岡ともみ どこにもいけないドア、 名和晃平 Biomatrix、 藝大周辺散策

岡ともみ どこにもいけないドア
岡ともみ氏のシナプスのついた嘘、spaceBのことを想っていた。いくら望んだって、もう鑑賞することは叶わない作品。アクリル板とプロジェクターの位置や角度の設計図もないそうだから、同じものは二度と再現されない作品。ライブと一緒。偶然に出会えたことに感謝しなくては。鑑賞したときの感覚を呼び戻し、反芻して味わうことはできる。そんな矢先、新作の知らせ。場所はなんとspaceBと同じ京橋kimura ASK?。
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京橋kimura ASK?は宝町と京橋駅の中間、このあたりギャラリーが多い。kimura ASK?のビルはドアチェーンが鎖だったり昭和っぽさのある古いビル。「どこにもいけないドア」の展示は駐車場横の地下フロア。シナプスのついた嘘、spaceB、岡山市柳町1-8-19は作品の中に入って鑑賞するのだが、「どこにもいけないドア」はガラスの引き戸を通して、部屋の中と部屋から出る光を鑑賞する。古時計の秒針がカチカチと時を刻む音がする。部屋の中には同じようなガラスの引き戸がおそらく2枚。ガラスの引き戸の裏には、光を反射するアクリル板が貼ってあり、プロジェクターは2台と推測。引き戸に映る古時計やランプは反射像ではなくおそらく映像。ご本人が在廊してらしたので聞いてみてもよかったのだが、実像と虚像をあいまいにし、鑑賞者を翻弄させるのが岡氏の作品の魅力、答え合わせできぬまま鑑賞後も作品のことをじっくり考えるのも楽しい。
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岡氏は光の魔術師という感想を目にした。確かに岡氏は光を巧みに操っているけれど、私が思うに、闇と影をコントロール(支配)し、光の反射デザインのセンスに秀でた方。設計図やシミュレーションソフトもなしに複雑な反射をデザインされる。レンブラント田原桂一も、光を魅せるために暗闇や影を極めたアーティスト。花火もレーザーも暗いからこその美しさであり、昼間の明るさでは魅力を発揮できない。
「どこにもいけないドア」は開くことも中に入ることもできない。中からも外に出ることはできない。ただ覗き込んで古い部屋の様子を見ている。決して戻れない過去を、記憶という窓を通して頭の中に映像を映し回想しているようなものだ。「どこにもいけないドア」の対面には、spaceBが展示してあったボイラールームがある。重い鉄のドアを開ければ、まだ展示がそのまま残っているような妄想に憑りつかれる。spaceBは過去でも未来でもなく、パラレルワールドへの入り口のような作品に感じた。時空の「どこにもいけないドア」とパラレルの「spaceB」、相対する展示の展示場所が正対しているなんて、こじらせたファンである私の勝手な想像はとどまるところを知らない。ボイラールームの前の暗いところから鑑賞していたら、別の鑑賞者がいらしたのだけど私に気が付いてもらえず、結局また驚かせてしまった。「シナプスのついた嘘」で人形と間違われたのをまた思い出した。

銀座線で京橋から上野に移動。近くて便利。藝大前を通ったら、11月23日から公開の旧博物館動物園駅「アナウサギを追いかけて」が設営中。アナウサギは既にスタンバイ。楽しみ。>
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名和晃平 Biomatrix
インスタに流れてきた動画で展示を知る。展示会場のSCAI THE BATHHOUSEは藝大の近く、銭湯を改装したギャラリー。懸魚もある立派な宮造りの表構え。タイルや引き戸もそのままなんだろうか。戸車はよく手入れされていて、指で開けられるほど軽い。下駄箱とタイルも残されている!
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中は銭湯の天井の高さを生かした空間。スタッフの方がドタバタ走る音が響くが、木造建築だしそこは仕方ないか。海外からの観光客も多く、平日にもかかわらず人は多い。
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「LIQUID」は事前に動画も見ていたが、本物は魅力的だ。空気をはらんだ粘度の高い液体は光を通し、ろうそくのように暖かい光を放つ。膨らんだ液体がはじける音、空気孔から出るヒューという音は生物の呼吸のようだ。注意を引くように激しく呼吸したかと思えば、静まり返る。鑑賞者は皆、息を凝らして次の呼吸を待っている。均等に全てのセルが呼吸することもあれば、一部のセルのみが呼吸することもある。呼吸しているセルは呼吸していないセルを押しつぶし浸食していく。正に細胞だ。再び全てのセルが呼吸を始めると、見事にセルの大きさが均等に戻っていく。液体を中に入れず、均等な空気を押し出し続けられる機構も凄い。空気を出すタイミングや間隔といったリズム、一部のセルのみ呼吸させるといった不規則性のデザインが絶妙で、鑑賞者に先を読ませず、生きているように感じさせる。地獄温泉で泥の中から温泉が湧き出る様子から、スライムや"ねるねるねるね"まで、人はなぜドロッとしたものに惹かれるのだろう。人間にとって危険なものが多かったから注意を引くのだろうか。インスタでもスライムにビーズを混ぜて網目状の袋から搾り出したり、石鹸を削ったりスポンジを切ったりするのをついつい見てしまう。泥っとした粘度の高い質感ももちろん人を惹きつけるのだけど、やはりこの呼吸のデザインによって命を吹き込まれていると感じた。後藤英(Suguru Goto)氏もCymaticsという粘度の高い液体を振動させる作品を映像で見たことがあり、振動により硬くなる性質を用いたものだと思うのだけど、比較して見るのも面白い。
Cymatics by Suguru Goto(1:30あたりから)
「LIQUID」を見ていると心が穏やかになる。ゆっくりとした呼吸の音は精神を落ち着かせ、生き物のような動きに集中することで日常を忘れ、瞑想に入る前段階のような状態になる。アートは心の栄養だ。
手前の複数の人が組み合わさったオブジェも造形としては美しかった。照明の当て方も美しさを引き立て、影まで美しい。なのだが、どうしても黒焦げになってしまった人を想起してしまい、見続けるのがしんどかった。
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名和晃平 Biomatrix
2018年10月10日(水)-12月8日(土)
開廊日時:12 : 00 - 18 : 00 ※日・月・祝日休廊
会場:SCAI THE BATHHOUSE

藝大まで戻る。根津とか谷中とか観光地っぽくて敬遠してたけど、藝大にはしょっちゅう遊びに来てるんだし、今度来たら散歩してみようかな。
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コミテコルベール アワード 2018
岡ともみ氏の作品に出合ったのが、2017年コルベール委員会主催の「2074、夢の世界」アワード。副島しのぶ、尾崎美代子、一ノ瀬健太、川人綾、秋山玄樹、窪添博之(敬称略)を始め忘れられない作品ばかり。かなり期待していたが、規模も縮小し心を惹かれる作品には出会えなかった。美しさや見た目のインパクトも多少はあるが、説明を読んでも作品の良さや価値を私は理解できなかった。前回から随分と傾向が変わったように感じた。同じコルベール委員会と藝大のコラボと理解していたが審査の方法や体制が異なるのか。
2074、夢の世界

第13回 藝大アートプラザ大賞展
最近できた藝大アートプラザ、藝大グッズや藝大生の作品が購入できる。日本の狭い住環境に優しい小さな作品が多数並ぶ。器やアクセサリーといった工芸的な作品も。才能ある藝大生の方たちが卒業後も芸術家として生活していけることが理想だし、ギャラリーではなく国立大学が間に入り学生の間からマネタライズを徐々にしていくことは良いことだと思う。お金や世間の評価と結びつけることに嫌悪感がある人も多いだろうし、世間のニーズに作品を合わせるべきではないと思うが、芸術の教員や企業のデザインの仕事ではなく芸術家として生きる道筋をつけられるのであればよいのではないだろうか。アートプラザ内は写真撮影禁止のため写真は無し。

東京音楽学校奏楽堂も開いていたが時間切れ。今度コンサートのときにでも来てみよう。
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