韋駄天『Easy Right Easy Left』赤い覆面アーティストが取り込んできたもの

このタイミングでインタビューするのはどうなん?と迷ったのは束の間、いつだって極度の人見知りより好奇心が上回る。アルバムをリリースされたばかりの謎の覆面アーティスト韋駄天さんに、気になっていた質問をぶつけてみた。

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最新アルバム『Easy Right Easy Left』

―『ben & bon』は「そのままやんけ」と突っ込みたくなるタイトルとは裏腹に、レトロなテクノにラップが載せてあり、軽快なリズムで踊れます。韋駄天さんは、どのあたりのテクノをよく聴いてこられたのでしょうか。

「自分の聞いているテクノ」といっても本当に雑食なので、これといった確かなルーツがあるわけではありませんが、トラックメイクを始めるにあたり「ザ・プロディジー」の影響はすごく大きいものだと思います。
ben&bon製作の際は「ベースメント・ジャックス」や「ボブ・サンクラー」に影響を受けています。
リファレンスの楽曲がある場合、そこから好きな要所だけを引っ張ってきて、その部分だけをリファレンスに置く事が多いですね。

―主にサンプリングで曲を作っておられると、どこかで読んだ記憶があるのですが、どのように制作をされているのでしょうか。

サンプリングはあんまりしない方だと思います。
徳島のトラックメイカーjukimaru君と作った楽曲「FREE RUN」はサンプリングを中心に作っていますが、普段はソフトシンセが多く、その上にサンプルやサンプリングしたもの、カオシレーター等で茶化した音などを乗っけています。

―リリース版は、4月1日の門真からのスタジオライブのときより、声が押さえられているように感じました。宅録なので声が出せないなど、そういった制約かと思いましたが、いかがでしょうか。

宅録自体4月1日の前には行っていました。
本当は「静かにコソコソラップするぞ〜!」というテーマがあったのですが、ライブをしていく中で歌い方が変わってしまいました。ライブは楽しんでもらえたらそれでいいと思っているのですが、本当はささやきながら歌いたいですね。。。

―『ビジュ・トゥリーjunko -ジュンコの宝石店-』は、6分20秒の長めの曲で、古い街にある看板のようなタイトルですね。実際に、地元にそういうお店があったのかなと推測しましたが、このタイトルはどのようにしてつけたのでしょうか。

おしゃれな曲を作りたいな〜と思い、Googleで「お店 フランス語 おしゃれ」で検索をして出てきたビジュトゥリーとコシノジュンコのジュンコで「ビジュ・トゥリーjunko -ジュンコの宝石店-」というタイトルが生まれました。

英語やフランス語と日本人の名前の組み合わせが好きというのも、少なからずタイトルに影響しています。このアルバムに入っている「坂本PUMA」という楽曲もその勢いで作りました。
本当に適当なので自分でも恥ずかしいですが勢いで動くのも大事だと思っています。

―「おめかし」「べっぴんさん」など、親御さん世代でも使わない言葉ではないかと思います。23歳とは到底思えず、おばあちゃん子とか高齢の方と接する機会の多かった方なのかなと思いました。言葉遣いが古いと言われたりしませんか?

それはあまり言われた事が無いですね。。
歌詞の作り方なのですが、2000年代前半に流行ったメロコアバンド「B-DASH」のように日本語でもなく、英語でもない適当な言葉をトラックに当てはめ、そこから母音を日本語や英語に直して意味を通していきます。
語感のみで作っているので、言葉の重みよりもリズムを取るイメージが大きいです。

そもそも怪獣や特撮、車、プロレス等をかじっているので、適当な言葉を母音に直す際の選考基準が古臭い可能性は否めないですね。

ben&bonについては、江戸時代に大阪枚方近辺で食べ物を投げて売っていた「くらわんか舟」がモチーフにある為、古い言葉選びは意識しています。

ジムニー欲しかったけどパジェロミニという話も、昔の古い日記を読み返したような気持ちになりました。(大昔に、友達がどっちがどうみたいな話をしていたので。)

これも以前言っていた事があるのですが実話です。本当はジムニーを買いたかったのですが、お金がなくて1番近いパジェロミニを買いました。今では本当に愛着がありますが、今年の10月いっぱいで廃車になってしまいます。泣

(アルバムジャケットは愛車のパジェロミニ。左だけフェンダーミラーがついてるのがかわいいですね。)

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―韋駄天さんを知ったのは、Laguna Seca『平成のHustler』でした。ODAGAWAさんとの共作だと思いますが、アイディア出し、作詞作曲など、韋駄天さんはどのように制作に関わられたのでしょうか。

基本的に作曲とアレンジはODAGAWA君に任せています。
この曲で僕が行ったのは作詞と歌です。そもそもODAGAWA君から楽曲が送られてきた時には、既にビリヤードを弾く音が入っていた為、ビリヤードに歌詞を寄せていきました。

―ビリヤード音がとても良かったですが、録音されたものでしょうか。それともサンプリングでしょうか。

この楽曲もODAGAWA君が全て作曲とアレンジを担当しています。武井壮のビリヤード動画からサンプリングをしてる話は彼から聞いて笑ったのを覚えています。

―最後のオチは、9番ボールが娘さんの誕生日プレゼントという解釈であっていますでしょうか。

ちょっと語弊があるかも知れないのですが、「ハスラーになりたかった男がハスラーになれず、怒って9番ボールを娘の誕生日プレゼントに持って帰ってしまう」っていうのが僕の中でのオチです。

平成のhustlerはいわゆる「バカッター」と呼ばれるような人を題材にした楽曲です。
平成というのはネットの発達により、今まで世に出ることがなかった悪い行為や嘘、犯罪などがSNSを通して多く見られた時代だと思います。ネットで炎上するような犯罪者も、全国の人の目に映る前は一般人として生活していたはずです。その普通の生活を送ってきた人間の迷いや承認欲求を現代の風刺として書いたのがこの曲です。最初は逮捕されて終わるオチを考えていましたが、少し寒いと感じ今に至ります。
ビリヤードでやってはいけない事=手でボールを触る事 そこから「9番ボールを掴み娘のプレゼントに持って帰る」というオチを作りました。
この作品の主人公にも家族が居て、何とか自分でも家族を支えようとする背景と健気な姿を滑稽にみえるようイメージしました。
「平成」の理解できない不気味さ、ゆとり感がこの曲のテーマです。
曲自体は明るいので本当に意識して聞かないと自分でもこの曲は理解できないですね。
テクノとしてはODAGAWA君のコード感もあり大好きな曲の一つです。

―最後に、差支えなければ、韋駄天さんの名前の由来を教えて頂けますでしょうか。

名前については結構適当な所もあるのですが、ステージを駆け回るような人間になりたかった事が一つと、オシャレすぎずアジアンチックな名前を考えていた時にマッチしたのが韋駄天です。
自分で言うのもあれですが、諸説あります。

あまり文字や言葉に理由を感じられないという理由から適当に付けている可能性もありますね。。。韋駄天という名前の始まりは覚えていませんが、今はこのなんとも言えない感じを愛しています。

―リスナーの方へ、何かメッセージはありますか?

今回のアルバムは自分の好きな楽曲の寄せ集めで作りました。好きな曲を一つでも見つけて頂けたら本当に幸せです。。。
今は統一感のあるEP/albumを絶賛製作中です。よければ今後とも韋駄天をチェックお願い致します。。。!!!

作品についてアーティストご本人にお話を聞けるのは、幸せだしありがたいこと。SNS上も全く会話したことがなかったので、ふわっとした質問にしたのだけど、こんなに深いお話が返ってくるとは想定していなかった。やはり個性や魅力のある作品には、きちんと裏付けがある。日本のトラックメーカーは、機材や技術に詳しい人は多いけれど、音楽で何を表現するのか、しっかりとしたコンセプトを持って作っている人は少ない。音楽の評価も、音質やどれだけ複雑で難しいことをやっているかで批評されがち。一般消費者目線に乏しい。表現やコンセプトの視点で作っている作品も評価されるようになれば、面白い作品が世にもっと出てくるかも。

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