5月にドイツのドレスデンにあるクラブObjekt klein aから配信されたプログラムとMoritz Simon Geistのパフォーマンスを紹介したい。ARTEのクラブからの配信は様々で、単に日常のクラブの情景をそのまま配信するところもあれば、配信向けに凝った演出をするクラブもある。Objekt klein aの演出は、ビジュアルにも重点を置いていて、ダンスや衣装、視覚的にも楽しめるプログラムだった。ドレスデンは旅行で訪問したことがあり、小さな町ながら美術の傑作作品や膨大な工芸品作品が収蔵されている場所で、ゼンパー・オーパーというオペラハウスもあり、芸術の街の印象が強かったが、この配信プログラムはその印象とも一致するものだった。ドレスデン旧東ドイツで、国鉄のおじさんは簡単な英語も通じず、券売機は英語表示に切り替えてもairportがFlughafenと表示されているのに気が付かず、切符が買えず難儀したこと、ソーセージが旨すぎてついつい食べすぎ、おそらく添加物が体に合わず、手がゴジラのように腫れあがった思い出がある。なぜだか、他の街よりくっきりと、映像を思い出すことができる。

UWS Global #15 objekt klein a Dresden

この配信プログラムで一番気に入ったのが、02:05:40からのMoritz Simon Geistのライブパフォーマンス。巻貝に水を注ぎ、回転させ、その音をサンプリングしたり、機械にギターの弦を弾かせたりする。ロボットにアナログな方法で音と出させ、それを積み重ね演奏するライブパフォーマンス。実験室のようなビジュアルで音はテクノだが、アナログな方法を挟むからか、音は柔らかく温かみがあるように感じる。こういった実験的でテクニカルな演奏方法だと、ヘンテコで音楽としての心地よさが得られないことも多いが、音楽だけ聴いても普通に楽しめる。
Moritz Simon Geistさんはどういう方なのか、気になったので調べてみた。幼少期から22歳までは、ピアノとクラリネットを習っていて、DOSトラッカーソフトを使って電子音楽も作っていた。電子工学を専攻し、数年間エンジニアとして働いていたとのこと。電子音楽からのアプローチだけでなく、クラシックのバックグラウンドがある方だとわかり、納得した。
Interview: Moritz Simon Geist

Moritz Simon Geistさんを一躍有名にした作品がこちら。ドラムマシンのRoland TR-808を、ロボットを介して生音で再現するパフォーマンス。自動販売機の中で人間の形をしたロボットがお茶を入れて出してくれるみたいなことですかね。個人的に、ドラムマシンやシンセサイザーの音を聴いて、箸で茶碗を叩いているみたいな音だなぁとか、音から演奏の映像が目に浮かぶことが多かったので、こういうアイディアを実現してみたくなる気持ちはよくわかる。今後、TR-808の音を聞いても、この映像が頭に浮かんでしまって困る。

ご本人による解説動画。ピエゾコンタクト マイクロフォン、MIDIコントロールなど、簡単にではあるがメカニズムを説明されている。音の調整、出す音と共にマイクでどう音をとるかについての解説から、音へのこだわりも垣間見られる。後はビジュアル、パフォーマンスとしての可視化についてもよく考えられている。透明の筒に白いつぶつぶが入った楽器はPNEUMATIC HIHAT(圧縮空気のハイハット)。電子音楽で発生するザーとかジーといったノイズをアナログで再現する楽器。アナログの楽器では生じない、電子音楽ならでのデメリットを愛しんで、アナログで再現するという発想が好き。目を閉じると、本当にデジタルノイズに聴こえる。音色や音の高低は、物理的に何で変わってくるかについても説明されている。圧縮空気は目に見えないので、白いつぶつぶを入れて、目でも楽しめるようにしてある。夏休みの自由研究にも使えそう。楽しいなぁ。

次のプロジェクトとして、次はRoland TR-909を再現するのか?TR‑303か?と聞かれるが、パーカッションだけでは飽き足らず、メロディが好きだし、アンビエントなものもやりたい。最初に思い浮かんだのが、長年販売されていて今は使われなくなったヤマハ Disklavier(ディスクラビア)。クラシックジャズで使われているヴィブラフォンから着想を得た、新しい楽器の研究を始めているとのこと。楽しみですね。

2017年に渋谷WWWでライブをされいてるようだが、Moritz Simon Geistさんのパフォーマンスや作品はこんなに面白くて、おそらく日本人好みなのに、紹介文が簡単過ぎて全く伝わらない内容で、残念に思った。

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