電算機的ベストDJミックス 2019年

今年も今後もずっと聴き続けられるような素晴らしいミックスに出会えて幸せだった。誰かとDJについて議論する機会がなく、人様のミックスを細かく聴き込んで分析するしかなかったが、結果DJを聴く力は格段に上がったと実感している。やばいなと思った人がどんどん評価され、名前も知らずに適当に聴いて「これは!」と思ったミックスが有名なミックスだったり、確実に聴き分けられるようになっている。

今回プロデューサーが多くなってしまったけれど、選曲というより、長い1曲のような構成力の高さで選んだ。基本的には、曲を作る時間で、一曲でも良い曲をdigるDJさんを尊敬している。DJがサンプリングしてループさせただけのような簡単なものを「曲作りました!」と言って、友達が買ってかけてあげるのも大嫌いだし、マスタリングもして完成された曲に、汚い音載せてedit/remix/bootlegにしているのも吐きそう。DJほど時間も労力もかけてdigりもしてない知名度だけのプロデューサー、モデル、アイドル、評論家などが、適当な順で毎回同じような好きな曲かけるだけのプレイも「マジでDJなめんな。」と思ってる。別に有名な人がどんどんDJしてくれていいんだけど、バレエや歌舞伎でも最初に一流の上手い人のを観ないと、何が凄いのかわからない。ボタン押して好きな曲順番にかけるBGM係みたいに誤解されたくない。

常に貪欲に未知のDJさんも探していて、ツイッターのタイムラインに流れてきたミックスはほぼ全部、一部分だけでも聴いてみるようにしているし、気になってる箱でプレイする人はミックスを検索したり、TOKYO M.A.A.D SPINも聴いたことがない人のDJの場合はとりあえず聴いてみてる。ただ数の多い、テックハウスやハードテクノは、個人的におそらく元々そんなに好きではないし、上げっぱなしで緩急がないのが多いので、お酒や派手や照明と一緒に楽しむものなのかなぁと。DJやミックスの数が多くて、差別化しにくい、その中で目立つのは大変だと思う。

①Mayu Amano

MixcloudのHistoryは、Amanoさんのミックスでみっちり埋め尽くされた。去年DoitJAZZ!の井上和洋さんと田村正樹さんのおかげで、だいぶJazzに対する抵抗がなくなったが、好きなものはやはり和ジャズやダンス寄りが多かった気がする。Amanoさんの選曲センスにより、Jazzというジャンルカテゴリの中に好きな曲をたくさん見つけ、自分の勝手なJazz概念を壊すことができた。
<AmanoさんのDJが秀でているのは>
・他の誰とも違う選曲
・ミックス全体の統一感
・緩急や流れといった構成
・繋ぎの美しさ
色んな曲を知りたいから、Jazzも混ぜる他のDJも聴くけれど、AmanoさんのDJに慣れてしまうと、唐突感やごちゃまぜ感が気になってしまう。上手いDJをとことん聴き込むって大事だなぁと。
今年はNTS radioやMUTEKまでもデビューされて、AmanoさんのDJが正しく評価されているようでとても嬉しい。DJだけでなく、アートを音楽とアートを融合したイベントまでオーガナイズされている多才な方。来年もご活躍されること間違いなし。選曲が素晴らしいので、また素敵な曲をたくさん紹介してもらいたい。

Mayu Amano - 22nd October 2019 by NTS Radio

Weekly show 5th October by TSUBAKI FM(前半がAmanoさん)

Weekly show 28th July by TSUBAKI FM(前半がAmanoさん)

②DJ Sodeyama

SoundCloudも今年一番再生回数が多かった曲を表示してくれるんだけど、当然の如くトップに並んでいて笑う。結構聴いたはずの3分とかの短い曲より、SodeyamaさんのDJミックスの回数が多い。
<SodeyamaさんのDJが好きなのは>
・ジャンルに捕らわれない見た目とは正反対の繊細で女性的な選曲
・細かく変化する展開
マッシュアップ等の高度な繋ぎ
・Sodeyamaさんの曲自体が良い
・Sodeyamaさんの曲の活かし方が上手い
・Vinylを扱う所作の美しさ
SUPER DOMMUNEを観ていたら、レコードのタンテ2台に加え、左右2台と右上の1台使ってDJされていた。ツマミもフェーダーもそっと優しく、レコードは必ずクリーナーかけて。伝統工芸の職人のような所作の美しさ。ミックスから受ける印象通りで、より一層SodeyamaさんのDJのファンになってしまった。見た目にも楽しめるようになのか、赤・青・白のレコードも。白のレコードってあるんですね。溝が見にくくて大変そう。
Sodeyamaさんの曲も良くて、EP「I Wanna Dance」とParallelがかっこいい。もちろん使い方次第だけど。
ブログにSodeyamaさんのDJはやばい、大好きと書き綴ったことで、隠れSodeyamaさんファンが思っていたより多いことが見えてきた。いつかSodeyamaさんファンとSodeyamaさんのDJについて語り合えたらいいな。

The Forgotten CL: DJ Sodeyama

OverCurrent Mix Series 009 : DJ SODEYAMA

③DJ Seinfeld

スウェーデンのイケメンさんでしょと思っていたら、Sónarでのプレイが良くて、すっかり大ファンに。ボカロが「さくら、さくら」と歌っていて何だと思った曲は「sakura」という彼の曲で、Aphex Twinがかけたことで有名になった。
<DJ Seinfeldが良いのは>
ハードテクノやテックハウス全盛(という認識)の中でゆったりチルで透明感のあるアンビエント
・今年3つEPを出していて曲自体が良い
・自分の曲の魅力を最大限に生かす構成
・内気なナードっぽさ、派手に煽らない
・日本人のような義理堅さ
どういう場面で使うか考えて作られた曲だとも言えるし、反対に曲の魅力を活かせるミックスが組めるDJとも言える。インスタストーリーズで珍しく本人が自分の声で告知してると思ったら、声がちっちゃ過ぎて聞こえなかったり、おとなしい日本人のようで親近感がある。きりっとした彼女さんともいつも仲が良くて幸せそうで、それも今年の躍進に関係しているのかも。インタビューで彼の音楽やDJはセラピーだと言っていて、聴いている方もそう感じている。また来年も癒されたい。
スウェーデン王立図書館の文化的記録「Archive For Sound」として彼の曲が保存されるようで、Armandさん嬉しそうね。

 DJ Seinfeld Sónar 2019 Barcelona

DJ Seinfeld - Essential Mix 2019-10-05

④Donato Dozzy

babylon market mix vol.2を聴いて驚いて、このイタリアのおじさんは誰なのかなと調べたら、めちゃくちゃ有名な人だった。どうも2016年以前のミックスらしいが、reworkされたParolaのプロモーションなのか、再度アップロードされたようだ。
<babylon market mix vol.2の凄さ>
・ミックスというより43分の曲
・旅しているようなストーリー展開
・水の流れや自然の音による心の浄化作用
・自然音と電子音の融和
年末で疲れてイライラしている方に、明るい画面見るのを止めて暗くして、数分でもこのミックスを聴いてみるのをおすすめしたい。スピり放題。
Parolaはかけている人多くて、個性が強くて覚えやすいから「Parolaかけてるな。」と思われるのがデメリットだけど、今年ボーカルテクノにはまったし、個人的に好きなのでどんどんかけてほしい。

Donato Dozzy - babylon market mix vol.2

⑤Qrion

プラハでのプレイを記事にするつもりだったけど間に合わなかった。一時期ずーっと聴いてた。
<このミックスの良いところ>
・構成がきっちり組んである
・音や鳴りもよさそうな巨大空間にマッチした選曲
・Qrionさんの曲の良さ
・Qrionさんの曲の曲のかけ方が上手い(以前にも書いた通り)
・他人の曲の使い方も上手い
・この規模でもジェスチャーやエフェクトで派手に煽らない
おそらく持ち時間が決まっていて、事前に練ってカチッと組まれたセットの印象。臨機応変が好きな人もいるけれど、よく考えられたセットは作品として完成度が高くて、繰り返し聴けるし、オーディエンスのレベルに影響されないので好き。
Daniele Papini - Church of Nonsenseはかけたら必ず盛り上がると、Q&Aで答えておられたけど、Qrionさんのそこまでの持って行き方が上手い。単体で聴いたら2009年の古い曲でなんてことない曲に感じる。この曲の後、一旦クールダウンさせるような、次の曲(Spencer Brownとの曲「Foggy August」)の持って行き方なんかも。
Qrionさんの曲は、我が強くなくてあっさり薄味だけど、Qrionさん独自の色がしっかりしてる。GAFとかPending Mattersも、もっと評価されてもいいのに。

Qrion: Group Therapy 350 live from O2 Arena, Prague #ABGT350

⑥EUREKA(Negative Cloud)

他のミックスはさておき、これは良かった。
<このミックスが優れている理由>
・主人公となる曲を聴かせるためというゴールが明確
・言葉での説明無しでDJだけの表現で人に伝えられている
・主人公を真ん中に置いてそこから組むというアプローチに挑戦
・この曲を良く人に聴かせたいという純粋な情熱
・ジャンルクロスオーバーなのに音の統一感
・偏見のない自由な選曲
・音の近似や相性による曲の繋ぎ
BPMの振り幅による変化
多くのDJが決まった例えば1時間を、どう埋めていくかというアプローチが多いのでは。最初無音だし、繋ぎが少し気になるところはあるし、40分と中途半端だけど、ゴールを明確に持ってそれを達成できている。上手いDJをして人に評価されたいというより、「この曲好き。聴かせたい。」という純粋な情熱が実現させたのでは。

⑦Sakuma (Modest)

朝の時間帯に最初にPhew「顔だけ知っている人」をかけるというチャレンジと、その後の選曲と組み方。Sakumaさんのこのセットをきっかけに、ボーカルを使ったテクノを意識するようになり、より楽しめるようになった。今回聴き直したらやっぱり良かった。再生回数上位じゃないの何でだっけ?と思い返すと、感傷的になって消耗するからだった。映画って、観た後へとへとになりませんか?あの感じ。でももったいないし、また聴こう。

その他

SUPER DOMMUNE初日のDJ RHADOOの3時間セットは、3時間の構成がさすがで、ちゃんと本当に上手い人だとわかった。
DoItJazz! 田村正樹さんの古い和ジャズ3連繋ぎ(白木秀雄 『In Fiesta』、横倉裕 『Breath Of Night』、喜多嶋修 『Dragon King』)も素晴らしかった。シンセではかなわない生音の表現の豊かさ、40年以上経ってもスタイリッシュに聴こえる名曲。shunhor (shunhoriki)さんもたくさんミックス聴かせて頂いて、お気に入りのDJになった。

Pico (Negative Cloud)さんの、これまでハードオフで漁ってきた100円ジャンクバイナルのみのミックスも楽しんで聴いていた。ディスコが好きなのでね、Most Precious Loveとか良かった。新譜ではなく、安いレコードという縛りでチャレンジしている点も。

PitchforkもRAもPowderさんのこのミックス選んでいたけれど、ごちゃっとしていて統一感やメリハリがなく、あまり良いと思わなかったな。Powderさんだから選んでない?

The 8 Best DJ Mixes of October 2019 | Pitchfork

Resident Advisor RA.700 Powder

Powderさんの良さをわかってもらうなら、2018のFFKT1時間半のセットだと思う。1時間のところにピークを持ってきて、そこでNew Tribeをかける。こういうセットが組める人なのに。
Radio FFKT - Powder "Live At Taicoclub'18" - 10th July 2018

また来年も、素晴らしいミックスに出会えますように。

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