MAMAMOOがシュレックネタを演じた意味

MAMAMOOが日本のテレビ番組『スッキリ』に出演し、近藤春菜さんの似顔絵としてシュレックの絵を見せた件。とても残念で、悲しい気持ちになった。

『スッキリ』

MAMAMOOのメンバーフィインさんが、「私は絵を描くのが好きです。今日は、春菜さんの似顔絵を描いてきました。よろしくお願いします。」と言って、シュレックの絵を見せた。春菜さんは、「フェイインさん、ありがとう。(少し間をおいて)シュレックじゃねぇか。」と怒って見せた。お約束で怒って見せただけで、その後「でも、上手。」と絵を褒めた。
生出演で中継を繋ぐ前のMAMAMOOの紹介映像では、「女性が惚れるガールクラッシュ」「カッコイイ女性像」と説明されていた。

Ariana Grandeが同じ『スッキリ』に出演したときは、春菜さんがMichael Mooreに似ているというネタに対し、Arianaは表情を変えず無視し続け、しつこくネタをふっかけられ呆れた表情。話が通じていないだけかと思ったのか、焦る春菜さんが「シュレックじゃねぇから。」とねばるが、Arianaは答えず「はじめまして」と日本語で挨拶し握手を求めた。さらに春菜さんが「I'm not Shrek.」と英語で話すと、「I don't think you are (Shrek). I think you are very nice.」と答えた。

CM中、Arianaは春菜さんに「あなたは本当にMichael Mooreに似てないから。私が約束する。」と話したそうだ。
春菜「マイケル・ムーア監督じゃねぇよ!」のネタに、アリアナが笑わなかった訳に考えさせられる (2016年8月30日) - エキサイトニュース

実はちょうど4年前、ブログを始めた初期の頃、この件について書いている(今は非公開)。毅然としたArianaの態度は、ずっとルッキズムに苦しんできた自分を勇気付け、自分自身の振る舞いについても考えるきっかけをくれた。

見た目いじりがなぜダメなのか

海外の記事を引用した方が説得力があるので、見た目いじりがなぜダメなのか、使える記事を探したが見つからなかった。だって、あまりにも当たり前のことだから。なぜダメなのか、そこから説明しないといけないとは、気が遠くなりそうだ。

女性は、男性より何十倍も見た目で評価される。幼い時の可愛さ、恋愛対象として、出産に伴う体形の変化、加齢まで、一生見た目のことを言われ続ける。
私は母親とそっくりなのに、胸の大きさだけ似ずに小さい。もんだり牛乳を飲んだり努力はしたが、それで大きくなるはずもなかった。上げたり寄せたりパッドを入れたり試行錯誤すれば、日によって大きさや形が違うといじられた。自分の胸を「まな板に梅干し」と形容するギャクを教えてもらい、いじられる前に、自虐ネタで先制した。人から言わて傷つくよりはマシという自衛手段だった。男性からは、きついジョークも許してくれそうな仲間と認めてもらえるし、心優しい男性からは慰めてもらえるので、都合が良かった。
コンプレックス毎にネタを用意して、自虐し続けた。自分で言い続けているうち、心の中にずっしりとした嫌な気持ちが、澱のように蓄積していった。最初は、自分を守るためのものだったはずなのに、卑下しているうちに、本当に情けなく可哀そうに感じるようになっていた。自分と同じ胸の小さい人を侮辱していることに、気が付いていなかった。
近藤春菜さんのお顔は、一般的な日本人の顔で、似た人はたくさんいる。春菜さんがいじられておいしかったとしても、自分と似た顔の人が、その顔をいじられて、笑いのネタになっているのは気持ちの良いものではない。コンプレックスがあるなら、なおさら。足が短い、髪が薄い、色黒、それを気にしていたとして、同じ特徴の人が笑われていたらどうだろう。
褒めるのは良いかといったら、そうでもない。筋の通った高い鼻は羨ましいが、海外では大きな鼻にコンプレックスをもっている人もいて、アジア人の小さな鼻がかわいいらしい。大きなお尻がセクシーとされる国は少なくなく、お尻にシリコンを入れる人もいる。こっちは羨ましくて褒めていても、本人はコンプレックスを感じている箇所かもしれない。

キレ芸

シュレックのネタが春菜さんのキレ芸を含んでいることにも問題がある。私は小学生からこういう性格なので、自分だけではなく人がいじられているときも、抗議してきた。ホモソーシャルならではの遊びとして、女性にちょっかいをかけて困らせたり、からかって怒らせたりして、それを面白がるというものがある。テレビがキレ芸を肯定的に放送してきたことで、やってもいいこと、面白いことだと定着してしまった。特に子どもは影響され易い。いじられたことに抗議して怒っているのに、それさえも笑いにされる。本気で怒っていることが伝わると、ノリが悪い、冗談が通じないと文句を言われてしまう。ホモソーシャルグループにとって、自分たちの価値基準に照らし合わせれば怒るほどのことではなく、面白いと思ったネタが否定されてプライドを傷つけられ、楽しかったムードを壊されたことに腹を立てる。一人の気持ちよりも、全体の空気を重んじなければいけない。

MAMAMOOの反ルッキズム

MAMAMOOのメンバー ファサさんはオーディションで「太っているし綺麗じゃない」と言われ、「この時代の美の基準が私のそぐわないのだとしたら、私がまた別の(新しい)基準にならなくては」と決意し、その思想を作品に取り入れてきた。それが他のK-popガールズグループとの大きな差別化となり、支持されてきた。

最近食べすぎて太って、服が入らなくなったと言って嘆くフィインに対しファサは、「ね、フィイン。あんたに服を合わせるの。服にあんたが合わせるんじゃなくて。」と、しっかり目を見つめ、優しく言う。

「体重なんてもののなにが重要かってことですよ。幸せでいることが最高なのに。」

「私はいつも批判の対象 女だからって何? 関係ないでしょ 私の生き方よ 私は私を愛してるから」

ファサは昨年、空港でのプライベートの姿を写真に撮られ、その私服や外見を批判された。このことに対するMAMAMOO全員の回答が、「HIP」という曲で聴ける。「どこへ行っても あなたは輝ける 世界にあなたは一人だけ なのにどうしてこんなふうに 自分の顔に唾を吐くの?」

MAMAMOOから学ぶ、生き方の構え | 大人の沼 ~私たちがハマるK-POP~ Vol.2 - 音楽ナタリー

ガールクラッシュを売りにしているBLACKPINKがZach Sang Showに出演したときは、ガールクラッシュとは程遠い中身にがっかりした。英語圏では、かなり悪く書かれていた。一方、MAMAMOOは、制作や作品について自分の言葉で語っていて、好印象だった。Zach Sangがインタビューの途中でわざわざ褒めるくらい、通訳さんが超優秀なことも功を奏していると思うが。

Zach Sang Show - MAMAMOO

何にがっかりしたか

『スッキリ』でのMAMAMOOは、事前に用意した答えを棒読みしていた。中身が空っぽのアイドルみたいだった。そして、自分の口で「春菜さんの似顔絵を描いてきました。」と言い、シュレックの絵を見せた。もし、日本語の意味を理解せず、ただ言われたまま音を読んでいたのだととしたら、責任も持てない言葉をロボットのように口にしたことが残念。もし意味を理解した上で、あのネタをやっていたとしたら、反ルッキズムを売りにしてきたにもかかわらず、ホモソーシャル特有の女性の容姿を笑いものにするネタを自ら演じたことになる。
本人たちが理解していなくても、していても、どっちにしろ最低だ。しかし、MAMAMOOのメンバーが、シュレックのネタを知っている訳がなく、誰かが提案し、レーベルや事務所はOKしているはず。反ルッキズムで女性をエンパワーメントしてきたMAMAMOOに、あえてこのネタをさせたことに悪意を感じる。なぜなら、MAMAMOOにエンパワーメントされてきた女性を深く傷つけるから。
「MAMAMOOに、このネタやらせるなんて。」とか「MAMAMOOが、かわいそう。」ではない。彼女たちや事務所が、どんな選択をしようと自由。でも、自分を勇気付けてくれてきたMAMAMOOが、このネタをやったことで傷ついたんでしょう?「私は傷ついた。」と怒っていいんだよ。

「女性が惚れるガールクラッシュ」「カッコイイ女性像」とプロモーションした直後、ルッキズムホモソーシャルを掛け合わせた最低のネタを演じた。惚れるわけないだろ。馬鹿にするな。

『スッキリ』側を出し抜いて、シュレックの絵を出すと見せかけてガチの似顔絵を出し、『HIP』を口ずさんだとしたら、MAMAMOOのコンセプトを好むターゲット層からの好感度は爆上がりし、Ariana Grandeの対応と共に何年も語り継がれる伝説になったのでは。

ガールズクラッシュ

韓国のアーティストLIM KIMは、「ガールズクラッシュ」が単なるコンセプトになっていると指摘している。

LIM KIM - 私のように、かっこいいイメージを表現する以外にも、力強く自分のイメージを入れ込むことができると思うんです。ただそういう機会がなかなか与えられないので、だんだん考えもしなくなるし、今では「ガールズクラッシュ」もなんだか単なるコンセプトになっているように感じますよね。最近はインターネットやYouTubeでもなんでもすぐにアクセスできるようになっているので、ただ既存の方式だけでやるのではなく、誰もがもっと色んな表現をする機会が増えたらいいなと思います。

【インタビュー】LIM KIM|「東洋と女性」のステレオタイプを打ち壊す新しい姿 - FNMNL (フェノメナル)

これから女性として生まれてくる子どもたちに、自分のような経験をさせたくない。トランスやその他クィアな人はもっと辛い思いをしていると思う。だから、面倒でも言っていく。土岐麻子さんの言葉を読み返しながら。

あの場で正当な主張ができなかった自分にも腹が立つのだ。私が反抗しなかったことによって、彼ら彼女らは無自覚のまま、私のあとにも、同じようにまた別の誰かを傷付けたかもしれないからだ。自分の中から生まれた価値観ではなくて、誰かから突き付けられて脅された刃物のような価値観によって、毎日が生きづらくなること。私は自分を含めたすべての人が自身の価値を信じて、それぞれの尊厳を保てるような世の中になるべきだ

MAMAMOOから学ぶ、生き方の構え | 大人の沼 ~私たちがハマるK-POP~ Vol.2 - 音楽ナタリー

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