なぜ音楽に多様性が必要なのか?
なぜ音楽に多様性が必要なのか?
女性評論家のエントリを書いたのは、評価される音楽の幅が狭まることを懸念したから。これだけ選択肢が広がったのに、一部の音楽しか聴かれてないのはもったいない。男性女性に限った話ではなく、年齢・言語・文化・音楽の聴き方の異なる人が音楽を選んだら、もっと多様な音楽が発掘されると思う。
後は、ビジネス上のメリット。パソコン音楽クラブ・長谷川白紙・in the blue shirt、女性ファンが多く、年齢層が幅広い。男性だけでなく、男性と女性に聴かれれば市場は2倍になる、更に年齢層も広がれば、それだけファンの数が増えて売れる。もし世の中にバンド音楽しかなかったら、私は音楽を聴かない。実際、好きな音楽を見つけられなくなっていた時期は、新しい音楽を聴いていなかった。YouTubeやストリーミングによって、アクセスできる音楽の選択肢が広がり、自分の好みの音楽をたくさん見つけることができて、音楽を聴く時間が格段に増えた。
国によって音楽の好みが異なる。バラードが売れる国、レゲトンが売れる国など。日本で売れている人が、海外でも売れるとは限らない。日本は特殊だから。日本の市場ニーズに合わず売れなくても、海外では評価される可能性がある。今は音楽の売り手としても、多様な市場にアクセスすることができる。
多様性がなくなるとどうなるか?
女性評論家のジェンダーバランスの議論と並行して同じ頃、ラップバトルでの女性審査員へのセクハラが話題になっていた。Hip hop界は、圧倒的に男性比率が高い。そして、セクハラやドラッグに反対する人を排除すると、こういう規範になるんだな。
薬物や女卑賛成とは言わないけどそこ否定するならHIPHOPじゃない!
ヒップホップ界隈でセクハラが議論される経緯 - Togetter
日本のクラブ業界を代表し、ナイトメイヤーとして海外でプレゼンされた方の理解がこうなのか。セクハラは男性から女性にするものだと思ってらっしゃるのかな。
ちなみに言ってるムーブメントとはセクハラ反対運動とかではなく、全てを引っくるめたIndependent Woman運動というイメージでした。今回のセクハラ問題は自分が責任を持って議論しますが、ここで言ってるムーブメントはやはり女性主導であって欲しいなと思ったというか。
— Zeebra (@zeebrathedaddy) 2020年1月5日
ダースレイダーさんも政権批判は強気だけど、自分たちの内側については、いつもやんわり濁す感じ。フリースタイルバトルは、ルール無しで何でもアリらしいけど、人種差別、性的指向、宗教いじりもアリなの?それとも女性差別だけ?例えば韓国人差別や、同性愛者いじりをしても、「個人的な快、不快や感情」とか悠長なこと言うのだろうか。
ラップバトルの罰ゲームで高校生が亡くなったとき、Hip hop界の多くはラップは関係ないという主張に必死だった。ラップが強いものが弱いものを支配するというしきたりは、多少なりとも事件に影響したのでは。
全てはcase-by-case。個人的な快、不快や感情を一緒くたにしがちです。言葉は入れ物、ラベル。言葉をどう使うか?
— ダースレイダー (@DARTHREIDER) 2020年1月7日
Lilyさんのnote。https://t.co/HF1JwHGouX
椿ってラッパー生意気すぎん?zeebraさんに向かって何様なんや
— FEFA50🦚 (@nonemenoneme) 2020年1月4日
そのzeebraさんに対して、恐れず意見をする椿さんはもっとすごい。
— N森 (@shintnr9) 2020年1月6日
クラブ業界、カウンターカルチャーと言いながら、身内には甘々。薬物犯罪者(好きなアーティストに限る)には優しいが、女性や性的マイノリティ、普通の人には優しくない。それは寛容とは違う。
3年前、ネットラジオ番組のゲストが女性DJのLicaxxxさんで、男性陣が化粧品のことをウキウキしながら質問していたので(男性アーティストにはしない)、それを指摘した。そうしたらオタクの皆さんが怒って、「僕はLicaxxxさんの使ってる化粧水を知れて助かりました。」とか言ってきて批判された。3年経ち、男性も含めいろんな人が言い続けてきたことで確実に変化しているし、ジェンダーバランスのこともブログに書いて議論できるようになった。
そういうので怒ってる人とか声高に主張してる人をネット以外で見たことがないんですよね、、少なくとも僕のいる場所では男女問わずみんな楽しんでるような
男性に都合のいい社会に暮らしていて女性もそれに合わせているから、悪気なくて男性は気が付かないんだと思う。
多様性は習うより慣れろ
ヨーロッパ・北米・南米・アジア・オセアニアの15か国くらいのアーティストをInstagramでフォローしているので、クリスマスとお正月は、様々な家族との過ごし方や郷土料理を垣間見れて面白かった。ノンバイナリーだと知ってフォローしたアーティストもいれば、DJプレイが良くてフォローしたら、レズビアンカップルだったこともある。異性同士、同性同士、毎日誰かが仲良くチュッチュしてるから、もう見慣れた。一番素敵だったクリスマスの過ごし方は、男性同士のおじさんカップルで、映画を観た後、アナ雪を歌いながら手を繋いで通りをスキップ、クリスマスツリーの前で二人仲良く頬寄せ合ってセルフィー。とても幸せそうだった。私も以前は、人前でいちゃつくの中年カップルを嫌悪していたけれど、誰にも迷惑かけてないし、偏見だったとようやく気付いた。
海外のクラブだとセックスしてたりするらしいし、理屈より多様性のある環境に放り込まれる方が理解が早いこともあるかも。
わたしは裸のパフォーマーがケーキと性行為を行っているのを見たり
女性と男性の違い
そもそも自分の好きな音楽は音楽メディア取り上げられないので読まないのと、ウェブの無料記事しか読んでないからかもしれないが、渡辺志保さんの解説が詳しくてとても驚いた。解説というのは、このくらい豊富な情報量なのだと。
渡辺志保 Beyonce『Homecoming』徹底解説
私もCoachellaの生配信を観ていて、忘れられないのはこの部分。
"Ladies. Are we smart? Are we strong? Have we had enough of bullshit?"
「女性のみんな、私たち賢い?私たち強い?もう十分我慢してきたんじゃない?」
— MARI 🌎 疋田万理 (@mari_hikita) 2019年4月20日
Ladies. Are we smart? Are we strong?
あんまり男女分けるの好きじゃないけど、これは涙出た
ビヨンセ@Beyonce / Homecoming on Netflix pic.twitter.com/30QQWNLQbf
女性はかわいいと言われても、賢いと言って褒められることはめったにない。女性は能力が低いと言われ、痴漢に遭い、なめられ、旦那より稼いでるのに家事も子育てもし、我慢に我慢を重ねている。Beyoncéはそういう辛さをわかってくれてる。エールを送ってくれてる。世界中の女性が号泣ですよ。これがエンパワーメント。
ところが、男性評論家が書かれた別の解説には、この部分の記載がなかった。魂のない抜け殻みたいに感じた。
中年男性が考える「女の子にとって一番大切なこと」って何なのだろう?「今おじさんにとって一番大切なことを全身で表現してる人だと思うんだけど。・・・東京のおじさん、どうした?」って小娘に言われたらどう?これだけ差別やジェンダーをテーマにした映画や音楽があふれて、どういう理解されているのだろうかと疑問に思った。
東京の女の子が誰をかっこいい/かわいい/美しいと思い誰をロールモデルとして誰を好きになって誰のライブに行こうと外野に疑問を呈される義理はまったくないです。そっちこそどうしたよ? pic.twitter.com/Bl3wAtGK7K
— 画伯 ∵ (@ttoneho) 2019年7月24日
この記事はキュレーターが女性。女性の服を男性がデザインするし、女性誌を男性が編集している。このキュレーションは、女性が好きな音楽を集めた感じがしたのだがどうだろう。男性の音楽キュレーターで、こういう選択ができる人がどのくらいいるのだろうか。
Dominic Fike, Ren, Easy Life, Victoria Monét... 20 artistes émergents qui vont exploser en 2020, c'est le #Soundcheck de la semaine | melty
これは、ジェンダーではなく人種差別がテーマで、アートとして表現がダイレクト過ぎるとは思うが、人種差別を経験したことがある自分は、すごく共感した。
Rina Sawayama - STFU!
マイノリティでなければ、マイノリティがテーマの作品を批評できない訳ではない。ただ、表面上でなく、真の理解が必要。
大衆音楽の批評、評価基準
クラシックではなく大衆音楽は、定まった評価指標がなく、流動的で多岐にわたると思っている。女性と男性、日本人と外国人であれば、視点も異なり、評価も変わる可能性がある。クラシックの評価基準なら、演歌や桑田佳祐は下手になってしまう。DAWが使えなくても、ギター一本の弾き語りで人を感動させることもできる。
あ、勘違いされてるな、と思ってました。訂正ありがとうございます🙇♂️
— 中村佳穂 (@KIKI_526) 2019年1月22日
高野さんが心配してコードネーム理論を書いた冊子を大学内で会った時に下さったのを覚えています。「コードの存在を知らない人」から「そのコードはCでは無いと言える人」まで進化しました。。。 https://t.co/9bN5xP72Ee
批評選考の場に女性がいない問題。当然半数はいてしかるべき女性がいないということも問題だが、もっと重要なのは、従来、男性でないと語れないと思わされてきたような「高度な言説」を前に「おめーら何言ってんだか全然わかんねーや」と平気で言い出し、高度文脈に沿わない見解を促す存在の必要性だ。
— 高原英理 (@ellitic) 2020年1月7日
去年は、多くのLGBT+アーティストが活躍し、特集記事が組まれるほど。音楽性というより、音楽を道具とした表現内容が評価されている。
私が機材オタク界隈の方々とSNSで繋がっているからかもしれないが、男性音楽プロデューサーやDJが、音楽機材・サウンドシステム・波形の話で盛り上がったりマウントしたりするのをよく目にする。音の質、音色やリズムの複雑さ・斬新さのような測定しやすい基準で評価する傾向にあるように感じている。選んだ音やリズムがどういう心理的効果を与えるか、無音や音の詰まり具合、AメロBメロ展開といった構成、音楽で何を伝え表現しているか、ダンスや映像を含めた表現、そういう観点で作品を評価している人が少ない。
Rosalíaの歌はフェミニズムをテーマとしたものが多く、それぞれの曲にしっかりとしたテーマがある。歌詞・ダンス・振付・衣装・ロケーションで表現している。そもそも日本ではほとんど紹介されていないが、珍しく紹介されている場合でも、音やリズムでしか語られていなかった。Rosalíaのことは私が調べるけれど、他の音楽もみんな、こうやって日本に入ってくるときにフィルターに通されて、作品の価値が伝わってないんじゃないかと懸念した。
音楽批評の範疇ではないのかもしれないが、作品を理解するのに音楽理論以外の説明も必要だと思う。
音楽は教育
Dorian Electraは、最初教育ビデオを作っていた。彼の作品を楽しむことで、ノンバイナリー・有害な男らしさ・男性のお化粧などについて、自然と理解できる。難しい本を読んだりTwitterで議論するより、楽しくて簡単。そして記憶に残りやすい。この20年で、日本人の韓国人に対する意識は大きく変化した。韓流ブーム、KPOPの影響は大きい。
社会問題や歴史を学びたくて音楽を聴いていた訳ではないが、好きな音楽のことを調べていたら、自然と知識が増えた。
リベンジポルノの被害を受けて、10年を経て表舞台に帰ってきたHoàng Thùy Linh。ウクライナのアーティストのことを調べているうちに、チェルノブイリ原発事故やクリミア危機のことまで行きついた。ILIRAの両親はユーゴスラビア紛争で祖国アルバニアを離れた。母親は医者で、紛争時にレイプ被害を受けた女性の心のケアをしている。 ILIRAは大手レーベルと契約したが、用意された歌詞が性的であったのでブチ切れ、その気持ちを歌にした。
海外、シンガポールやインドネシアといったアジア圏でも、TWICEよりBLACKPINKが人気。日本では逆。TWICEはかわいい、BLACKPINKはかっこいい。同じくかっこいい系のMAMAMOOは、日本ではあまり人気がない。単に日本人の好みかもしれないが、小さい頃からかわいい女の子を好むような教育を受け続けていないだろうか。
Rosalíaについての記事、日本のVOGUE GIRL(20代女性がターゲット)はインスタの写真を張り付けただけ、見た目のことしか書いてない。子供の頃からの多様性教育の格差が生じている。
ラテンポップの新星! ロザリアに学ぶ、クリエイティブなビューティTIPS。 - 海外の最新ビューティトピックスをチェック | VOGUE GIRL
英語版Teen Vogueだと人種の話や
Rosalía Fans Are Calling Out Media Outlets for Referring to Her as Latinx | Teen Vogue
monobrow(左右繋がった眉毛)。美の価値基準の多様性の観点で、monobrowを剃らないギリシャのモデルが支持されている。
Rosalía Wore a Monobrow in Her New Music Video for the Song “A Palé” | Teen Vogue
私にとってウクライナは、もうどこか遠い国じゃなくなった。好きなアーティストがたくさんいる国。第三次世界大戦への緊張が高まらなくても、去年はウクライナや旧ユーゴの歴史と戦争のことを調べていた。音楽は教育。