痴話喧嘩という矮小化 ホモソーシャルや権力構造

某ライブハウスの店長が、出演者など複数の女性を騙して交際していたことが発覚した件、倫理上の問題というより、女性が置かれている状況や構造的な問題が認識されておらずもどかしい。カオスラ、Erick Morillo、Derrick Mayの件など、いくつか共通した問題がある。

断ったらどうなるか

強姦した訳でもなく、合意の上の自由恋愛、痴情のもつれなどと当事者間のプライベートの問題と片付けられてしまうが、アプローチを断ったらどうなるか。パワハラになるか/ならないかギリギリの意地悪をされ続ける。聞こえないふり、忘れているかのように決裁を遅らせる、常に不機嫌な態度、能力を理由にポジションやプロジェクトから外す、ミスなど粗探しなど。アプローチを断った途端、あからさまに態度が変わる。「不機嫌な態度を取られたり、わざと決裁を忘れるんですよ。」と訴えても、気のせいだと言われて誰も取り合ってくれない。1つ1つはハラスメントと認定されないものであっても、常に、そして継続的にやられると精神的に追い詰められる。

嫌だったら辞めればいい

そういうターゲットになってしまったら、我慢しても拒絶しても地獄。仕事なんて自由に選べるんだから、転職すればいいと言われても、日本において転職を繰り返すジョブホッパーは、何か問題がある人であるとか、根気や我慢が足りない人だと見なされる。転職はとてもパワーが要ることなのに、セクハラされる度に、被害者が負担を強いられなければならないのか。
狭い業界の場合、転職が難しい。先に悪い噂を流され、転職を阻止されることもある。また業界全体や界隈に影響力のある人の場合、逃げることができない。
ライブハウスの選択肢はいくらでもあると言うが、業界全体として認識が甘い場合、選択肢がなくなってしまう。
都合のいい嘘をつかれて妊娠した女性は、出産や子育てでそれまでと同じように音楽活動を続けられない。認知もしてもらえないなら、養育費を払ってもらえるか不安にもなる。

仕事上の立場を利用している

2人の間のプライベートなこと、痴話喧嘩、男女のもめごとと矮小化されるが、仕事上の立場を利用している。ライブハウスの店長ではなく、ただのお客さんであれば同じことができただろうか。カオスラの場合も、女性側の話を聞く限り職務上の立場を利用していたように思うし、会社と関係ない妻が一般社員の女性に退職を迫る内容証明を送り付けたことが事実であれば、人事介入で、夫が代表社員であったという地位があったからこそ、そのような行動に出たのではないだろうか。
職場は自分がいないと成り立たない、会社(箱)は、無名の女性よりも知名度のある自分を取るに決まっているという驕りはあったのではないか。

人の親だから

不祥事があっても(仕事はできる)人を同じポジションに留まらせるためよく使われる口実として、「家族を養っている(養育費を払っている)」「人の親だから」などがある。同情を引き、理解を得やすい。女性だって、自活したり家族に仕送りしている。子供をだしにして、被害者側の女性の権利が軽んじられる。

才能を潰す

カオスラの場合、元々黒瀬氏のアンチがいたので、女性側の支持が広がった。ライブハウスの件も、女性側が人気知名度のあるアーティストであったから広まり、店長側がある程度非難されている。これが熱狂的で盲目的なファンを持つ、絶大な人気を誇るアーティストだった場合、アーティストというのはそういうもの、むしろ突出した芸術的才能は持つ人は、人間性に問題をかかえているとポジティブにまで受け取られたりする。告発は才能を潰すものだとして、被害者がファンから激しく非難されることも少なくない。芸術や音楽が、都合よく隠れ蓑にされていると思う。

女性は知らされていない

勇気がある女性が声を上げ、公になると、実は初めてではなかったということが発覚する。ロッカールームトークのように、男性同士の飲み会や喫煙所では話していて、近しい男性たちは知っていた場合もよくある。女性にとっては不名誉で恥ずかしいことなので、大抵の女性はハラスメントや騙されて二股をかけられたことを黙っている。男性側はそれを悪用し、発覚しないことをいいことに繰り返す。Derrick Mayの件も、自分はたまたま運が悪かっただけと思い、黙っていた人が複数いた。自分が声を上げなかったことで、他の女性に対しても繰り返されていたことを知り、多くの女性が証言する決断をした(Resident Advisorの初回調査では、Derrick Mayから被害を受けたとされる16人が証言し、先月末にさらに7人の証言が公開された。)これ以上被害者を出さないために、被害者の女性が勇気を出して告発しているのに、恥ずかしいことであるとか、プライベートを晒すのはよくないであるとか、口封じをする主に男性が必ず出てくる。

男同士の絆

特に、男性が仕事ができて、仕事仲間(男性)には親切で、稼いでいる場合は、気付かないふりをする。自分も女性を騙したり浮気をしている男性は、人のことが言えないので、黙っている。女にだらしなくて、情けないキャラクターが愛される風潮まである。自分が浮気していなくても、女性に対する悪事という弱みを握り、それを利用しようとする人もいる。
不祥事を起こしても、見放さないのが美しい友情だとする風潮もある。名もなき被害者よりも、有名で人気のあった男性加害者の名誉や再起が尊重される。(教育番組の未成年の共演者を自宅に呼び出し、猥褻なことをしたとされる人気グループのメンバーの復帰説であるとか。)不祥事を起こした男性側に自分を投影しやすいからで、自分も同じように過ちを犯す可能性があり、赦されて再び迎え入れられたいという願望があるから。
弱みを握り合い、秘密を共有し、結束を強める。強者が弱者を搾取する構造を維持するのに加担している。

別の顔

会社では仕事熱心で仲間に優しい人でも、家庭や弱い立場の人には全く別の顔を見せる人はいくらでもいる。良き父でも、会社でえげつないパワハラをしていることもある。特権側である男性は、別の顔を見せられる機会が少ないので、見抜けない。女性や年下、格下には横柄な態度を取る人は結構いて、女性はそれを経験することが多いので、どれだけ多くいるかよくわかっている。Jackson Wangの投稿の受け取り方の違いに、よく表れていた。

男の勲章

ライブハウスの件に対し「そんなにモテていたなんて羨ましい」という反応が象徴的で、抱いた女性の数は自慢になる。1つの能力として、他の男性をマウントできる要素となる。女優さんやアイドルと付き合えるのはステイタスである(トロフィーワイフ)。一方、女性の場合は、多くの男性と寝たことは一般的に自慢にならず、むしろネガティブに捉えられ、少ない方がよいとされる。

子連れ再婚

女性が子連れで再婚し、再婚相手の男性に子どもを虐待されたり殺害される事件があるが、被害者でもある女性が、再婚したことを責められたり、母親として子供を守る義務を問われたりする。シングルファーザーが再婚を望むと、子ども思いとポジティブに受け取られる。女性は、恋愛し付き合うことが、前向きに受け取られない。

ハラスメントを受けたり騙された女性が、安心して告発できれば、次の被害を防ぐことができる。加害側男性の擁護が被害者(弱者)側の女性を傷つけるのはもちろん、隠蔽させようとしたり、痴話げんかとして内密に片づけさせようとすることも、一見女性の味方をしているようで、実は再発防止の邪魔をしている。悪しき構造を維持に加担している。
男女だけの話ではなく、LGBTQ+などマイノリティ、女性がトップでも権力構造の中では、同じようなことが起こっている。自分の好きなアーティスト、自分によくしてくれたライブハウスの店長を擁護することが、どのように被害者を追い詰め、加害に加担しているか、冷静に認識すべきだと思う。

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