Derrick May氏の性的暴行疑惑と調査結果を無視すべきではない理由

無視ではいけない理由

Derrick May氏は、日本でも非常に人気があり、何度となくプレイしています。過去の投稿を少し検索しただけでも、非常に女性好きで、DJプレイ以外は日本人女性を熱心に口説いていたという話が出てきます。もちろん今回の十数人の全ての証言が嘘で、彼は無罪かもしれませんが、同時に、日本人女性も被害にあっていた可能性もあります。その場合、女性が本当のことを安心して打ち明けられるようにする必要があります。
根拠なく女性を嘘つき呼ばわりするのは以ての外ですが、彼の曲やDJが聴けなくなることを心配し言葉にすることも、被害女性を黙らせることに繋がります。セクハラの加害者は、気が弱かったり弱い立場にある人を狙います。被害者は、自分のせいで音楽やDJが聴けなくなることに責任を感じ、自分さえ我慢すればと思ったり、仕事上の不利益や職を失うことを恐れ、沈黙します。
被害者は、信じてもらえることだけでも、心の傷の痛みが和らぎます。被害者が、安心して正直に話せるようにすることで、次の被害を防ぐことができます。 

「行動せず黙ることがまん延する文化を終わらせ、我々は見て見ぬふりしてはいけません。可能な場合行為を止めさせるために介入し、声を上げた人をサポートし、行為を報告しなければなりません。」

電子音楽協会がセクハラと性差別に対する行動規範を発表
Association for Electronic Music launches Code of Conduct against sexual harassment and gender discrimination | DJMag.com

 なぜ警察でもないメディアが調査するのか?

今回DJ MagとResident Advisorが、それぞれ別のジャーナリストによる聞き取り調査結果を報告しています。

―なぜメディアが調査するのか?警察が行うべきことでは?
日本でも、企業がセクハラ相談窓口を設けることは法律で決まっています。本来は雇用主が行うべきです。
職場におけるセクシュアルハラスメントについて必要な対策をとることは事業主の義務です。厚生労働省 都道府県労働局雇用均等室

クラブ業界は狭く、利害関係が強いので、中立的な調査は困難です。電子音楽協会(The Association for Electronic Music)が、下記のように殊に強調した理由でしょう。

電子音楽協会は、大企業と違い人事部がないかもしれない小規模な電子音楽業界の企業にも、このドキュメントが当てはまることを、殊に強調しています。

Association for Electronic Music launches Code of Conduct against sexual harassment and gender discrimination | DJMag.com

フリーランスのDJも多く、また今回は複数国で証言があります。各国の警察が、全世界的な聴き取り調査を行ってはくれません。クラブカルチャーの一端を担い、恩恵を受けてきたクラブカルチャー誌が、独立したジャーナリストによる調査結果を掲載することは、極めて正しいことだと思います。

Derrick May氏の名誉を守ることと、被害者とされる人々の証言も信じることは両立します。被害者の証言を事実かもしれないと受け止めることは、Derrick May氏を誹謗中傷することにはなりません。

別の人による2つの調査

DJ Mag Ellie Flynnによる調査
Multiple women report sexual assault and harassment by Derrick May | DJMag.com
Ellie Flynnは、性的搾取や児童婚など、BBCのドキュメンタリーなどを手掛けるジャーナリスト。

DJ Magに話すことを選んだ女性たちは、自分たちの経験が唯一ではないことに気付き、自分たちの経験を共有せざるを得ないと感じていると言います。 Mayに逆らったことによる「社会の魔女狩り」は、今年ソーシャルメディアで繰り広がり、そして夏以来激化しています。

業界では性的暴行はどのくらい蔓延していますか? 報告されたサバイバーが声を上げないのはなぜですか? そして、業界の権力構造は、どのようにしてそのような報告された暴行が起こるのを許し、無視さえするのでしょうか?

ソーシャルメディアに曝された女性の何人かは、自分の話のコントロールを取り戻すために、そして57歳のDJによって傷つけられたかもしれない他の女性が名乗り出ることを願って、今自分の経験を共有することを決断しました。

Resident Advisor Annabel Rossによる調査
RA: Women provide accounts of sexual harassment and assault by Derrick May
Annabel Rossは、The Age、Resident Advisor、Mixmagなどの記事を書くフリーのライター。

RAは何週間もの間、Derrick Mayに対する性的暴行とセクハラの申し立てを調査してきました。 RAは、Mayから性的暴行とセクハラを受けたと主張する16人と共に、その主張を支持した多くの目撃者と被害者とされる人の近しい友人と話しました。まとめますと、これらの報告によると、セクハラと性的暴行が少なくとも20年前にさかのぼり、多くの国で起きていた様相を呈しています。

きっかけは、『Strings of Life』の件で争っているMichael Jamesの告発であっても、今回の調査は、利害関係のないジャーナリストとライターによるものです。

Resident Advisorの記事が出たあと、さらに報告が来ているそうです。

海外での反応

個人的には、他人に対しいかなる安全の懸念があるなら、彼をブッキングすべきではないと私は言うでしょう。
もしあなたが経営者・プロモーター・箱のオーナーなら、従業員に配慮する義務があります。
4人の女性が名乗り出ました。私にとって、これは、追加の情報が手に入るまで、ブッキングを保留するのに十分です。

May氏の女性に対する怪しい態度と行動については、昔から噂がありました。でたらめであってほしかったのは明らかですが、声を上げた女の子が作り話をする理由もわかりません。報告は詳細で、彼女たちが経験した内容は極めて不快です。
ほとんどの人がこれについて大人の議論ができているのは良いことですが、悲しいことに、被害者とされている人やRebekah(議論を呼びかけた人)に対するコメントのいくつかは、秩序がなく下品です。 あなたたちの言葉は、罵りの再投稿です。
ああ、マガジンに対するDerrickの反応はまったくばかげていました。 あなたが気持ち悪い(性的)搾取者であるかどうかにかかわらず、人種は無関係です。

私は真実ではないことを願っています。私にとって彼はアイドルですが、彼が有罪を証明された場合、彼は責任を問われ、償いをする必要があります。女性はどんな状況においても、いかなる種類の虐待も受けるべきでありません。容認できません。証明されるまで、それが嘘か真実かは言えません。これが音楽業界で起こっているのは、恥ずかしいです(どんな業界やどんな状況でも、本当にどこでも起こるべきではありません)。嘘をつく女性もいれば、そうでない女性もいます!そして我々は彼女たち話せるように守る必要があります。多くの場合、彼女たちは怖がって話しません。多くの場合、サポートの欠如と、彼女たちを保護するはずのシステムが機能せず、前に進みません。Derrickが無罪を証明することを願っています。さもなければ、私の心は引き裂かれるでしょう。私は彼のおかげでDJを始めました、そして私は長年彼(の音楽)を聴いてきました、それがめちゃくちゃになるでしょう。

こういったことは起きています。友人の女性DJは、ラインナップと引き換えに性的関係を持つように圧力をかけてくる多くの有名な男性アーティストについて、私に話しました。思想や芸術作品をフォローし、完璧だと持ち上げないことが重要です。これが本当かどうかはわかりませんが、状況としてこれは日々起きています。

我々は名乗り出てきた女の子たちを確実に信頼するべきです。 これは新しいニュースではありません。 我々が名乗り出てくる女の子を批判し続けるならば、性犯罪の被告を迎合し続け、彼らを見逃してあげることになります。彼女たちは、Mayに辛辣な言葉をたくさん投げつけている男とは関係がありません。
Mayが過ぎし日のあなたのヒーローの1人であるだけだからというのは、不適切です。ヒーローは、行動と振る舞いによって作られます。作り話をするために、異なる大陸のそれぞれ別の大量の女の子たちが集まったとは、全く思えません。彼女たちは、他の人からの証拠によって勇気づけられたと感じています。

彼がどれだけ女癖が悪いかは、何年もの間、公然の秘密でした。一緒にいたとき彼は紳士以外の何者でもなかったと人々/女性たちが述べたからと言って、彼が誰もを同じような尊厳と尊敬をもって接したことを意味しません。性犯罪者は、出会う人全てを標的にしません。操ることができると思う人をターゲットにします。このシーンは、ゲス野郎、家庭内暴力の加害者、辺り一面クソな振る舞いで溢れています。DJ、プロモーターなど。 シーン全体でそういう人々を追放する必要があります。

これは、私が自分のレーベルを立ち上げ、この業界に女性を招き入れることを目指した理由です。
「これ(性的被害)が起こる前、私はDJになりたいと思っていて、DJコントローラーを買うために貯金をしていましたが、始めさえせずに、台無しにしておしまいになってしまったように感じました。」

彼の攻撃的なミソジニーの振る舞いが男性のアフリカ系アメリカ人セクシュアリティであるという彼の答えは最低です。
そして、彼が特権階級と分類した被害者とされる人々を、「conduit of life(生命の導管)」と彼が発言するのは矛盾している。

これはDerrick May氏のコメントの言葉についてです。彼は、以下のようにコメントしています。

Women are the conduit of life, and as such, are to be protected, and not exploited. I live by those words.
(女性は生命の導管であり、そのため、保護されるべきであり、搾取されるべきではありません。 私はその言葉で生きています。)

女性を「命が通る管(赤ちゃんが通る産道)」、つまり膣と表現するとは、女性をモノとしか見ていないということだとか、性的暴行に対するコメントにこれは無いだろうと批判されていました。私も気持ちが悪いと感じていました。
RA Japanは、「女性は人生を導く存在であり、」と訳していました。悩まれた末このように訳されたのだと思いますが、それは無理があります。翻訳者の意志が入り過ぎています。RA Japanは、英語原文は単に「tested for the virus」なのに、「PRC検査」と訳したり(PRC検査ではなく、PCR検査ですよね。)、割とよくあって気になっています。日本語版しか読まない方もいると思いますので。

日本の反応

これは、今回のDJの件だけの話ではなく、クラブ業界全体の話です。
ほとんどの人が、このニュースを無視しています。ナイトシーンで女性が働きやすくするための組織CHICKS ON A MISSION TOKYOも。まぁ、日本のクラブ業界にセクハラはないと言うくらいですからね。女性DJの代表のように、いつも決まって呼ばれている女性DJも。

CHICKS ON A MISSION TOKYO

クラブにセクハラ防止のためのステイトメント掲載してもらう署名活動も、立ち上げたのはクラブ業界の人ではなく、お客さんでしたね。

海外のコメントでは、De Schoolの件もあり、クラブがセーフスペースなんて嘘っぱちだと言っている人もいました。とてもじゃないですが、女性が安全に働ける環境とは思えないですし、離れる人もいたのではないでしょうか。ブッキングのジェンダーバランスを改善しようとしても、女性DJがいないと言いますが、安全に働けないことも原因の1つかと思います。

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