DJは子供の憧れの職業になれるか

また転換DJがなめられた話。日本ではDJの認知度や地位が低い。私もつい2年ほど前まで、DJは曲繋げてシュワシュワってエフェクトかける人だと思っていた。今や曲単体で聴くより、DJミックスを聴いてDJをdigする時間の方が圧倒的に長い。多くの音楽好きの人がDJの楽しみ方を知らずにいるなんて。どうしたらDJのやってることや価値が理解してもらえるだろうか、ずっと考えてる。

ベテランVJを招いて話を聞こうという配信番組「 #VJ概論 AFTER HOURS」、ここにヒントが詰まってた。第2回のゲストはスペイン イビザ島でレギュラーも持つTONTON氏と、WombでVJをされているH2KGRAPHICSのNarishige Matsushita氏。Matsushita氏は私が存分に楽しませてもらったSOUND MUSEUM VISIONの周年も担当されていたことがわかり、あの演出をされてたのかと感慨深かった。DJのプレゼンスを上げるという観点で特に参考になったのはTONTON氏のお話だったので、以下にまとめてみた。

スペイン イビザ島と言えばクラブの聖地とも呼ばれる。VJ TONTON氏がイビザでVJを始めたのは7年前。日本に閉塞感を感じていたちょうどその頃に声がかかり、まずは行ってみることに。当時光の強い明るいVJをする人が多く、その中で暗いVJは斬新で採用された。ボスは非常に厳しく、失敗したり調子に乗ったりするとアメリカの警察が使うような光の強いライトで遠くからTONTON氏の顔をビカっと照らしてくる。スペイン語なので言葉は通じないが、映画『セッション』のように繰り返すことで覚えていった。始めた当時は照明やバーテンダーよりもギャラが安く、DVDを流していると誤解されていたこともあった。イビザ島の大きさは山手線くらいで、大きなクラブは5軒程。アーティスト付きではなくイビザで一晩通してVJをするのは15人くらいで狭き門。イビザのVJは全員友達になるくらいコミュニティが強く、年1回一番良かったVJを表彰するなどお互いの良い面をリスペクトしあっている。日本と比べギャラ交渉は厳しいけれど、VJ同士で連携して安く受けないようにしたり、エージェントを挟んで交渉することでギャラも上がり、自分たちの意見も通るようになっていった。イビザの大きなクラブは、キャパ3~6千人、最大8,9千人。エントリー30~50ユーロ(4~6千円)、離島ということもありレッドブルウォッカが25ユーロ(3千円)くらい。クラブがビジネスとしてしっかり成り立っている。東京はイビザと状況が異なるが、たとえ100円でも交通費だけでも誰かが何かやってくれたことに対してお金が発生した方が、将来的にVJという仕事が確立するのではないか。
参考)イビザの水は1500円(2015年当時、現在の為替相場で換算)

イビザでは照明もレーザーも含めてVisualistと呼ぶようにした。2年前からはVisualistを前面に出した"VJが"ヘッドライナーのパーティ『SO 創』を開始。DJとVJを並列に扱い、その組み合わせの妙を楽しむ。最初2~300人だったが、今では千人規模。未来に向けて自分たちで変えていってる。

この10年でVJの認知は上がった、一人一人が一アーティストとして良い仕事をすることが今後に繋がる。VJがモテてかっこよくてお金も稼げる、俺もVJになりたい、そういうVJのヒーローが現れたらいいんじゃないか、憧れの存在になる。中学生のアイドルが「今日もVJ TONTONさんありがとうございました。」と言う。中学生がVJという単語を言ってる。それだけで凄い。革命的だ。そっからいこう、俺は。そっからちょっと変わってくんじゃないか。

以上がTONTON氏のお話。イビザに常駐してVJをされている日本人がいらしたことにまず驚きだった。あまり苦労話はされず面白おかしくお話されていたけれど、世界中のトップDJが集まるイビザで7年も働き続けることは決して簡単ではなかったはず。自分の話ばかりにならないか気遣いされながら、決して自慢やマウントはされず、惜しげもなくご自身の経験を話して下さるTONTON氏の姿勢はとてもかっこよかった。(DJでそういうかっこいい人知らないんだけど、探せばいるのかなぁ。)そこまで成し遂げた方なのに、日本でのVJの認知度は冷静に把握されていて、バズの力で一気に有名になるケースが増えている現在においても、一人一人の活動で積み上げていくという考え方をされていることに感銘を受けた。地道な努力の積み重ねがあってこそ、成功されたのかなと。

VJ TONTON氏のお話から学ぶDJのプレゼンスを上げるためのヒントは、こんな感じではなかろうか。
①きちんとギャラをもらう、交渉する
②ギャラをもらうために価値を説明する
③DJ/VJ同士横で繋がって連携する
④DJ/VJの価値を能動的に先手で発信する(例:VJが主役のイベント)
⑤若年層にDJ/VJを認知してもらう
⑥ヒーローを生み出す
ギャラは大事だと思う。ギャラが高くなればそれ相応の扱いをされるようになる。DJをやりたい人が多くて安く受ける人をやめさせることはできないだろう。例えば、ギャラは外タレの数十分の一だけど集客力も本当にそれだけなのか、客数と箱代から考えてDJの取り分は妥当なのか、過当競争に巻き込まれないように値上げするには何が必要かオーガナイザーと話あったりするのはどうなんだろう、知らんけど。#VJ概論では、普段別の箱やパーティで仕事してる人たちが、リスペクトし合いながら話してる。DJはVJより個人主義が強そうだから難しいかな。「BGM係と思われてリクエストされた~」とか「転換DJなめられた~」って怒ってるだけじゃ何も変わらないと思う。サッカーでもやったことがある人はプロサッカー選手の凄さがわかる。逆にヨットなんか、いかに知力体力を使うスポーツか知らないでしょう。アニメとかドラマ、広告のDJの所作がおかしいとかすぐ言うけれど、世間の認知はそんなもの。医者や弁護士のドラマが実態とかけはなれていても、それを見た子供が憧れ実際になれたらそれでいいやん。私の母は琴の師範、敷居が高くて流派やさらに細かい派閥もあったりで、結果すっかり衰退してしまった。子供が公園でボール蹴るようにDJも始めることができて人口が増えれば、プロのDJがどれだけ凄いか理解できる人が増える。DJ界が羽生結弦大坂なおみ、将棋の藤井聡太みたいな存在を生み出せるようになって、子供が憧れてくれたら一番効果的。小さい子供用の丈夫でカラフルなミキサーとかタンテが売り出されたりしてね。人生短いし、大人になってからしかDJの面白さに触れられないなんて、本当にもったいないんだから。

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