IC3PEAK インタビュー和訳(FSB ロシア公安、ロシア国民の政治意識)

IC3PEAK インタビュー和訳(影響を受けたアーティスト、ロシア語で歌う理由、愛国心) からの続き。

公安ツアー

― 私たちはあなた方の2018年に起きた有名な公安ツアーについては、それほど話さなくてよいでしょう。なぜなら、以前、既にたくさん語られているからです。そのうえ、ドキュメンタリーまであるのですから。

Let It All Burn. A Film by Andrey Loshak

― あの後、生活はどのように変わりましたか?生活習慣、警告、安全といったものは?
ニコライ:あのツアーの後しばらく被害妄想に陥りました。誰にも住んでいる場所を教えませんでした。古くからの友達にさえも。物理的な居場所を秘密にしました。スマホでさえも、チェックして。なぜなら、

スマホをチェックする?
ニコライ:トラッキングされたり、盗聴されたりしているかを。それが可能だという話を聞いたことがあったので。

― そうなのですか?
アナスタシア:スマホを冷蔵庫には入れませんでしたけれど。
ニコライ:そこまでは。
アナスタシア:しませんでした。スマホを冷蔵庫に入れると信号を隠せるらしいです。未確認の情報で、単に噂として聞きました。

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― (撮影スタッフ)ファラデーケージが必要ですね。
ニコライ:冷蔵庫はファラデーケージになります。

アナスタシア:不安から睡眠障害に陥ったので、恐らくニコライよりもこれらの出来事にショックを受けてしました。たぶん1年間きちんと眠ることができませんでした。ようやく安定しました。冒険についてたくさん考えることは、とても楽しく、非常にパンクで、すごく興奮します。しかしその一方、醜悪な面もありました。
ニコライ:楽しいけれど、リスクも伴います。

FSB(ロシア公安)と対峙しなければ、IC3PEAKのはこれだけ有名にはならなかっただろうという意見についてどう思いますか?

アナスタシア:その話は好きです。
ニコライ:その話は好きです。それでOKです。ただ、公安ツアーの後私たちを見つけた人たちが、そう言っていると推測します。しかし、それは事実ではありません。多くの人が、その前から私たちのことを知っていました。私たちの相互関係的な成長と、ちょうど(時期が)一致しただけです。もちろん、助けにはなりましたし、ある種加速させました。コメントを残したり、そういうことを言う人は、私たちの急激な成功を公安ツアーに紐づけようとしているだけです。彼らは、それまでに私たちのことを聞いたことがなかったからです。有名でない/知られていない/私も知らないという理由で、作品を作るのに多くの時間を費やしているアーティストは確実ににいます。突然有名になるでしょうか?私たちは突然有名になったとは言いません。なぜなら、その前に6年間必死に活動してきたからです。

ニコライ:私は政治犯の数に憤っています。明らかにおかしい芸術への攻撃に憤っています。私自身アーティストとして、ほとんどの場合被告が絶対に勝てない裁判に、当然怒っています。そしてもちろん政府を退陣させられないことにも。他の人やグループが権力を握ったとして、突然良くなるとは思っていません。時間だけが、この国の物事を変えると思っています。

― 最後に1つだけ公安ツアーについてお聞きしたいと思います。Andrey Losharkの短編ドキュメンタリーの女性。彼女はヴォロネジのアートクラブのアートディレクターですよね。
ニコライ:そうです。

― 彼女はあなた方のためにライオンのように闘いました。
ニコライ:はい。

― 彼女はどうなりましたか?
ニコライ:私が知る限りでは、彼女は大丈夫です。ツアーマネージャーを通して彼女と話してから、しばらく経っていますが。全く以て彼女無くてはツアーはできませんでしたし、彼女のおかげでツアーを続けたいと思いました。彼女と音楽を聴きに私たちのショーに来たファンは、音楽的にも、そして法律的にも楽しくなることを、よくわかっていました。それがわかったので、私たちも続けることができたのです。彼女は私たちのために過酷な戦いをしてくれたイベントマネージャーの1人です。

― 彼女に感心しましたよ。
ニコライ:そうですね。

― ヴォロネジで戦うことは、例え仕事を失っても選択肢のあるモスクワのような場所で闘うのとは全く違います。
ニコライ:そうですね。

― つまり、ロシアにはまだ勇気のある人々がたくさんいる。
ニコライ:彼らは何が起きているか理解している人たちだと思います。どこかの時点で「もう十分じゃない?」、ある時点で「十分違法」だと考え、止まるべき線を引きます。無秩序に公安を自分たちのクラブに入れません。入場を阻止させないなど。もっと線を引く人もいます。アパートのドアのように。しかし、彼らはあなたの場所に来ることができてしまいます。

ロシア国民の政治意識

― なぜ政治的風刺に足を踏み入れたのですか?
ニコライ:とても楽しいからです。滑稽で、そしてそのタイミングでした。

アナスタシア:私は常に政治のあれこれを気にかけていました。ある意味、気にしないではいられないと思います。聞こえていますし、何が起きようとしているか気が付いているはずです。成長するにつれ、それが増々近づいています。あなたが小さいときは、再構築・変化・制限やそういったことについての会話は、身近なことではありませんでした。しかし、大人になってからは、具体的にあなたに関係してくることに気が付きます。移動や何か文字通りあなたの自由を制限し得るのです。どうして無関心で無感情でいられますか?芸術は、自分の感情や経験が自然と出てくるものなので、十分成長し、この件について言うことがあると思いました。

プーチンの条項はあなたを最も憤慨させたと思っています。
アナスタシア:はい、そうでした。

― 『Смерти Больше Нет(もう死ぬしかない)』を書いたときですか?
アナスタシア:はい、『Смерти Больше Нет(もう死ぬしかない)』のコーラスを書きました。収録された彼の演説を見たあとすぐに。

アナスタシア:感情的に打ちのめされました。彼は収録でこう言ったからです。「前に進むためのチャレンジが待っているが、一緒に乗り越えよう。」私は、再び堂々巡りしていることを強く感じました。この絶望的な気持ち。どんなチャレンジも乗り越えられるなんて、信じられませんでした。新たに私たちの生活が突然変わることに直面することも。ですから、私は歌詞を書きました。単なる歌詞です。

― なぜあなたは憤慨したのですか?安定?
アナスタシア:何の安定でしょうか?安定した苦難?確かに、私はそのやり方に憤慨しています。私は社会のその風潮が嫌いです。人々はお互いとても残酷で不信感を抱いていることに、私は憤慨しています。彼らは、一点を見つめていて、他の人を助けようとしません。人々にもっと親切でいてほしいのです。これが起きる状況は限定されていて。人々が生き延びるために戦わねばならないと理解していて、且つ政府の仕組みが人々を押しつぶしたり叩きのめしていない世界でのみ可能なのです。どうしようと関係ない、どんなに一生懸命頑張ってもという考えでは、決して成功しないのです。特に地方の人々は、かつて努力が報われることはなかったように思っていることが多いです。誰も自分たちのことを気にかけてくれていないように感じているのです。子どもの頃からずっと、自分たちは望まれていないと感じているので。彼らの両親も同じでした。どんなに一生懸命努力しても、毎回上手くいかなかったからです。完全に挑戦を止めてしまっただけです。こうした現実が一般的になっていて、私を憤慨させました。

プーチンが去ったと想像してみて下さい。あなたは自分の歌で何と闘いますか?
アナスタシア:私たちは政治的バンドではありません。私たちは、プーチンと闘っていません。国の情勢に対する意見を表明している曲がいくつかありますが、死や愛のようなタブー、不安や苦悩など全く別のテーマを考えている作品もたくさんあります。ですから、私たちにとってそれだけがテーマだとは思っていません。何か特定のものと闘う必要はありません。私たちは、常に何かに抗うことを必要とするバンドではありません。私たちのいくつかの意見が、当たり前に受け入れられていることと反対だっただけです。恐らくそれが、物議を醸していたり過激なものに見える理由です。しかし、私たちは、単に異なる視点を提供しているだけです。当たり前で自然なことだと思います。

― あなたは最初のツアーの後落ち込んで(バンドを)解散しかけたと告白し、ロシアで生きることの苦悩について何度も投稿したことがありますよね。地方で目にしたもので、落ち込んだり悲しくなったりしたのですか?
アナスタシア:ツアー全体としては、実際とても落ち込みました。(ツアーを)始めたのは、ロシアの気候面で最もやる気が出ない春だったと思います。自然界の季節の変わり目です。大地は、雪解けで汚い泥濘になります。人々は、咳やくしゃみをしていたり、考え込んだりしています。空は大抵どんよりしています。モスクワの場合ほぼ大丈夫なのですが、初めてモスクワを離れて別の場所に行き、人々が実際どう暮らしているかを知りました。彼らは、じめじめしてカビの生えたアパートで暮らし、フライパンで大麻をあぶり愉しんでいます。彼らは何かしようとしていましたが、適切な教育とインフラ、将来の見通しがありません。悲しいことです。時々、絶望の中何かに驚異的にのめり込んでいる信じられないくらいクールな人々に出会いました。彼らは繰り返し何度もどこかへ行こうとしましたが、いつも混乱にぶち当たります。このことが私たちを落ち込ませます。

― (あなた方の歌の歌詞)「招待していないのに、彼らは私の家に入ってきます。新しい政治宣言、新たに可決された法」
アナスタシア:(ロシア憲法)改正のようなものです。この国で特定の法律を通すときによくやることです。国民に問わないで。明らかに人々の生活を改善する目的ではなく、法の力で人々を管理し、より制限を加えるために。誰もあなたに確認してくれません。あなた方に対するもの全てが、決まっていっているのです。家に入って来る(個人の権利を侵害してくる)人々に、あなたは「こんにちは」という(受け入れている)だけです。

― それに対して何ができますか?
アナスタシア:意味がなく何もなさないと感じているとしても、私たちは声を上げる必要があると、私は思います。自分自身を育てることから始める必要があります。恐れずにあなたを悩ませていることについて話す能力。自己問答し、Noと言い、悩みの原因について話し、それを他人と議論するために、自分を教育する方法を見つけて下さい。通りに出ることも人々は恐れていますが、それ以上に抗議や集会等に行くことが重要です。過激な解決方法について話すなら、それらは全く過激ではありません。しかし、人々は時々この話をすべきではないように感じています。なぜその件を持ち出すのか?そもそも、それは怠惰です。ただ面倒になりたくないだけです。そして、公けには政治について話せず、家庭や本当に本当に信用できる人とだけだったソビエト時代の負の遺産かもしれません。

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