Residente - This is Not America ミュージックビデオ解説
アメリカ合衆国以外のアメリカ大陸、主にラテンアメリカについての歌『This is Not America』。歌詞だけではなく、映像でもラテンアメリカの歴史が表現されている。
- Lolita Lebrón (プエルトリコ)
- Damian Ortega 『Controller of the Universe』(メキシコ)
- サパティスタ民族解放軍の女性 (メキシコ)
- Marielle Franco (ブラジル)
- Jair Bolsonaro大統領 (ブラジル)
- Victor Jara (チリ)
- Jose Victor Salazar (ベネズエラ)
- Lucas Villa (コロンビア)
- Palenqueras (コロンビア)
- 書き終わって
Lolita Lebrón (プエルトリコ)
1954年、プエルトリコ国民党のLolita Lebrónは、プエルトリコの独立問題に関心を向けさせるため、アメリカ合衆国国会議事堂を襲撃した。彼女は天井に向かって発砲したとされる。
Damian Ortega 『Controller of the Universe』(メキシコ)
メキシコのアーティストDamian Ortegaの作品『Controller of the Universe』を模倣したもの。Damian Ortegaは、元政治風刺漫画家で、風刺を用い資本主義・貧困・グローバリゼーション・西洋化・移民などのテーマを扱っている。
Damián Ortega’s Cosmic Thing – Entire Volkswagen Beetle dissected – Public Delivery
Damián Ortega Conjures Visual Poetry from the Everyday - ELEPHANT
『Controller of the Universe』は、中に入って鑑賞することができる作品。天井から吊るされた道具は、作品の真ん中に立つ人の目線に向けられている。
Damian Ortegaは、 「非常に重要なのは、部品が近くにある経験です。写真や映像で見ることはできますが、物理的に経験するのとは全く異なります。」と説明している。
銃口を向けられた人の写真や映像を見ることと、実際に銃口を向けられることは全く異なる。
サパティスタ民族解放軍の女性 (メキシコ)
サパティスタ民族解放軍(EZLN)は、メキシコ チアバス州の貧しい先住民を中心とした元ゲリラ組織。アメリカのロックバンドRage Against the Machineが支援していた。サパティスタ民族解放軍メンバーの1/3が女性で、支援基地の半分が女性で構成されている。男女平等は、サパティスタのイデオロギーに組み込まれている。
Mujeres en el EZLN - Wikipedia, la enciclopedia libre
サパティスタ:民族解放軍とはなんぞや @サンクリ | 旅 × 雑貨 × 散歩
Marielle Franco (ブラジル)
Marielle Francoは、ブラジルの政治家・社会学者・フェミニスト・人権活動家。彼女は警察の残虐行為を批判しており、Jair Bolsonaro大統領と近い関係にあった人物から、頭と首に銃撃を受けて暗殺された。
Jair Bolsonaro大統領 (ブラジル)
2019年にJair Bolsonaroがブラジル大統領に就任して以降、アマゾン熱帯雨林の消失が加速している。アマゾン熱帯雨林は、現存する熱帯雨林の約半分を占める世界最大の熱帯雨林で、大気中の二酸化炭素を吸収する役目を果たしており、その消失は地球の温暖化にも影響を及ぼす。政府は、アマゾン熱帯雨林保護政策を緩和し、農業や食肉用家畜の放牧地として開拓を促進している。アマゾンには、未だ多くの先住民が暮らしているが、違法な開拓により住む場所を追われている。
アマゾンを開拓して得られた農産物と肉を食し、ブラジルの国旗で口を拭う(国を汚す)大統領。
背後から大統領に向けて弓矢を引くしぐさをする先住民の子ども。
Victor Jara (チリ)
Victor Jaraは、チリのミュージシャンで、政治・教育・演劇など幅広く活動していた。1973年、軍がクーデターにより政権を奪い、軍事独裁政権は社会活動家などを拘束した。チリスタジアムは収容所となり、そこでVictor Jaraは拷問を受けた後、殺害された。下の場面は、Childish Gambinoの『This Is America』をオマージュでもある。
Jose Victor Salazar (ベネズエラ)
2016年以降、ベネズエラは、Nicolás Maduro大統領の独裁政権下にある。最高裁に違憲判断を出させ国民議会の立法を無効化したり、大統領罷免のための国民投票を却下するなど。
2017年カラカスでの反政府運動に参加していたJose Victor Salazarは、爆発に巻き込まれ大やけどを負う。その様子を捉えた報道写真が、ベネズエラの危機を伝えるものとして、2018年World Press Photo of the Yearを受賞した。
AFP’s photographers Ronaldo Schemidt, Juan Barreto and Oli Scarff won World Press Photo contests as Photo of the Year, 3rd place in Spot News Sinlgles and 1st Sport Single, respectively. Big Congratulations to all! @rschemidt, @jbarreto1974 @oliscarff #AFPphoto pic.twitter.com/KYmltaJgV0
— AFP Photo (@AFPphoto) 2018年4月12日
Lucas Villa (コロンビア)
2021年5月、大学生であったLucas Villaは、ダンス・歌・握手など平和的な抗議活動をしていたが、デモ行進中に銃撃され死亡した。学生が主導する抗議活動が、麻薬カルテルの1つである犯罪組織(ギャング)の違法な収入(麻薬・人身・武器の売買等)に影響を与えていたため、狙われたとみられる。その後、Lucas Villaの家族も脅迫を受けている。Lucas Villaは、青いシャツに赤いバンダナを首に巻いて平和的な抗議活動を行っていた。ミュージックビデオの中で、遺体にかけられたのはコロンビアの国旗。
Palenqueras (コロンビア)
スペイン統治時代、カタルヘナにはアフリカから多くの人々が奴隷として連れて来られ、奴隷貿易が行われていた。奴隷から逃げ出した人々が、San Basilio de Palenqueという町を作った。1691年、スペイン王政は、Palenqueが新たな脱走者を受け入れない場合に限ってその存在を認めた。アメリカ大陸において、奴隷からの自由の地位を獲得した最初のケースとされる。言語や音楽など、Palenqueの文化はアフリカ文化を引き継いでいる。
Palenqueの女性たちPalenquerasは、頭にフルーツやお菓子を載せて行商をしていた。現在は、カラフルな民族衣装を着て、観光客と一緒に写真を撮ることも仕事としている。
書き終わって
一行書くにもいくつも記事を読むことになり、勉強になった。結局、貧しくなれば、弱い者から搾取せざるを得なくなる。フェアトレードの高いチョコレートを買えるのはお金持ちで、貧困や紛争地域では人のものを奪ってでも食べなければ飢え死にしてしまう。エコとか正義とか言う前に、生きていくので精一杯。自国の経済がボロボロで、掘れば高価な資源が埋まっているのがわかっているなら、アマゾンの森を焼き払わずにはいられない状況も理解できなくはない。困窮した状況で選ばれるのが、強硬手段で物事を推し進める独裁者。最初は市民も独裁政権に抵抗するが、残虐な手口や軍を使って徹底的に制圧することで、人々の気力を奪い、「多くの犠牲を払い抵抗しても何もかわらない」と信じ込ませる。独裁政権は、独裁者のみが悪ではなく、必ず利益を得て独裁を支持している人がいる。自由のために命まで捧げるのはどうなのか、生きてこそではと思っていたが、ウクライナ侵攻以降、命を懸けて守る価値のあるものについて考えている。