日本の音楽メディア、電算機が見ている景色

先日のエントリを広めて頂いた結果、音楽評論家・ライターのお名前を教えてもらい、音楽雑誌の名前も知った。圧倒的にロック誌が多く、自分がどれだけマイノリティか改めて実感した。
3年前からSoundCloudメインで音楽を聴くようになり、最近はYouTubeのチャートとアルゴリズムで世界中の音楽に出会い、海外の音楽メディア記事を右クリックで翻訳して読んでいる(英語以外も含め)。自分が見ている景色は、日本のマジョリティとだいぶ違うのだろう。
一般的な日本の音楽好きとはかけ離れ、消費者サンプルとしては不適切だろうけれど、紙媒体に関わる人からすると逆に新鮮かもしれないと思ったので、自分の視点、日頃感じていることを書いてみる。

カタカナ

日本の音楽メディアは、外国語をなぜカタカナで書くのだろう。Bump Of Chickenはアルファベットなのに、ビリー・アイリッシュ『ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー?』。頭の中でアルファベットに変換して理解するので、すごく疲れる。
気になる音楽が見つかってネットで試聴しようとしても、カタカナだと検索できないこともある。ネットの記事はアーティスト名をコピペして、さらなる情報を検索したりストリーミングで聴いたりするので、ハングルやキリル文字もそのままの方が助かる。

すぐ聴けない

ネットの記事はYouTube動画が埋め込んであってすぐに聴ける。それに慣れると、紙媒体を読んで、手で文字を打ち込んで、検索かけて聴くのはとても面倒。さらにネット上で試聴もできない、オークションで落札、海外から取り寄せとなると更にハードルは上がる。

バックナンバー

ネットの記事が意外と早く消されることはあるが、紙の雑誌も販売されなくなる。近所の図書館の場合、雑誌は1年分しか保持せず廃棄している。最近、パソコン音楽クラブや長谷川白紙のファンになった人が、3年前のブログを読んでくれたりしているようだ。紙雑誌の記事は、販売期間に購入した人しか読めない。アーティストのプロモーションの観点でどうなんだろう。

時代の後追い

音楽メディアは人気アーティストを特集するだけでなく、時代を先取りトレンドやアーティストを紹介してきたと思う。パソコン音楽クラブと長谷川白紙、ちょうど売れていく3年を見ていたが、人気が安定するまで、メディアは取り上げてくれなかった。シティポップやVaporwave、Billie EilishやNight Tempoも取り上げるのが遅くて、だいたいいつも今更感。Billie Eilishの良さか理解できないおじさんたちが、こじつけて絶賛してる感じが痛々しかった。Billie Eilishが兄弟で音楽作ってるからって、Carpentersとからめるのはやめて。

タイムラグ

特に洋楽においては、タイムラグが大きい。Rolling StonesのBillie Eilishへのインタビューも、英語だったら日本からでもラグ無しで全文読めた。右クリック自動翻訳で、ほとんど意味は取れる。日本の紙雑誌の場合、和訳、印刷、配送を経るとラグが大きい。手に取る頃には、ネットで何か月も前に知った鮮度の古い情報になってしまう。日本人アーティストの情報でもそう。

ジャンルの幅

自分の興味のあるアーティストが、音楽誌に載ることが少ない。音楽誌も売れないといけないから、ファンの多いアーティストを取り上げざるを得ないのはわかる。日本人がバンドを聴く人が多いから、バンド誌が増える。鶏が先か、卵が先かになってしまうけど、メディアが取り上げなければ人気も出ない。どんどん市場が縮んでしまう。

情報の深さ

ファンは好きなアーティストをSNSでフォローして、四六時中張り付いて一語一句追っているので、メディアの記事やインタビューも物足りないことが多い。ファンの方が詳しく、間違いに気付いてイラっとすることもある。物足りなく感じるのは、海外アーティストと比べると、アーティスト自身の考えていることが深くないのも一因かもしれない。

選択と批評の自由度

音楽メディアは褒めてばかりで、ネガティブな批評はしないので、大手レーベルの推しのプロモーションくらいに思っているが、実際取り上げるアーティストをどのくらい自由に選べるのだろう。ラジオの原稿は用意されていて、パーソナリティは読むだけだと聞いた。

 ラテングラミー4冠でグラミーにもノミネート。YouTubeのMVは10億回以上再生、多くの世界的なセレブとも交流しているRosalíaが、大きく取り上げられないのは、来日に向けてレーベルがプロモーションしないからだろうか。AURORAは来日前に、新谷洋子さんのしっかりした記事がネットに上がった。レーベルかイベント主催側が、費用を出したり資料を提供して、記事を依頼したのかなと推測した。
日本人女性のPowderさん、昨年あれだけ海外の音楽メディアで紹介されていたのに、日本ではほとんど扱われていない。歌のないインストだから?日本でライブをしていないから?私の海外記事の翻訳とメディア記事のまとめは、1年間コンスタントに読まれ続けたので、需要が無くはないと思う。ジャンルにもよるのだろうけれど、海外で評価されてようやく日本で認知され人気が出る、有名人がフックアップで紹介したら売れるというケースも多い。日本人は自分で価値を理解できないのかと思って悲しくなる。

文化の紹介

女性海外アーティストが来日インタビューでも、音楽のことより、見た目や日本の好きな食べ物の話を振ったりで恥ずかしい。海外のアーティストは自分の考えや主張がしっかりあって、音楽でも表現している。インタビューもそこをしっかり聴く。
日本の10代の女性に知ってもらいたいのは、Rosalíaの歌に込められたメッセージ。日米の記事の差に愕然とした。子供の頃から読む記事がこれだけ違えば、考え方にも差が出てしまう。音楽を通してフェミニズムや多様性を学べるのに、日本人はその機会を失っているのではないかと懸念している。
VOGUE GIRLはインスタの写真を張り付けただけ、見た目のことしか書いてない。
ラテンポップの新星! ロザリアに学ぶ、クリエイティブなビューティTIPS。 - 海外の最新ビューティトピックスをチェック | VOGUE GIRL
英語版Teen Vogueだと人種の話や
Rosalía Fans Are Calling Out Media Outlets for Referring to Her as Latinx | Teen Vogue
monobrow(左右繋がった眉毛)について。美の価値基準の多様性の観点で、monobrowを剃らないギリシャのモデルが支持されている。
Rosalía Wore a Monobrow in Her New Music Video for the Song “A Palé” | Teen Vogue

インディーズやダンス音楽を扱うウェブメディア(私はメディアと認めていない)の記事の質は悪い。海外メディアの記事を翻訳し要約しただけで、事実かどうか確認していない。海外メディアのエイプリルフールの記事を、ジョークだと気が付かず、事実のように日本語で記事にしてしまったこともあった。アルバム発売のプレスリリースばかりの音楽ニュースサイトとか、参考にしている人いるのかな、PR効果あるのかなと疑問に思う。好きなアーティストはSNSフォローしてるので、リリースやライブ情報を逃すことはないし。

野田努 ele-king Album Reviews
パソコン音楽クラブ - DREAM WALK | ele-king
「ではない」「でもない」「はない」、適当な推測、一杯やりながら書いた随筆みたいで、これは酷いなと思った。ウェブだから?Real Soundも、アーティストの友達(ブログもやっていない)がレビューを書いていて、音楽メディアはそういう状況なのかなと思った。

新しい音楽の発掘力

今回音楽批評家やライターの方のお名前を教えてもらってわかったのが、音楽評論家やライターの方は、音楽以外の執筆もされていることが多いということ。音楽の聴き方もアクセスする方法も量も変わり、中高年以上で家庭もあって、音楽以外の仕事もある方が、どのくらい新しい音楽を追えているのか、というのは気になった。音楽を評価するのに音楽をたくさん知っていることは必須ではないと思うが、トレンドを踏まえての分析を求められることはあるのではないだろうか。
音楽誌が取り上げるアーティストをどう選ぶのか知らないが、知っている音楽の母数が多ければ、それだけ良い音楽を知ることができる可能性が高まる。

キュレーション

私が見つけられていないだけの可能性があるが、評価されていないアーティストも含めて、ジャンルやテイストが近いアーティストをまとめてリコメンドする企画を、日本ではあまりみかけない。レーベルが売りたい音楽ではなく、聴き手のことを考えてキュレーションされた記事では、高い確率で好きな音楽が見つかる。プロの発掘力と目利きを実感する。
Neo Soulに恋に落ちるための10人の女性の声
10 voces femeninas para enamorarte del neo-soul en español - UMOMAG.com
2020年にレコード業界に革命をもたらす20人のアーティスト
(例えば「Charli XCXのファンなら、このアーティスト」といったリコメンドが的確で頷ける。)
Dominic Fike, Ren, Easy Life, Victoria Monét... 20 artistes émergents qui vont exploser en 2020, c'est le #Soundcheck de la semaine | melty

そもそも今の時代、批評家や音楽誌は必要なのか?という意見もあった。TikTokやストリーミングのリコメンド、音楽の出会い方も多様化している。ストリーミングやYouTubeで聴くことが主流となっていき、膨大な音楽にアクセスできる反面、消費者はどれを聴けばよいかわからなくなる。評論家やライター、選曲家としてのDJの役割は、今以上に重要となり活躍の場が広がるはず。その変化のスピードに、日本の音楽メディアは十分追いつけているのだろうか。

Spotify担当者が見た、ミュージシャンがブレイクするまでの動き - インタビュー : Kompass(コンパス) ミュージックガイドマガジン by Spotify&CINRA
パソコン音楽クラブと長谷川白紙、メディアの記事が充実するまで、私のブログが参照されていた。何をきっかけに検索されるか、約3年観測することができた。フェスへの出演決定や音楽メディアでのピックアップよりも、人気アーティストによる言及とコラボの方がきっかけでアクセス数が上昇した。過去の記事を読む人がいることも、数字で理解した。

音楽も記事も無料になり、一体どんな記事にだったらお金を払おうと思うか。渡辺志保さんのBeyonce「Homecoming」解説と新谷洋子さんのAURORAの解説は、私が初めて音楽についての文章にお金を払ってもいいと思えた情報量と質だった。電子媒体でシングル曲1曲くらいの値段だったら買うかな。
渡辺志保 Beyonce『Homecoming』徹底解説
『アナ雪2』メイン曲「Into the Unknown」にゲスト参加したオーロラ(AURORA)とは?

Copyright © 電子計算機舞踏音楽 All Rights Reserved.