ミュージック・テクノロジーとメディア・アート ~創作と研究の交差点~

立体音響に興味があり、22.2 マルチチャンネル音響システムの体験とメディア・アートのシンポジウムに行ってみた。

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22.2 マルチチャンネル音響システムによるデモンストレーション
Marc Battier(マルク・バティエ)作曲:
In the Painter’Studio.(オリジナル8channels)
ミックス : 蓮尾美沙希 (東京藝術大学大学院音楽音響創造修士2年)
西岡龍彦 作曲:
天平乱声 ~オーケストラのためのポストリュード~

無響室ではなく、防音室のような部屋に椅子が9席、席を囲むようにスピーカーが並べられており、上からも吊るされている。9席は3席が3列、後ろの席が前より高くなっている。9席が埋まった後、関係者の方か何名か追加で入ってきて、スピーカーの前に立ったまま。指向性スピーカーではないとしても、真ん前に何人も立っていてちゃんと聴こえるんだろうかと不安になる。1つ目はマルク・バティエ氏の作品、元が8チャンネルの作品だからか、全く立体感がない。次に西岡氏のオーケストラを録音した作品。チャンネルごとに楽器が割り当てられている。天井にオーケストラがあるように感じられたが、平面的で立体感はない。いくらチャンネル数が多くても、それを生かせるコンテンツがないとダメなことがよくわかった。例えば音が左右に動いたり、自分の周りを1周したりすると音に包まれる気がする。5.1チャンネルでも十分奥行きや広がりを感じることはあるから、絵の遠近法のように、音にも立体性を錯覚させるような作り方がありそう。バイノーマルマイクとか録音の仕方でも変わるんだろうな。

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第1部:特別講演 14:00~15:00
岩田洋夫(筑波大学システム情報系教授)
“Virtual Reality and Device Art”

人間の知覚の種類の解説に始まり、教授の研究の歴史を、写真や映像を多用して素人にもわかりやすい言葉で説明されていた。面白かったのは、お煎餅を食べる仮想体験の実験。光は三原色の組み合わせで作れるが、味の要素は非常に多いので難しいそう。なので、お煎餅を食べたときの触感を疑似体験することができる装置。この前、ワイパさんが、食事を楽しむためのカロリーのない食品についてつぶやかれていた気がするのだけど、VRであればカロリーを気にせずいくらでもおいしいものが食べられる。実際には存在しない食べ物だってVRの中で創造もできるし、いろんな可能性がありそう。

Food Simulator – Virtual Reality Lab,

仮想現実の中を、実際自分の足を動かして動き回れるとより現実感があるが、実際にいるのは部屋の中なので、広大な場所でやらない限りは、歩くと壁にぶつかってしまう。部屋の中にいながら、自分の足を動かして歩き回れるための装置の開発例も面白かった。滑ることでその場に留まるか、床自体が動いて人を同じ場所に戻すかのどちらか。JamiroquaiのVirtual InsanityのPVを思い出した。ハムスターの運動器具じゃないけど、ベアリングみたいに動く球体の中に入れればいいんじゃないかと思った。

Locomotion Interfaces – Virtual Reality Lab,

人間を載せているルンバみたいなロボットが動くことで、人が歩いても移動させず、人を元の位置に戻す仕組み。誰かがこのロボットのことを「けなげだ」と言ったらしい。ロボットは技術的な目的で作られたものだけど、「けなげだ」という気持ちにさせるようなアートにもなったと。技術と芸術の融合はまだ限られた範囲の気がするから、もっと広い分野でコラボが加速すると、楽しいものが観れそう。

CirculaFloor

 

第2部:映像と音響作品の上映 15:00~15:30
Jaroslaw Kapuscinski(ヤロスラフ・カプチンスキ)制作:
Mondrian Variations (1992)
United (2013)

スタンフォード大学教授の方の作品なのだが、つまらない作品だった。Mondrianの方は、縦横の線が移動し、最後にMondrianの絵画になるというもの。別の音楽で、且つ線の動くスピードによっては、気持ちよさを感じられたかもしれない。Unitedは、成田空港の飛行機の出発までの映像と雅楽を合わせたもの。飛行機のゆったりとした動きと雅楽の厳かな音を調和させたかったのだろうけれど、なんかもうちょっとやりようがなかったのか、単に合わせただけで感じるものも何もなかった。

 

第3部:シンポジウム16:00~17:30
Marc Battier マルク・バティエ (パリ第4大学名誉教授 音楽学・作曲)
Jaroslaw Kapuscinski ヤロスラフ・カプチンスキ (スタンフォード大学准教授 作曲)
Frederic Bevilacqua フレデリック・ベビラクア (IRCAM 研究者)
Maral Mohammadian マラル・モハマディアン (NFB プロデューサー)
後藤英 (本学音楽学部音楽環境創造科准教授 作曲家 メディアアーティスト)

順に自己紹介だったのだがが、マルク・バティエ氏が暴走。話が止まらず半分以上の時間を費やしてしまい、シンポジウムなのにディスカッションの時間がなくなる。マラル・モハマディアン氏はカナダのきれいな英語でゆっくり話してくれたのと、他の方は英語が非母国語だったので、割と聞き取れた。理解できなかった部分の通訳が聞きたかったのだが、プロの通訳の方ではなく肝心なところを訳してもらえなかったのが残念だった。逆にtrackとかも訳されてしまって、余計にわかりにくくなったり。
マルク・バティエ氏は抽象絵画を音楽に変換するプロジェクトの説明をしていた。絵画の縦軸を周波数、横軸を時間に置き換えているようだった。ちゃんとした音楽も奏でる"DAWのお絵かきの大作"をたくさん見てるから、斬新な発想だと全く思えない。文脈や、意味、研究価値の付け方があるんだろうけれど、ソルボンヌ大学でこんな研究で食っていけるのかぁと思ってしまった。
フレデリック・ベビラクア氏の研究は、ボールの中に機材を入れてそれがボールが動くと音が変わるとか、テルミンみたいな非接触で演奏できる楽器、フェス参加者が音楽を作っていくのとか、目新しさはないが、エンターテイメントにもすぐに応用できそうな技術が多くて楽しかった。

マラル・モハマディアン氏はカナダのアニメーションスタジオや作品について説明。恵まれた環境だとは思ったが、目新しい技術はなかった。さすがプロデューサだけあって、パワポの発表資料にセンスがあり、話し方も上手かった。教授のパワポのセンスがないのは、日本だけじゃないんだ。メディアアート専門なのに。
後藤英氏、英語、フランス語も流暢な様子で、昔はハードウェアから自作する必要があったので、技術や技術的知識もあるそう。藝大の教授にこんな方がおられるのかと。センサーのついたロボットスーツや、プロジェクションマッピングなど、一般の人が「未来のテクノロジー」と言って頭に思い描くような、かっこいい作品が多い。個人的には、音の振動で液体が変化する作品が気持ちがよかった。

マルチチャンネルの作品、シンポジウムのファシリテートは残念だったが、国の補助も入っているのだから、こうして一般にオープンになることは良いこと。日頃触れているインディーズの音楽、よく見に行く藝大生の作品、権威のある賞などでまだ評価されていないものだけど、間違いなく新しく、とても質が高いものだと自信が持てた。