Nina Kravizとの協業解消についてClone Recordsの声明 テクノやハウスに携わる矜持

Nina Kravizの件、音楽と政治は分けて考えるべきという声には愕然とした。ヒップホップも本来そうだと思うけど、テクノやハウスの歴史、その音楽がかかるクラブはどういう場所だったかを知っていれば、そんなことが言えるはずない。元来、単なる娯楽音楽の商業的な場としてだけ発展してきたのではないから。ジェンダーバランスの指摘に対する「金出して責任負わねぇやつが口出するな」的な意見についても、同様の違和感を感じた。指摘に従うかどうかは自由で強要はされないが、指摘や批判をすることも自由であり、十分に尊重されるべきだ。第三者から見て、勇気を出して指摘した方はうんざりさせられ、他からも二度と同様の指摘が上がらないようにする圧力を感じた。
Nina Kraviz及びTrip Recordingsとの協業を解消したClone Recordsの声明には、テクノやハウスミュージックに携わるものとしての矜持が表れている。武勇伝やギャル付け批判もいいけれど、日本におけるテクノ・ハウスDJのレジェンドを自負するのであれば、テクノ・ハウスの成り立ちを教える役割があるのでは。テクニックだけではなく。

[全文和訳] Clone Recordsの声明

https://clone.nl/blog/trip/

Trip Recordings

この数週間、毎日のように、Clone DistributionがTrip RecordingsやNina Kravizとの協業を終了した理由を尋ねる問い合わせを受けています。 タイム誌までも、それについての公式声明があるかどうか尋ねてきましたが、これまで出していませんでした。しかしながら、Clone Recordsには隠すことがなく、僭越ながらレーベル/配信関連で求められる分別に従い、はっきりさせることを厭いません。

過去、クリミア併合後も、Nina Kravizプーチン支持者と見なすことができるいくつかの露見を目立たせました。さらに、彼女は明らかに幾度もソ連感情に何度もおべっかを使ってきました。ソ連はマイノリティの抑圧に賛成し、LGBTQ+コミュニティを除外し、何百万人もの人々を殺した政治体制であったのに!Ninaの最新のコンピレーションアルバム『All His Decisions』には、ソ連を持ち上げるいくつもの証拠が見られます。これは、現在のロシアの侵略を踏まえ、無視できない疑問を呈しています。

多くの人々が気づいたように、ウクライナでの戦争が始まると、Nina Kravizソーシャルメディアで沈黙しました。もちろん彼女が選択したように黙り続けることは彼女の権利ですが、ビジネスパートナーとして、この状況で、いったいどうなっているのか、我々が彼女に期待していいのはどういう立場なのか知りたいのです。しかしながら、彼女は個人的に話す要求を無視し、さらに彼女のレーベルマネージャーに満足な回答をせず、はっきり言えない、公にコミュニケーションしたくない十分な言い訳をしませんでした。かなり巧みに操作していると私は判断したレーベルマネージャーとのやりとりや彼女のスタンスで、故意に重要な条件(戦争を止めるために、彼女はウクライナが降伏することを望んでいるのか?プーチンの条件下での平和を望んでいるのか?)を抜かした「平和を望んでいる」とか「もちろん戦争に反対している」といった曖昧なプーチン風の表現が目立ちました。ロシアに住んでいる他のロシア人アーティスト、Ninaとは違って多くが、戦争の最初の数日間、そして今でも声を上げています。(戦争が始まって最初の数日間は、「戦争」について話すことを禁じる法律はなかったことに注意してください。)したがって、彼女がロシアの暴力を支持しない、又はそれによる犠牲者に思いやりの証拠を示すことを、公的にも私的にも周知しなかったことに失望します。

彼女の同胞による略奪、レイプ、殺人、国家の破壊が続いている一方、Ninaは、どちら側を選ぶかを拒否し、正々堂々と意見を述べず、何事も起きていないように、人々を楽しませるアーティストとしての人生や自分のライフスタイルを続けられるようにしています。いつも進んで会話し意見のある人だと示してきた状況と、今回は全く対照的です。彼女はそうする権利があることは、明確にさせて下さい。彼女が沈黙するのは自由で、言うまでもなく、彼女の政治的見解を維持し、彼女が望むように彼女の人生を生きることが許されています。彼女にはその行動を正当化する個人的な理由があるかもしれませんが、Clone Recordsは、ビジネスパートナーとして、その言い訳を都合よく受け入れないことも同様に自由です。

彼女は今もなおワールドツアー中で西側世界のあらゆる自由の恩恵を享受し、プーチンの抑圧下で生活しないことを選択している一方で、未だ発言せず沈黙している言い訳としてプーチンの法を用いています。ゆえにNina Kravizが選んだ黙ったままでいるというやり方は、日和見主義、偽善、自由の乱用の範疇を超えたとみなすことができ、それはハウスやテクノミュージックとそれぞれが築いてきた文化の価値に反します。Ninaが自分のキャリアを築いた文化とコミュニティ。この沈黙はダブルスタンダードと無関心の印であると我々は見ており、Clone Recordが象徴することを望まないテクノシーンにおける害のあるポジティブさや害のある無知の兆候であると我々はみなします。本来、ハウスやテクノシーンは、マイノリティ、特権がなかったり抑圧された人々のために、また表現の自由のために立ち上がらなくてはなりません。それ(ハウスやテクノのシーン)は、マイノリティや抑圧された人々によって築かれたのであり、我々はそれだけは忘れてはなりません。

Nina Kravizは、十分ビッグなので破綻しません。(今回のことを)知らない人や気にしない人々は十分にいます。もしくは、「音楽が目当てだ」という余裕のある特権を持つか、彼女の知名度がもたらすお金や地位だけを見ている人々なので。私は彼女のキャリアについて心配していません。我々が日々称賛している音楽を授けてくれた文化やシーンの腐敗させる行動について懸念しています。ハウスやテクノ文化の価値について心配しています。
多くのフェスやクラブが彼女が黙り続ける権利を都合よく受け入れている一方で、近い将来彼女が過去のソ連を持ち上げることから距離をおいたり、いつかプーチン賛同表明から遠のいたとしても、我々は自分たちの評価で協業を終わらせるあらゆる理由があります。殺人やレイプが続いている間、ロシア侵略の犠牲者に対する思いやりの兆候を待つことはありません。彼女がハウスとテクノシーンが根付いたのと同じモラルを支持することを示す声明、個人的なメッセージ、行動を、私たちは待ちも期待もしていませんし、彼女がそうしないいくつかの証拠がすでにあります。簡潔に言うと、私たちが象徴したり、関係を持ちたい道徳的行為や取り組みではないのです。

これで、私の個人的立場だけでなくClone Records/Clone Distributionが取る立場と行動が十分明らかになることを願います。誰もが自分自身の決断をすべきで、誰かをキャンセルするよう叫んでいるのではありません。あなたがあなたの人生でどんな取り組みが許容できるかで自分自身の決断をして下さい。

お元気で!!

Serge

Nina Kravizプーチン支持なのか

Nina Kravizプーチン支持だとされたSNSの投稿は、現時点、まだ残っている。2014年4月、Nina Kraviz自身による投稿。2014年3月ロシアは、軍も用い、ウクライナの領土クリミアを併合した。この併合は、両国間の領土保全と不可侵条約違反であり、ロシアが正当化しているプロセスも国際社会から認められていない。Nina Kravizの投稿は、まさにこの直後である。花が平和を象徴しているとして、プーチンが銃(軍事的暴力)によって平和をもたらしたと解釈できる。ご丁寧に、#putin #shoots というタグまで付けて。これをプーチン支持ではないというのは無理がある。

 
 
 
 
 
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投稿の10か月前である2013年6月には、ロシアにて同性愛プロパガンダ禁止法が成立している。ロシアにおける同性愛者のおかれた状況、法律による影響は、以下の動画を見て頂きたい。Clone Recordsの声明内容も納得できるのでは。

銃を持ったプーチンのパネルと笑顔で写真を撮る気になるだろうか。例えば、ジョークでも安倍晋三のパネルと写真と撮ってSNSに上げようと思いますか?

もう1つは、2016年6月の投稿。「ロシア人を甘く見るな」というツイート。ロシアは、2015年からシリア内戦へ軍事介入している。今回のウクライナ侵攻でブチャで行われたような残虐行為が、シリアでもあったという話がある。 

iFLYERの記事は、あまりに酷い。

槍玉に挙げられている上記二つの写真については、現在 SNS から削除されているが、change.org ではその写真を引用した画像が使われた

iFLYER: "親プーチン派" であると批判されたロシアのテクノアーティストのNina Kraviz(ニーナ・クラビッツ)本人とTrip Recordingsレーベルマネージャーがそれに対して反論

SNSから削除されていない。

Nina Kraviz のこの一連の騒動は、過去の特に他意のない写真がほじくり返され、ウクライナ戦争問題でセンシティブになっている欧米諸国の世論によって悪い解釈を与えられてしまっているような印象を受ける

上記の写真に関しては2014年時点のものなので、その際にはまだプーチンパネルと共に写真を撮ったところで問題はなかったはずであり、更にいえば銃身に花がささっているのはレーベルマネージャーの言う通り "平和な時代" を表しているようにしか見えないが……。

「私はアーティストだから政治は分からないし語りたくない(関わりたくない)」という Nina の意思表明は、基本的に左寄りな思想が強い音楽シーンで、しかもご時世では NG なのかもしれない……。

上記で説明した通り、クリミア併合の直後の本人による投稿である。

Nina Kravizの状況を見て、魔女狩りや私刑のようなニュアンスでキャンセルカルチャーだと批判している人は、自分や自分の好きなアーティストがキャンセルされることばかり懸念しているようにみえる。虐げられている側の視点がない。
Nina Kravizは5月18日の投稿において、哲学者の言葉を引用する一方で、「自分は政治やそれが生み出す社会プロセスを理解していない。」と言い訳している。
"I don't understand politics or the social processes it creates. So I don't think it is right to talk about what's happening on social media."

 
 
 
 
 
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これについて、「30歳を超えたの大人が政治のことはわからないだと?」と批判されていたが、当然だと思う。選挙に行かなかったり、野党に投票していなければ、現政権に対して責任がある。独裁政権にならぬよう止められるのはその国の国民であり、クーデターで奪われた軍事政権でない限り、その政府のやることに国民は責任があり、非難されても仕方がない。

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