DJ Sakuma (Modest) 音の脚本・映画監督

ご存じの通り、私は要求過多で過剰に期待してしまう性格。皆さんの素晴らしい作品を堪能し尽くした結果、普通に上手いだけでは満足できなくなってしまった。なんて我儘。そんな高い期待を飛び越え、唸らせる作品。またDJに感動してしまった。
DJは、ボタン押して好きな曲を順番にかけているだけだと思ってる人に聴かせたい。DJの概念が変わるから。単なる寄せ集めではなく、2時間映画のような一本の作品であるということが理解してもらえると思う。

無音の美

オープニングとは言え、酔ったお客さんに怒られなかったのか心配になるくらい、音が鳴らない。建築も壁や柱があることでできた空間部分、光があることでできた影に、私は意識が向く。音楽も、鳴っている音と同じくらい、無音部分のデザインが気になる。音を敷き詰めるかより、どう抜くか、どれくらい鳴らさないかの方が難しいのではないかと思う。特に前半部分は、それが堪能できる。音の隙間に注目してこのミックスを聴けば、私が何を言っているか、わかってもらえると思う。スカスカなのではなく、無音部分の美しさを。

立体音響

カナル型イヤホンでの鑑賞がおすすめ。7:25あたりからの曲は、バイノーラル録音の作品なのか、耳の中をカリカリされたり、電気がビリビリ流れたりするリアルな感覚。高価でもないイヤフォンで、こんなに立体的に聴こえる音源があるのね。というか、それをDJミックスで取り入れてみようという発想が、独創的でチャレンジング。Contactの大きなスピーカーだと、どんな風に聴こえたのだろう。

物語

evalaさんの『See by Your Ears』、耳で視る映画を鑑賞したときの感覚を思い出した。『See by Your Ears』を鑑賞した人は、感想を「何が見えたか」映像で語る人が多かったらしい。このSakumaさんの作品は、映像の更に先、私には物語が見えた。鐘がなった後何が起きた、何に乗ってどこを彷徨った等。ナレーションは1か所のみで、他は歌もなく音がなっているだけ。最初から最後までの音の情景を言葉で表現したら、小説になる。

デザインの複雑さが、視覚的にも表示されている。
f:id:senotic:20200223055401j:plain

繋ぎ

物語に没入させてくれるのは、曲と曲の繋ぎ目を全く意識させないから。このミックスにおいて、曲名を探すなんてナンセンスだと気が付いてやめた。これは、曲を順番にかけて繋いでいるDJミックスだということを忘れてしまう。事前に選曲固めて練習を重ねたとしても、こんな完璧な繋ぎは難しいと思う。特に前半は、単純な繰り返しがなく、とても複雑な曲だから。

選曲

例え映画のようなミックスを頭に描けたとしても、DJは曲を作らないので、他人の曲を組み合わせて表現しなければいけない。バラバラのアーティストが、DJのテーマとは関係なく何かをイメージして作った曲を集め、映画みたいな1つの作品を作る。パッチワーク感を一切出さずに。ミックスの構想がしっかりすればするほど、イメージ通りの曲を見つけることは容易ではないはず。しかもシームレスに繋げる曲でないといけない。どれだけ幅広く曲を知っておられるかも伺える。

立ち上がり

最初の音が鳴らないところから、後半に入るまでの立ち上がりが、本当に自然。ついつい作品に没入してしまうので、何回聴き直してもどこで変化しているか気が付かない。速くなっては一旦落ち着き、音が密になったかと思えば、また無音があったり、揺り戻しながら、じわじわと変化する。

メリハリ

前半時間をかけて丁寧に立ち上げたからこそ、後半が引き立つ。前半ほど分かり易くではないが、後半も単純な繰り返しはなく、地模様のようにモノトーンでありながら、細かい変化を繰り返している。BPMも変わる。1:39:00くらいからの、一旦スローダウンするところとか、もうね。外から促されてではなく、体の奥から興奮が沸き上がる。こんなの聴いちゃったら、またハードルが上がってしまう。

結果を出す

「本数を減らして、一本一本により集中」すると宣言して、その通りの結果も出せる。前回の二番煎じではなく、新たな形で。

 あまりにも多角的にずば抜け、一線を画していて、クラブで酔ってしゃべりながら聴くだけではもったいないような。これだけの作品、音楽の脚本や映画監督的な能力を、もっと活かせる場所があってもいいのではないか。evalaさんと組んで頂いて、立体音響で鑑賞できる作品を作ってもらえたらなんてね。

Copyright © 電子計算機舞踏音楽 All Rights Reserved.