ウクライナの音楽産業 家族を殺した国でのライブ

掘れば掘っただけ、優れた音楽コンテンツに出会えるウクライナ。バレエなど芸術文化を育んできた歴史も関係していそうだが、クリミア危機という非常に厳しい時期と状況がありながら、なぜこれだけ豊かな音楽産業ができたのか、とても気になっていた。その疑問の答えとなるような、ウクライナの音楽事情に詳しい英語の記事があったので和訳した。ウクライナの人口は日本の1/3程度、ロシアと非常に言語は近いが難しい関係にある。日本とは異なるが、厳しい状況の中で音楽産業を振興するために打たれた施策は参考になる。日本は戦後70年以上経過し、敵国だった意識を持つ人はもうほとんどいない。言葉や文化も近いのに家族を殺され土地を奪った国との音楽を通した関係、それぞれのアーティストがどうすべきか考え行動している。そして困難な状況に背を向けず、海外にも通用する音楽やコンテンツを生み出しているウクライナの音楽産業の話。以下、和訳。

ウクライナの音楽産業はアーティストにとって小さ過ぎる』

ウクライナが8月24日に独立記念日を祝う間、ウクライナの芸術家Tarasと姉妹デュオのAnna-Mariaは、ロシアのソチで若いミュージシャンのためのNew Waveコンテストに参加しました。ロシア政府が祖国に対する戦争を始めた後でさえ、ロシアで公演した多くのアーティストの先例に彼らは倣いました。その戦争により13,000人が死亡し国の7%が分断され、今も続いています。
「私たちは地球の人々に音楽を披露したいと思っています。」AnnaとMaria Opanasiukは、Instagramでロシアのコンテストへの参加について書いています。これは「ファンに近づこうとする」または「音楽で平和を広める」とよく言うロシアでツアーする他のウクライナ人のレトリックに従っています。
しかし厳密には経済の観点から、2つの要因によってより大きなロシアの音楽市場へシフトしていると説明できます。まず第一に、ウクライナの市場は多くのウクライナのミュージシャンの野望には小さ過ぎます。第二に、米国と西ヨーロッパの市場は依然としてアクセスしにくいのです。ですから彼らはロシアを選びます。
ロシアのショービジネスは、ロシア語で歌うことを好むウクライナのアーティストにとっても魅力的です。ラジオでのウクライナ語の歌の割り当ては、ウクライナ語の音楽を支持する傾向を強め、ラジオ局のロシア語の歌に対する需要を減少させました。
これはまた、ウクライナのラジオで聴かれるために、ミュージシャンはウクライナ語でより多くの曲を作らなければならないことを意味します。しかし、ウクライナ語のレパートリーは欧米諸国の視聴者にとってはあまり関係がありません。
そのため、アーティストはウクライナ語と外国語の両方で歌を作成して、国内市場と海外市場の両方で注目される必要があります。

ウクライナのミュージシャンは、割り当てとロシア市場の誘惑に加え、他の問題に直面しています。アーティスト・音楽レーベル・配信・ストリーミングプラットフォームの音楽販売売上を破壊する、著作権侵害の蔓延が続いています。
このため、ウクライナの主要な音楽レーベルのフランチャイズウクライナのアーティストと契約することはめったにありません。そして、世界の三大音楽レーベルのうち2つはウクライナに支社があるにも関わらず、ロシアのオフィスを通じてウクライナのアーティストと仕事をしています。
著作権侵害との闘いと外国投資の誘致は、ウクライナの音楽産業の発展にとって最優先事項であるべきだと、Mnogo Vody広告代理店の創業者で約40のウクライナの法令に動いているOleksandr Varenitsaは言います。
Varenitsaは「まず音楽産業が開発されるべきです。アーティストは自分の足でしっかりと立つべきです。 そうして初めて、イデオロギーの問題に対処するだけの価値を持ちます。」と、Kyiv Postに語りました。

ロシアツアー
2014年にロシアとウクライナが戦争を開始して以来、ウクライナのアーティストがロシアで公演する問題は、ウクライナ社会で激しい議論の的となっています。
今年最も目立ったケースでは、Eurovision Song Contestのウクライナ全国選考コンクールで優勝した歌手Maruvは、ロシアで頻繁な公演をし国民から批判されました。
これに反応して、ウクライナのEurovisionのパートナーであるウクライナ公共放送会社は、契約に条項を追加し、ウクライナの代表者がEurovisionの前後3か月間ロシアで出演することを禁止しました。
これにより、別の市民は規則のの突然の変更とMaruvの自由な公演への干渉に激怒し激しく反対抗議をしました。結局、Maruvと他のファイナリストは契約への署名を拒否し、ウクライナは競争から完全に撤退することを余儀なくされました。
多くのウクライナ人にとって、ロシアで公演を行うことには明らかな倫理的問題があります。モスクワの戦争で、13,000人以上が死亡したのに加え、30,000人もの負傷者を出し、少なくとも150万人が追放されました。それは、多数のウクライナ人に直接影響しています。
ロシアでのツアーに反対するもっと重要な理由もあります。非居住外国人として、ウクライナのアーティストは、ロシアでのコンサートで得られるすべての法的支払いに対し30%の所得税を支払わなければなりません。つまり、1,000ドルごとに300ドルがロシアの国家予算に充てられ、ウクライナとの戦争の資金調達に役立ちます。
しかし、多くのウクライナのアーティストは、ロシアの音楽レーベルまたは主要な国際レーベルのロシアの系列会社と契約しています。これは、レーベルとの契約によりロシアでのツアーが必要になる可能性があることを意味します。例えば、Maruvはウクライナで多くのスター発掘番組に挑戦した後、Warner Music Russiaに契約されましたが、ウクライナのレーベルは雇いませんでした。
現在、ロシアでのツアーは法律によって規制されていません。Eurovisionのスキャンダルの後、前副首相のVyacheslav Kyrylenkoは、アーティストにロシアでのツアーについて通知させることを求める法案を提出しました。州の機関は、こうしたミュージシャンの登録簿を保持し、ショーのポスター、ミュージックビデオ、およびラジオで再生される歌に「このアーティストは侵略国の領土をツアーします」というメッセージを付けます。
Varenitsaは別の戦略を提案しています。ウクライナのアーティストがロシアのコンサートで稼いだお金へに20から25%の「良心税」を導入することです。税収は、他のウクライナのアーティストをヨーロッパでプロモーションするために使われます。
「このモデルは、すべての関係者が満足します」とVarenitsa氏は言います。

言語の割り当て
ウクライナの音楽におけるもう一つの論争の的となっている問題は、ラジオのウクライナ語の歌の言語割り当てです。
州は2016年に割り当てを25%に設定し、2018年まで毎年5%ずつ増加できるようにしました。したがって、今日、ラジオで再生するすべての曲の35%、凡そ3曲に1曲はウクライナ語になります。割り当てを満たしていないステーションは、相当な罰金に直面します。
割り当てを設定した法の修正条項の草案者は、これらがウクライナ語の普及に役立つだけでなく、新しいウクライナのアーティストの応援になると期待していました。同様の割り当ては、フランスやポーランドなどの欧州連合諸国でも実施されています。
法の修正条項の起案者の1人であるViktoriia Siumarは「言語の割り当てのおかげで、ウクライナ語の文化なプロダクトの需要が出てきました。そしてこれは、録音スタジオの構築、新しいアーティスト・作曲家・作家の出現に弾みをつけました。」と、Radio Free Europe / Radio Libertyに語りました。
実際ウクライナ音楽の新しい波が現れましたが、割り当てだけによるものではありません。ほぼウクライナ語で歌うOnuka、Yuko、Alyona Alyona、 Alina Pashなどのとても評判が良い若いアーティストは、ほとんどラジオに出演しません。
2014年2月22日にロシア政府が支援するViktor Yanukovych大統領を政権から追い出した、民衆蜂起であるEuroMaidan革命の後、ウクライナ語の音楽に対する需要が自然に増加したと、若いインディーロックバンド5 VymirのフロントマンであるKostyantyn Pochtarは言います。
Pochtarは「割り当ては役に立ちませんでした。ラジオには多少ローテーションがありますが、それほど頻繁ではありません。歌が毎時間再生されるとき、ラジオは効果があります」と、キエフポストに語りました。
それどころか、ラジオ局は、主流のポップアーティストの長年の実績のあるウクライナ語のヒット曲や歌を再生する傾向があります。新しいウクライナのミュージシャンの音楽が、ラジオチャートのトップに到達することはめったにありません。 TopHit音楽ポータルのデータによると、2017年にラジオで再生された上位200曲のうち、88曲が2018年に同じリストに追加されました。
Varenitsaによれば、新しいコンテンツや若いアーティストを宣伝しないラジオの言語割り当ては、ラジオからの視聴者の流出を加速するだけです。若いリスナーはインターネット、特にYouTubeで新しい音楽を見つけに行きます。 YouTubeのチャートによると、その音楽のほとんどはロシアのものです。
選挙運動中にVolodymyr Zelensky大統領は、テレビとラジオのウクライナ語の割り当てを廃止しないが、それを実施する他の方法を模索すると述べました。これを行うための1つの方法は、ウクライナ語のコンテンツを作成するメディア企業の税金を軽減することだと彼は言いました。
Zelensky(大統領)によって任命された新しい人道政策担当大臣で、元テレビ局長でもあるVolodymyr Borodianskyは、言語の割り当てに反対でしたが、その後彼の考えを変えたと言いました。
「これは正しいステップであって、結果をもたらしたと今は思います。禁止は非効率的で時代遅れだといつも信じていました。しかしこの場合、それは完全に機能しました。」とBorodiansky はLB.uaニュースウェブサイトに語りました。
割り当ては、彼らが歌う言語ではなく、ウクライナのアーティストに有利に働くべきだとVarenitsa(大臣)は述べています。ウクライナのラジオで、ロシアの音楽の放送時間を最小限に抑えるか無くすかして、ウクライナのアーティストによる英語ロシア語を含むあらゆる言語の曲の割り当てを規定することを彼は提案します。
「私たちはウクライナの音楽を宣伝すべきですが、言語によって制限されるべきではありません。言語は単にミュージシャンのための芸術的なツールだからです」とVarenitsa(大臣)は言います。 「我々自身の市場で英語で歌うウクライナのアーティストを宣伝すれば、彼らは自分たちの音楽で欧米の市場を驚かせる機会が増えるでしょう。」

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