ONUKA – GUMA 見ざる 聞かざる 言わざる

ウクライナの伝統音楽と電子音楽を組み合わせたバンドONUKAの最新作は、なんと日本語が引用されている。

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ミュージックビデオだけではなく、ロシア語に翻訳された「見ざる 聞かざる 言わざる」、そして最後は日本語のまま歌詞になっている。
Не чую, не бачу, не кажу (зла)
聞かない 見ない 言わない (害や悪)
Покидаю Мережу 
ネットワークを離れる
Перетинаю межу
境界線を超える
Midzaru
見ざる
Kikadzaru
聞かざる
Ivadzaru
言わざる

オフィシャル解説の和訳

エレクトロフォークバンドONUKAは、システムに関する反ユートピアの物語と戦いの曲GUMAの映像を発表します。

社会的メッセージは、ONUKAの歌になくてはならないものです。GUMAは、障がいを持つ人々に対する社会の無知を扱ったニューアルバムKOLIRからの曲です。キエフにある地下鉄スラヴィティチ駅へ視覚障がい者を誘導補助する音をベースにしたこの曲で、ウクライナで福祉の人々がどれほど守られていないかをONUKAは示そうとしています。 «聞かない、見ない、言わない»は、GUMAの3つの主要テーマであり、私たちが生きる無関心・不熱心・無気力に満ちた現実を言い表しています。視覚障がい者、聴覚障がい者などの障がいのある人々にとって、無知は特に辛いものです。

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ですが、この映像は、GUMAのオリジナルの意味により広い解釈を与えます。 ONUKAのフロントウーマンであるNata Zhyzhchenkoは「『ネットワークを離れる、境界線を越える』という文言を理解するとすれば、それは仮想ネットワークやあらゆるシステムをほのめかしている。」と話します。「障がいのある人々は、社会的構造に組み込まれておらず、保護されておらず、権利が認められていません。それに加え、我々の多くが、排除する必要がある態度やパターンにとらわれています。」
映像は、Yevhen Filatovによって制作されました。彼の説明によれば、それは古典的な反ユートピアの物語をベースにしています。Filatovは「GUMAは、自動化に反対する人間の抵抗についての個人とシステム間の戦いの物語である。」と述べます。「けれども、サイバー空間依存・ソーシャルメディアの影響・キャンセルカルチャー・過剰消費と生産といった現代世界のその他の問題も含めることができます。」

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遅かれ早かれ、どんなメカニズムも機能しなくなります。他の反ユートピアの物語のように、生存中にシステムを離れる人々がいます。これは、歌と映像による、あなたを騙し組織の歯車にしている構造を変える行動の呼びかけです。

GUMA映像の美学は、特別目を引きます。ZENITやTIMEと同様に、GUMAのミュージックビデオは、Nata ZhyzhchenkoとYevhen Filatovが、Lesya Patokaとコラボし制作されました。YevhenとNataは、ソビエト構成主義モダニズムのような建築様式の大ファンです。この新しい映像が、キエフ国立工科大学図書館やSalute Hotelといったそれらのムーブメントの典型的建物で撮影された理由です。
Nata Zhyzhchenkoは、「これはソビエト時代への頌歌ではありません。 建築思想の美しさに関してです。」と述べています。同時に、映像の制作者は、これらの建物に制御・階層・システムの精神を見出しています。 Yevhen Filatovは「中に入ると、時を遡ることができます。」と付け加えます。

キエフ国立工科大学図書館 / Бібліотека КПІ

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Salute Hotel / Салют Отель

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Lesya Patokaの仕事を誇張して述べることはほとんど不可能です。彼女とチームは、この映像に再びアップサイクリング(再利用をして元より価値の高いものを作ること)を用いました。しかし、今回Nataと一緒に、いつも用いているミニマルで未来的な美学から逸脱することにしました。次に、彼らは、特徴的なライン、シンプルなシルエットでありながら、バンドリーダーには珍しい非常に多様な色といった所謂「ソビエトミニマリズム」を作り出しました。

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映像の全ての衣装は、古着か衣装部から見つかったものでした。ファッションスタイルは、ロケーションのカラーパレットに従って作られました。なので、共鳴するか、対照的かのどちらかです。Patokaは説明します。「それが、映像が魅力的な理由です。GUMAの映像は時代を超えます。鑑賞すると、撮影された時代を特定できません。今現在のトレンドを使わず古典を引用すると、間違いなくハードルは上がります。トレンドは終わりますが、芸術は永遠のままです。」

感想

日本の70年代のファッションや建築デザイン、メタボリズム建築、ロシア・東ヨーロッパの旧共産巨大建築が大好きなので、映像に出てくるファッションや建築はたまらない。ONKAで一番好きな曲はVidlikで、これもオートクチュールのような衣装が良かった。
ONUKA - Vidlik

共産建築と言えば、Rita Ora『Bang』のミュージックビデオに出てくるブルガリア共産党ブズルジャ記念館や集合住宅も。日本の中高年の女性アーティストで、巨大廃墟の迫力に負けない人はいるかしら。全盛期の中島みゆきが『地上の星』を歌うのだったらいけそう。既に黒部ダムで歌っているが。

何度も書いている通り、ウクライナやロシアは、世界的に知名度のある女性電子音楽家が何人もいてうらやましい。Phewのようなトレンドや需要関係なく、サブカルでもなく、独自の音楽を突き進む中高年の女性アーティストがいらっしゃるのか、私が知らないだけなのか。
政治や社会的メッセージを込めた作品が好きで、好んで消費している。日本のアーティストもちょっと政治について発言し始めたと思ったら、上手くいかなくて黙ってしまったり。まだ慣れていないのもあるんだろうけれど、下手だし、お洒落じゃない。IC3PEAKの作品は、ゴリゴリの体制批判やフェミニズムなのに、逆の考えを持っている人好んで鑑賞しているようだ。芸術の力だ。社会的なメッセージを芸術的な作品に昇華するには、創造性や知識・技量が要る。プロテストレイヴのような直接的で身体的なものは、どうもマッチョで暴力的なやり方に見えて、敬遠してしまう。

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