ウイルス感染拡大時、世界のクラブ業界はどう行動したのかを振り返る

この1ヶ月間で様々な海外の事例を和訳して紹介してきた。次また起こるかもしれない危機に備え、忘れないうちにまとめ直しておく。

感染防止策

ベルリンは複数の箱が参加しているクラブコミッティーがある。日頃は自由を重んじるクラブだが、感染者が出た時点で、感染症の専門機関に相談し、対策の講じた点はさすが。客の安全を第一に考えている。精神論ではなく、論理的で科学的な対策をすぐに取っていた。感染防止とともに、箱で感染が起きてしまった際のことも想定し対策しておく。
ベルリンのナイトクラブ 新型コロナウイルス(COVID-19)対策
ウイルス感染症予防対策(職場・飲食・ライブハウスやクラブ・喫煙)
広めないために
広めないために(続き)

WHOや日本の厚生労働省の情報は遅く、経済優先で市民の安全第一ではない。医療関係者のマスクが不足しているため、マスクに効果がないと言ったり、経済優先で国境封鎖を非難するなどしたが、WHOに従わず、早々に国境封鎖・ロックダウン・マスク配布を行った国々は、感染者や死亡者数を抑え、国民を守れている。国民の安全を第一に考える国の厚生省/健康保健省やCDC(疾病予防管理センター)の情報も参考にする。
アベノマスク 

ウイルスとの闘いは、デマや差別との闘いでもある。
差別
『情報を見極めよう!』

箱の閉鎖、クラブカルチャー

一時的な閉鎖を迫られるにせよ、客や世間に対して、どういうメッセージを伝えるかはとても重要。ベルリンを始め、世界の名門ナイトクラブにはカルチャーがある。単なる仲の良い友達のたまり場や、生活費を稼ぐビジネスではない。ベルリンクラブコミッション、ジョージア BASSIANI、ベルリンのクラブ://about blankの声明文を読むと、彼らが何を最も大事にしているか、何を築いてきたのか、何のために運営しているかが読み取れる。
ベルリンのナイトクラブ 新型コロナウイルス(COVID-19)対策
ベルリンのクラブカルチャー『://about blank』
日本にクラブカルチャーはあるのか
新型コロナウイルス 海外のクラブや音楽イベントの状況 

金銭的支援

団結のスピード、データや基準を根拠にした論理的な優先順位付け、情に訴えるだけではない透明性のあるロビー活動。アーティストも日頃から政治参加し、衝突しながら議論を重ねてきている。日本とは真逆。
ベルリンの複数のクラブが参加する配信United We Streamは、現時点で37万ユーロ(約4300万円)の寄付を集めた。内輪で配布の配分を決めるのではなく、独立した審査員が分配する。

支援先の優先順位付け、政治家へのロビー活動

ベルリン・ニューヨーク・シドニーのナイトクラブや音楽業界は、どのように政府に支援を求めたか
国や自治体のナイトライフ観光メディア、クラブ(箱)の団体
東京都ナイトライフ助成金 1億円 使い道
令和2年(2020年)国・東京都のナイトタイムエコノミー予算

寄付金集め

日本のJASRACにあたる海外の著作権管理団体は、自分たちの利益を生み出すアーティストに投資し、こういった非常時に支援もする。
余裕のJASRAC
1万人に約6万7500円等イギリスのアーティスト支援 組織とスピード 

企業の支援

誰もがアーティストやDJを名乗り活動できる時代だが、アーティストのレベルはバラバラで、全てのアーティストを支援するのは難しい。Spotifyなどの大企業が、大きな金額を支援する先は、個人ではなく団体になる。アーティストの団体がない日本には、支援が回らない。誰もが受けられる支援もあるが、金額が限られる。
Mixcloud SELECT Creatorの基準緩和 
SoundCloud COVID-19の影響を受けたアーティストへの支援 

配信

世界的パンデミックにおいて、世界中の箱やアーティストが一斉に配信を始めることとなった。世界のトップアーティストや、映画や演劇など他のアートとの厳しい競争になる。差別化や独自性が求められる。
ライブ配信の楽しみ方、アーティストに求めるもの
人気DJの自宅や世界の有名クラブからの配信を楽しもう
いち早く配信に移行したオーストラリアのクラブシーン 成功と次なる課題 

音楽の力

こんな時、力になり支えてくれる音楽や歌詞は、自分にとっていかに大事だったか身に染みてわかる。それを見極めることができる機会。
Social Distance 2020

日本の問題点

日本人は、会社を潰さないように、感染リスクがあっても、満員電車に乗って仕事に行く。外国人は、原発事故が起きれば仕事を放り出してでも母国に帰り、ウイルス感染を恐れて出社を拒否する。勤めていた外資系企業の企業理念では、従業員と顧客の安全が最優先だった。それが企業価値やブランドでもあった。海外では箱がDJを守ろうと懸命になっているが、日本ではDJが箱を守ろうと営業継続を支援していた。従業員や客の安全よりも雇用先の継続が第一優先、結局、日本のクラブは国や企業と同じことをしているように思えた。

小箱の経営者の集まりで、出社での感染を恐れる自社の従業員を「うちの頭の弱いバーテンダー」とネタにする。日本のクラブは、マイノリティが安心して居られる場所なのか、発言の自由がある場所なのか、文化施設と言えるのか甚だ疑問。

営業自粛要請と補償、ウイルス蔓延は災害のようなものだから国が支援するのは当然だと思う。その一方、文化施設というアピールには、特にクラブに対しては、違和感がある。文化を醸成するような場所であっただろうか。日本人DJを育ててきただろうか。多くの箱が、外タレで集客し、生活費を得るためのビジネスとして運営してきたのではないだろうか。

予想はしていたのもの、個別のアーティストがすぐに直接もらえる支援情報ばかりが求められる。音楽業界やクラブカルチャー全体、この先将来のことに目がいかない。考える余裕がない。今に限ったことではなく。自分の主張を代弁してくれる影響力が強い人に乗っかり、すぐに簡単に利益を享受しようとする。自分たちで長く戦って勝ち取ろうとしない。JASRACに言われるまま支払い、分配してくれる分をありがたくもらう。権利関係でDJ配信ができないと言われたら、黙ってお上に従う。配信でDJとしてのギャラを稼ぎ、著作権者にもJASRACにも還元できるような仕組みを、JASRACに作らせようとしない。国が休業補償しないのも、JASRACがアーティスト支援をしないのも、市民が要求し勝ち取ってこなかった結果でもある。

日本では、アーティストや箱同士の連帯・団結が難しい。団結しないので、国や企業から大きな金額の支援が引き出せない。海外の小箱は、メジャーアーティストを育てるための培養土としての役割や、観光経済への貢献を数字で示すなどして、存在と投資価値をアピールしている。日本の小箱も、可能性未知数のアーティストにもプレイする機会を与えているのは素晴らしいこと。ただ、団結しなければ、得られないものや、失うものがある。

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