夜の街はコロナウイルス感染に最適な場所
夜の街が悪者とかスケープゴートにされたと言って怒っても、リスクが高いのは確か。そう言われているのは、日本だけではない。お酒やドラッグが入って、大音量で音楽を聴いて楽しく踊っている状態で、しっかりマスクをして距離を守らせるのは難しいし、調査に協力してもらいにくく、匿名性が高いから調査が難航する。マスクさえちゃんと装着できていない人も多くて、鼻が出ちゃってたり、横がパカパカ開いてたりする。クラブで一晩中マスクを外さないのは無理、ドリンクの口をつける部分も、どうしても手で触れてしまう。そして、なぜか、すぐ怪しい科学を信じて頼ってしまう。長期暴露による健康リスクや安全な濃度が十分検証されていないような消毒剤を噴霧したり、コーティングしたり、最近はコロナより、そっちが心配。
そもそも、クラブは安全なところではないのだから、ハードルを下げるなと、このブログも随分と批判されてきた。メディアのせいにして怒るだけでは、何の解決しない。事実から目を背けず、どうすれば少しでもリスクが減らせるか、クラブのイメージがよくなるかを考えることに時間を割くべきでは。
Wiredの記事は、この課題を考える上での観点が網羅的だったので、和訳した。
『コロナウイルスの間のナイトクラブは本当に、本当に、奇妙なものになるでしょう』
ナイトクラブは、ダンスフロアに戻って飲み騒ぐ人を迎えるために必死です。 しかし、密接な接触・年齢・アルコール・限られたスペースの組み合わせにより、コロナウイルス感染に最適な場所になります
Kerry Maiseyは、9年前にナイトクラブをオープンした日と同じように、興奮と恐怖を感じています。 ロンドンのHackneyにある小さな箱 Ridley Road Market Barは、3か月の休止期間を経て、今週末に再開されます。 しかし、箱の様子は、DJが主宰するいつものダンスフロアの体制とは、とても違って見えるでしょう。 代わりに、ビジターは、ダンスフロアのテーブルに座って、音楽のプレイリストを聞いたり、アプリでドリンクを注文したりします。Maisey氏は言います。 「雰囲気は間違いなく大きく異なるでしょう。音楽は、本当に大きな部分を占めています。 箱で交流し、テーブルからテーブルへと移動できることが常に重要です。 再開すると、参加したグループ(内)で交流することになります。」
屋内のキャパは130に代わり50となり、賃貸料などの固定費を賄うため週末に十分なお金を稼ぎ、平日はRidley Road Market Barが開催する映画上映・レクチャー・ニッチな音楽イベントを支援することは、難しくなるでしょう。Maiseyは言います。「私たちは今後どうなるかを見極めようとしています。正直に言うと、店を閉めたままより、開けた方がリスクは高くなります。なぜなら、我々は実際、最早休暇スキームではカバーされなくなるスタッフの賃金を、負担しているからです。
箱 The Hackneyだけが、ソーシャルディスタンシングの概念を試しているのではありません。非常に多くのナイトライフの箱が生き残りに必死で、死に物狂いで人々をダンスフロアに呼び戻そうとしています。しかし、密接な接触・年齢・アルコール・限られたスペースの組み合わせにより、ナイトクラブはコロナウイルスの完璧な繁殖地となっています。
大抵のナイトクラブは、暗い場所にあり、窓がない室内にぎゅうぎゅう詰めで、換気が悪く、人を押し込むのに十分なスペースがありません。どんちゃん騒ぎする人は、バーやフロアに居座り、互いに交流するでしょう。結局、彼らがそこですることなのです。しかし、ドスドスした音楽により、親密な会話をするために人々は近づきお互い叫ぶしかありません。変わったクラブは、バーに行くことを教えますが、それはテキサスの医師が、Covid-19を引き起こす新型コロナウイルスに感染する最もリスクの高い活動としてリストした場所です。
密接に接触し長く話すことは、コロナウイルスの伝染に重要な役割を果たすと考えられています。 大声で話したり、笑ったり歌ったりすると、1回の咳の10倍もの粒子を放出する可能性があります。 人々が踊ったり呼吸が速いと、クラブのむっとする空気の中に残っているウイルスを含んだ飛沫を、より多く吸い込む可能性もあります。
その理由はわかりませんが、個人のごく一部は、いわゆる「speech super-emitters(会話によるスーパー放出者)」であり、通常の発話中でも大量の粒子を放出します。 彼らは一晩で何千もの粒子を放出し、その周りの人々をコロナウイルスにさらす可能性があります。 これに加えて、アルコールは人々の抑制を下げ、その結果、マスクを着用したり、1メートル離れるなどの、ソーシャルディスタンシングルールを守る可能性も低くなります。 「それは、意識の欠如ではありません。 行動意識は1つですが、判断が鈍っていると、リスクの認識の仕方が行動の変を及ぼします。」と、ケンブリッジ大学の公衆衛生医で都市疫学者で、コロナウイルスの危機についての助言を発表する科学者のグループであるIndependent SageのメンバーでもあるTolullah Oniは言います。
夜更かしは、他の人と交流の仕方も異なります。 自分たちの友達グループに固執する人もいれば、新しい人と交流したい人もいます。 感染した個人がダンスフロアを動き回り、一晩でいくつかのナイトクラブを(おそらく公共交通機関やタクシーを利用して)訪れると、ますます多くの人々がウイルスに曝される可能性があります。 5月、29歳の男性がソウルで人気のナイトライフ地区である梨泰院の5つのナイトクラブとバーに行った後、韓国で急激な感染増加が発生しました。 当時は病気の症状を示さなかったにもかかわらず、彼は後にコロナウイルスの検査で陽性となり、246以上の感染症の背後にあった個人の1人であると信じられています。
1人または数人の感染した個人によって引き起こされる、そのような急速で大規模な感染増加は、科学者がスーパー・スプレッド(超拡散)事象と呼んでいるものです。 予備調査では、新しい感染の80%は、スーパー・スプレッダーのわずか20%が起因するものだと示しています。 そのような事象の別の例は、米国のミシガン州で発生しました。感染が確認された170人を辿ると、たった2人で、6月12日に再開し、中に入るための行列は(人の間隔が)詰まっていた、バーを訪れていました。
ナイトクラブやバーから出現するクラスターは、科学者が既に知っていることを裏付けもします。人々は、無意識のうちに、病気の症状を示す前にウイルスを蔓延させることができます。 スペインとイタリアの最近の研究では、コロナウイルス症例の20〜40%が無症候性であると示されています。 イギリスの国家統計局は、研究のサンプルサイズは115と非常に小さかったですが、Covid-19で陽性と判定された個人の67%は症状を報告しなかったと述べています。
夜に複数のクラブやバーを訪れる人々により、接触追跡はロジスティックの悪夢以上になります。多くの場合、箱のオーナーは、感染した個人と接触した可能性のある人々を呼び出す責任を負います。 「『人々』は誰と接触したかを知りませんし、ほとんどのナイトクラブは、誰が参加したかを知りません。 これにより、接触追跡は事実上不可能になります。」と、Sheffield大学の世界的な公衆衛生学のGP(一般医)兼リーダーであるAndrew Leeは言います。
スイスでは、人々は通常、入り口でエントランスフィーを払っていますが、ナイトクラブとバーは6月19日(国の接触追跡アプリがリリースされる1週間前)に再開され、物理的な連絡フォームに記入するようゲストに求めました。 それ以来、4つのナイトクラブでコロナウイルスの発生が報告されており、600人以上の人々に自己隔離を余儀なくされ、その結果、少ないキャパ規制が再び導入されています。 多くのクラブ利用者は、フォームに嘘の連絡先詳細を提供したため、IDと携帯電話番号のチェック、もしくはQRコードで事前チケットを購入する必要という、厳しい入場ルールに直面しています。
他の企業と同様、ナイトクラブのオーナーは、自分たちの箱を存続させることと、一般市民の健康を保護することのバランスをとることは、難しいとわかっています。Mirik Milanは、アムステルダム初の夜の市長として、市内のナイトクラブと政府の間の仲介役を務めました。 今日、彼は、業界の立て直しを支援するベルリンクラブコミッションの広報担当者であるLutz Leichsenringと一緒に、VibeLabエージェンシーを運営しています。「誰もが『50%の情報で100%の判断をしている』と言っていますが、ナイトクラブや夜間の施設に関しては、それは本当に問題があります。」とMilanは言います。 この2人組は、他の夜市長、クラブのオーナー、ハーバード大学やペンシルベニア大学の都市研究者と協力して、業界のリカバリー計画を進めています。
通常、年齢の下限制限を命じられる業界で、オランダのナイトクラブは、35歳の年齢上限制限とドアの体温チェックの導入を検討しています。 ただし、一晩中無症状の保菌者を踊らせてしまうという問題は、必ずしも解決されません。「ナイトクラブは、若者が頻繁に訪れる可能性が高く、彼らはCovid-19に感染しても無症候性である可能性が高い人口集団であることを私たちはわかっています。」とLee は言います。 赤外線カメラと「体温計銃」を使用して人の体温を検査しても、症状が軽いか全くない人の感染を検出できないことが多く、特に効果的ではありません。
ソーシャルディスタンシングも、言うのは簡単です。 ダンスフロアで1メートルを離すことは難であり、多くのクラブオーナーにとって、キャパが1/3しかなく、店を開けても意味がありません。 ベルリンでSchwuZ(ドイツで最大級且つ最古級のクィアクラブ)を運営するMarcel Weberは、ナイトライフ業界とそれが提供するさまざまなコミュニティの将来を心配しています。彼は言います。「特にLGBTIQにとって、今、他の人に会う機会は少ないです。相談サービスもまだ閉鎖されています。 ですから、課題は、インターネット上ではなく、リアルライフでどこで人々が会えるのかということです。」
世界の他の地域では、ナイトクラブは、ダンスフロアを座席エリアに変えています。 例えば、オランダとオーストラリアでは、椅子に座ったままか、テーブルの傍にいる場合に限って、踊ることができます。 ブリスベン出身の36歳のITコンサルタント、Vincent Yaoはあまり気にしていません。彼はどっちみちダンスにあまり熱心でないというのが主な理由です。彼はブリスベンのナイトクラブBirdeesのオープンについて語りました。 「確かに、先週末は楽しかったです。人、特に酔っている人をコントロールするのは本当に難しいですが、おそらくテーブルと椅子の配置を使ったソーシャルエンジニアリングによって、人々をダンスフロアで自由にする代わりに、彼ら自身のグループに寄せ集めることができます。」 新築住宅販売で働いている25歳のSavina Simatovicも、ブリスベンのLarucheで夜を過ごしました。 「とても厳しくても、出かけるのは楽しいです。もし、男と交流したり、バーでショットをあおりたいなら、同じ雰囲気ではありません。」と彼女は言います。
ナイトクラブからバーへの転換により、一部の施設は何とか成り立つ可能性がありますが、ベルリンのクラブSchwuZは、1,100名収容可能であり、収益を上げるには最低600名のお金を使ってくれる顧客が必要です。 それでも、Weberと彼のチームは、LGBTQ+コミュニティのための安全な場所を作り、スタッフを給与を維持するため、バー構想を秋から試してみる予定です。
ナイトクラブは、距離を置いた座席、接触追跡、オンライン注文システム、換気と衛生の改善と、安全に再開するためのクリエイティブな方法を模索していますが、全てのリスク要因を取り除くことは不可能です。 クラブのマネージャーが箱を歩き回り、人々に笑ったり歌ったりしないように指示する可能性は低いです。VibeLabのMilanは言います。「過度に大声で話している人をスタッフに取り締まらせたくないでしょう。我々がナイトライフを病院のように殺風景にすれば、本質を奪います。」