優れたDJの見分け方

(補足:本エントリは、主にテクノやハウスDJを想定して書いており、またテクノやハウスにおいても個別のスタイルがあるため、この条件を多く満たすDJが優れたDJで、これを満たさないDJが劣っているという意味ではありません。日本には優れたDJや独自のスタイルを極めているDJが数多くいらっしゃいます。単に見た目や知名度ではなく、できるだけ多くの方にDJのスキルについて興味を持って頂きたいという思いから、このエントリを書きました。)

一口に鉄道ファンと言っても撮り鉄乗り鉄・音鉄があるように、DJの楽しみ方は様々です。音楽の種類だけ、そのジャンルを得意とするDJがいます。音楽好きなら、必ず自分のスタイルに合うDJが見つかるはずです。

<探し方>

・DJミックスを公開している

いくらでも上手いDJプレイができる人は、自信があるので、インターネットで自分のDJを聴いてもらえるように公開しています。ワンパターンではなく、毎回違ったプレイもできるので、公開しても大丈夫なのです。下手なDJは、ネットに上げていないか、昔のミックスしか公開していません。3年もすればスタイルも変化しますし、下手にもなります。今のDJは聴かせられないと考えられます。

・退屈しない

ずっと同じような繰り返しで退屈だと思ったら、それは良いDJではありません。優れたDJは、映画のストーリーを描くように、常に細かく展開させ、聴き手をDJの世界に引き込みます。90分なんてあっという間で、退屈している暇なんてありません。但し、コメディ映画とホラー映画が全く異なるように、そのDJの音楽ジャンルが自分の好みと合っていないことが原因で、退屈に感じてしまった可能性もあります。

・機材オタクや音響マニアではない

車に詳しいからと言って、運転が上手いとは限りません。機材オタクや音響マニアもまた、DJが上手いとは限らず、むしろ逆が多いです。かける音楽や聴き手を喜ばすソフト面より、ハード面に興味があるからです。レコード針や音響については饒舌なのに、肝心のDJプレイがダサくてびっくりしたことは、しばしばあります。概してクラブは爆音好きが来るので、音量は大きく、機材オタク・音響マニアの細かいこだわりを堪能する場所としては不向きです。

・過去のヒット曲や出演歴が売りでないこと

有名なフェスや中箱大箱への出演は、DJに関しては、知名度とそれによる集客力で決まるので、DJの実力とはほぼ関係ありません。似たようなDJセットを使いまわしたり音を止めたりするDJも、大きなフェスに出演しています。特に90年から2000年代初頭に、ヒット曲を出し、その後ヒットがないにもかかわらず、その知名度だけでブッキングされている人は、高確率で上手くありません。盲目的なファンはどんなDJプレイをしても絶賛します。プロデューサーの作った音楽のファンなので、DJの上手い下手の区別ができないのです。適当なDJをしても褒められ、次回もブッキングされるので、上手くなるどころか下手になってきます。SSWや音楽プロデューサーは音楽を作ることに時間を割いているので、良い曲を探しDJセットを構成し繋ぐ練習をしている暇はありません。プロのDJにはかないません。音楽批評家・アイドル・モデルなどDJ以外の知名度でブッキングされる人も、残念ながらそのほどんどが上手くありません。
小箱のブッキングは、大体が知り合いです。草野球のようなコミュニティです。同じ趣味の気の合う仲間が楽しく遊ぶ感じで、厳しい練習を重ね、弱点を克服し、甲子園を目指そうというのではありません。DJが上手いから呼ばれることは、非常に少ないです。箱のイベントの場合、お客さんとしてよく遊びに来ていて、友達を連れてきてたくさん飲んでくれる人が、DJとして呼ばれるようになります。大半がそんな感じですが、中にはとんでもなく上手いDJがいます。

・他人のDJを聴いている

他人のDJを聴かないDJは、意外と多いです。プロサッカー選手の試合を観ないサッカー選手が上手いと思いますか?上手いDJは他人のDJをたくさん聴いています。上手い人のDJを聴くと、曲の活かし方・構成・繋ぎ方が学べます。また、隠れた良い曲も知ることができます。

・探し方の幅

新譜を探すのに、Beatportやテクニークの新譜チェックしかしていないDJのDJは、個性がなくつまらないです。優れたDJは、いくつものルートを持っています。

SNSで客の悪口

SNSでお客さんの悪口や、盛り上がらないのをお客さんのせいにするDJは、必ずと言ってよいほど下手です。努力をせず、お客さんを喜ばせたいという意識も低い人です。人格とDJスキルは別ではないかと思うかもしれませんが、意外とこの見分け方は当たります。

<DJスキル>

・DJ以外で煽らない

MC・エフェクト・効果音・音量・速さで刺激を与えることで、盛り上げるDJは上手くありません。スパイスを大量にぶっかけて料理の味をごまかした激辛料理のようなものです。

・古い曲も新しい曲も知っている

昔も今も、良い曲はあります。新旧の膨大なライブラリーから、良い曲を見つけ出し、魅力的にかけるのがDJです。優れたDJは、昔の名曲だけでなく、つい先月リリースされた曲や、年の離れた20代のアーティストの良い曲を把握しています。本当の音楽好きは、時代や古さ関係なく、良い曲を追い求めます。古い時代までさかのぼる人は、それだけたくさん良い曲を知っています。

・好き嫌いを克服させる

私は藤井風さんの歌が嫌いなのですが、DJ HASEBEさんのもっていき方が上手くて、まんまと良い曲に感じてShazamしてしまいました。ピーマン嫌いの子に、おいしいと言わせる。それがDJです。DJ SodeyamaさんのDJがきっかけでテクノの魅力を理解するようになり、DoitJazz! 田村正樹さんのおかげで、好きな種類のジャズを見つけることができました。初めて食べた牡蠣がまずいと、牡蠣嫌いになります。最初に上手いDJを聴くべきです。そうしないと、DJ嫌いになってしまいます。

・曲を引き立てる

レア曲やいくら魅力的な曲を知っていても、ただ単に好きな曲を寄せ集めただけでは、魅力が伝わりません。良い曲を知っているからと言って、その人が良いDJだとは限りません。同じ曲でも、かける順番や前後にかける曲によって、印象が変わってきます。映画のシーンも、それだけ見ればなんてことない風景でも、物語の文脈で、特別な印象を残します。
上手いDJは、聴いてもらいたい曲が引き立つように、DJセットを組むことができます。花束を作るように、違ったものの組み合わせが、それぞれの美しさを引き立てます。

・曲繋ぎの技

繋ぎはDJスキルの大きな要素で、DJの存在意義とも言えます。繋がないDJもいますが、それだったらプレイリストにいれて流すのと同じになってしまいます。優れたDJは、似たような音の曲をもってきて繋いだり、前の曲と後の曲を重ねて新しい音楽を奏でます。DJの繋ぎとは、布と布を縫い合わせるようなものです。下手なDJは、無地の布を縫い合わせるように、どこで繋いでも大丈夫な曲をかけます。逆に上手いDJは、模様があって柔らかさの異なる布を、縫い目がわからないくらい見事に縫い合わせる、そういう繋ぎ方をします。
DJが繋いでいる曲を単体で聴いてみて、もう一度DJミックスを聴き直して比較してみると、DJのスキルが本当によくわかります。

DJ SAKUMA (Modest)さんのDJは、何曲もShazamして、単体でも聴いてみて、どう繋いでいるか研究しました。(当時、動画が1つもなかったので、耳だけで繋ぎ方を研究しました。曲のどこでどのくらいの音量で繋いでいるかは大体わかっても、EQ調整までは聴き取れなかったので、この動画を発見し泣きそうになりながら観ています。)妥協を許さない正確さ、無駄を省いた洗練された美しさのある繋ぎ方です。他のDJの下手な繋ぎが気持ち悪くて聴けなくなるのが、唯一の難点です。

全く対照的なのが、okadadaさんの繋ぎ方です。下記の動画は、DJに興味を持つきっかけを与えてくれました。誇張でなく何百回も観ていて、このDJセットで使われた曲を聴くと、okadadaさんのこのプレイと次に繋いだ曲を思い出します。SAKUMAさんの繋ぎ方とは正反対で、ビリっと破ってべちゃっと貼り付けるような野性味あふれる感じですが、それはそれで味わいがあり、okadadaさんの個性です。DJプレイも、撮り鉄乗り鉄のような多様な楽しみ方があります。

これを書こうと思ったのは、危機感からです。私の観測範囲では、ごく一部の人を除いて、レベルが下がってきている気がします。DJを聴いて批評する人がいないからだと思います。外タレが来日できなくなって、ローカルの実力あるDJにチャンスが回ってくるかと期待しましたが、結局国内でも集客できる(正直上手いとは全く思えない)DJがブッキングされるようになっただけです。私が最近紹介しているOslatedなどのDeep Techno/Dark Ambietの界隈は、実力ある無名DJをどんどん発掘する人がいて、その人たちも切磋琢磨して腕を上げています。草野球を楽しんでいる人に、トレーニングして上を目指そうとは言いませんが、それとは別に才能を発掘し、競争する場がなければ、プロに育たないと思います。日本にプロ野球がなく草野球しかないとしたら、才能ある子は野球留学するしかなくなり、その状況で野球ファンが育つでしょうか。track makerのライブセットもレベルが下がっていると、個人的には感じています。私の目が肥えたからではなく、昔のライブセットと比較してそう思います。
ブログのアクセス数から、新しくクラブへ行こうとしている人の数をなんとなく感じています。クラブの人が思っているより、いると思います。フェスや中箱に出ている人のDJを初めて来た人が聴いて、DJの凄さや魅力が理解してもらえるとは思えないのです。DJだけの野外フェスのブッキングは、比較的マシだと思いますが、それでも集客+知り合いで、才能と実力のある人が発掘されて抜擢されている状況だとは決して思えません。

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