女も惚れるNina Kraviz ニーナ・クラヴィッツのDJ

「美人で人気のあるDJでしょ。」くらいの認識で観始めたDOMMUNE、ぐいぐい引き込まれて最後にはすっかりファンになってしまった。

 

まず自分の思っていたテクノとは随分違った。ヨーロッパのテクノって大体、ずっと同じような音がズンテクズンテク鳴ってるだけが多い印象がある。Ninaの選曲もテクノなので繰り返しではあるけれど、こんなに表情豊かで多様な選択肢があるのかと驚いた。DOMMUNEでこんなに全力でDJをする外タレは初めて。通常外タレは週末のgigの宣伝で出ているので、本気を出さないDJも多い。NinaはULTRA JAPANの出演を終えたばかりで日本でのgigも予定されているのでもなく、極東にある小国のネット番組にもかかわらず、取り憑かれる若しくはゾーンに入っているように集中している。レコードを鳴らしエフェクトをかけているというより、まるで楽器を演奏しているか、心に思い描いている世界観を音を絵の具のように使って表現しているようだ。Ninaで検索するとDJ中にアルフォートをかじる姿が可愛いなんてのが上位に出てきて正直うんざりするが、気取らず時折みせる野性的であったり官能的な表情は女性である私も魅了する。そんなNina Kravizのかける曲は魅力的で検索をかけるのだけど、ほとんどひっかからない。世界中の彼女のファンも同様になんとか調べようとするのだが、結果は同じ。

レコード屋に10時間でもいるとどこかの記事で読んだが、本当にdiggerなんだ。午前2時から5時までの予定で延長の末6時半まで回した後、寝ずにTECHNIQUE(レコードショップ)に直行する訳だ。

Ninaのお母様もまた強者。

 写真3枚目

優れたDJセットは起承転結のように時間の使い方がデザインされているのだろうなとぼんやりと想像していたが、はっきりと実感できたのはNinaのDOMMUNEでのDJが初めてだった。後に彼女が数学が得意な理系女子だったことを知り腑に落ちる。飽きさせないようにBPMや音色の違うものを組み合わせていくだけではなく、最初の30分は立ち上げ、中盤大胆に変化というように、ゾーンに入った状態にいながら俯瞰的な視点も保ち割り振っているように思えた。例えばちょうど開始1時間のSunpeople - Check Your Buddhaから次の曲への繋ぎ。ずっと上げっぱなしではなく、9:50あたりは極端に音を減らすなど、前半の1時間があったからこそ1時間から1時間半のBPM高めの曲が映え、聴き手の高揚感を煽る。最初から最後までこの調子では飽きるし疲れる。
最後は宇川氏が好きなBauhaus - Bela Lugosi's Deadで締め。つまみ触りながら後ろ向いて踊ったり、テクノじゃないからとかけっぱなしではなく最後まで丁寧にエフェクトをかけ盛り上げる。そして最後、飛び切りの笑顔、後ろの黒いカーテンに身を隠したり顔を出したり無邪気に微笑む。アカン、それはあきません。あんなに素晴らしいDJプレイした後、その可愛さは何なんですか。といった具合で、私もすっかりNina Kravizの虜になってしまった。

1か月後には、エッフェル塔でのDJ。似たようなセットだったりするかなと思ったが、多少のかぶりはあるものの別セット。屋外で後ろにも人がいてさらに煙草も吸いにくい状況だからか、DOMMUNEの方が集中できているように見えたし断然良かったな。ヨーロッパで受けの良い選曲だから私の好みと合わないのもあるだろうけど。
Nina Kraviz @ Tour Eiffel for Cercle

Nina Kravizは美人で元歯科医で語学堪能な才女で、時代によってはロシアのスパイになっててもおかしくないのでは。DJの技術力はもちろん、音楽を掘り出す熱意とDJセットの構成力も素晴らしいからそこにも注目してもらいたいな。2回目の出演となるCoachellaに向けてプランを練っているようなので、昨年同様世界配信されることを祈ろう。

Nina Kravizのインタビューはたくさんあるのでいくつか観たが、その中で彼女は自由についてよく語っている。ソビエト崩壊後のシベリアで育った幼少時代には異なる言語やカルチャーに触れることなど想像できなかったこと、学生時代には授業に1分遅れただけで欠席扱いにされたことへの疑問、患者を治すという仕事はやることが決まっていると感じたこと等。自由な発想に富み行動力も兼ね備えた彼女には、歯科医という職業はつまらなかっただろう。自由に世界中を旅し、好きな音楽を掘り起こしその音楽で自分を自由に表現している彼女は本当に生き生きしていて楽しそうだし、その楽しさは伝播する。

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