Ano(t)raks 小笠原氏にインタビュー

Ano(t)raksを知ったのは2017年、SoundCloudのプレイリスト『Newly Vol.1』でした。長谷川白紙の曲が含まれていたので、タイムラインに流れてきたのだと思います。今売れているアーティストも並んでいますね。

Kiddish、ecke、神様クラブ、長谷川白紙、Mecanika、sui sui duck、Aseul、Superorganism、図画、weiansue 蘇偉安、colormal、shampooの13組が登録されている。

【NEWS】Ano(t)raksのDai Ogasawara 今盛り上がって欲しいアーティストを集めた「Newly Vol.1」を公開 | indiegrab

Mom(マム)さんは、2017年9月2018年1月にAno(t)raksからリリースされてます。

最新のSoundCloudのプレイリスト『City Pop Next Vol.1』も、とても良かったです。世に溢れるプレイリストには、まずないセレクションで、さすが目利きのAno(t)raksだと思いました。Spotify等のストリーミングサービスに移行してしまい、もうSoundCloudでの発掘は難しいのではないかと思っていましたが、まだまだ面白い曲に出会えそうな気がしました。

そのAno(t)raksが、昨年より法人化されたということで、レーベルオーナーの小笠原さんにお話を伺いました。

 

Q. やはり小笠原さん個人としても、シティポップがかなりお好きだということでしょうか?また、ご自身が音楽活動をされていたご経験はあるのでしょうか?

A. シティポップと意識して聴いていた訳ではないのですが、村田和人山下達郎稲垣潤一辺りは小〜中学生の頃に好きで、その辺りの音がシティポップと呼ばれている事を知ったのは大人になってからです。そこで、あぁ、昔からシティポップという音が好きだったんだなと気づきました。がっつりハマったのは、YouTubeが出来た直後です。そこで様々なアーチストを再発見し、足の遠のいていた中古CD・レコード屋に再び行くようになりました。
音楽活動は、90年代初頭にIndie Popバンドを結成し活動していました。モロにフリッパーズ・ギターに影響を受けたバンドで、カジヒデキさんのいたバンドBridgeなどと対バンしていました。当時は渋谷系という言葉が生まれる直前の時代で、とにかく音楽好きの中でのトレンドの変化が激しく、そこに追いついて行くためには新譜チェックとルーツ確認を同時にこなさなければなりませんでした。今思えば自分の音楽の聴き方は、その時代の聴き方がベースになっているような気がします。

 

Q. Facebookの説明を参考にしますと、Ano(t)raksは「2012年6月、インディーポップソングとアーティストを紹介する個人のネットレーベルとして始動。2013年頃、大学生の中でシティポップが流行っていることにいち早く気が付き、以降シティポップを軸に新人発掘とネットレーベルからのリリースを行ってきた。」と理解しましたが、正しいでしょうか?

A. Facebookのレーベルの紹介文が英文のみですみません。更に正確に言いますと、インディーポップ系のネットレーベルとして始動しましたが、当時の大学生の間でシティポップ系のバンドが増えているのに気づき、シティポップの波が来るかもなと思い、そのようなアーチストのリリースを増やして行った、という事になります。

 

Q. これだけ多くの才能を早期に見出しリリースしてきたAno(t)raksですが、やはりその先見性と発掘能力をマネタライズするのは難しいように見えていました。プレスリリース等の情報によりますと、Ano(t)raksはSony Music Entertainment Inc.からも出資を受けるグリッジ株式会社の傘下に入り、大手レーベルやインディーズアーティストのA&R業務の請負を始められたということでしょうか?

音楽レーベルAno(t)raksが、次世代型レーベル・エージェントとして再始動。サブミッションメディア「tone」を運営するグリッジ株式会社に参画。|グリッジ株式会社のプレスリリース

サブミッションチャンネル「tone」等を運営するグリッジ株式会社がフェイス・グループとソニー・ミュージックエンタテインメントから資金調達を実施|グリッジ株式会社のプレスリリース

A. 最初は趣味と割り切っていました。現在は企業の一部署として活動しています。今のところ請負はしておらず、独自で育てられるアーチストを探しています。

 

Q. evening cinemaとレーベル契約されたそうですが、ベトナム、フィリピン、タイ、マレーシア、シンガポールでもチャートインした、人口が多く成長著しいアジアで売れているすごいバンドなんですね。メジャーアーティストでも海外進出は苦戦している中、是非、先駆者として成功例を作って頂きたいです。今年は、evening cinemaの支援業務に、相当力を入れれてやっていかれるのでしょうか?

Spotifyベトナムバイラルトップ50で1位 東南アジアで大ブレイク中のバンド “evening cinema” が Ano(t)raks とレーベル契約を締結|グリッジ株式会社のプレスリリース

”summertime” を使用した著名人のTikTok動画の投稿が引き金になっていると思います。昨年10月にはきゃりーぱみゅぱみゅさんが楽曲使用動画を投稿しており、このタイミングで日本のバイラルトップ50で9位まで上昇しています。昨年11月のベトナムでは、サッカー選手Do
Kim Phucさんの投稿後、1位を獲っています。最近ではフィリピンで最高3位の他、タイ、マレーシア、シンガポール辺りでもチャートインしています。これらチャートインのきっかけはまだ掴んでいませんが、恐らく日本・ベトナム同様、著名人の投稿による影響ではないかと推測しています。 

いま東南アジアで最もSpotifyバイラルチャートインしてる日本発の楽曲「summertime」(cinnamons × evening cinema)知っていますか?|THE MAGAZINE

A. 個人の時は出来なかった事ですが、現在は世界へと繋がって行く事を大前提として動いています。evening cinemaはあらかじめそのような実績を持ったアーチストでしたので、その土台を元に世界でより大きな前例作りが出来るのではないかと考えています。当然ながら力は入ります。

 

Q. 一方、次の種として、アーティストの公募もされていますね。業務内容として以下を挙げておられます。
・大手レコード会社との提携  (全国展開フィジカルリリース etc)
・選択可能なリリース形態  (配信のみ・配信+フィジカル etc)
・パートナーシップ登録制度  (エージェント機能)
・海外メディアへのアプローチ
実力はもちろんですが、どういうアーティストが応募してよいのでしょうか?売れる見込みのあるアーティストは、投資してもらえるということでしょうか?アーティストがAno(t)raksに費用を払い、エージェントや海外プロモーション業務を委託することになるのでしょうか?

A. まだまだ整備段階で、例にある全ての事が即機能している訳ではないですが、将来的には旧来のレーベルにない機能を増やし「レーベルではない新しいなにか」を作って行ければと思っています。
アーチスト応募に関しては特に規定はないのですが、「次のシーンを予感させるなにか」を持っているアーチストにはどんどん応募して欲しいです。アーチスト自身でそこの部分を判断するのは難しいかも知れませんが…。
契約アーチストとなれば当然投資となります。アーチストが費用を払ってのプロモーション等は今のところ考えていないです。

 

Q. 今後、どういうアーティストやジャンルに力を入れていきたいですか?例えば、海外で売れそうなバンドを支援していきたい等ありますでしょうか?evening cinemaのように、TikTokがきっかけで人気に火が付くケースも増えていますが、ダンスミュージックはどうですか?

A. 当面の間は シティポップ〜J-Popの流れを汲むアーチストを世界にアピールして行ければと考えています。まだまだ世界的需要はあると思うので。ダンスミュージックは自分があまり得意ではないので、メインで考える事はなさそうです。よほど引っかかりのあるアーチストであれば別ですが。

 

Q. レーベルというゲートキーパーを経由せず、誰もが直接ストリーミングサービスでリリースできるようになりましたが、リスナーとしては、玉石混交と言いますか、選択肢が多過ぎて好きな音楽を見つけるのが難しくもなってきているようにも感じます。今だからこそ、プロのキュレーションが必要だと考えていますが、小笠原さんは今の状況をどのように見ておられますか?今後どうなっていくと良いと思われますか?

A. 自分自身これからどうやって新しい音楽を探そうか悩んでいたところでもありました。確かに個人でSpotify等での配信が可能になった時代なので、もちろんSpotifyでも探しますが、アーチスト情報が少な過ぎて正直捗りません。プレイリストは新曲を提供してくれますが、その選出基準に独自性の高いものが少なく、活用するまでには至っていません。これからのキュレーターに求められる要素は「独自性」 (例えば曲順にもメチャクチャ拘ったり) なのかなと思います。本当に自分の好きな音を探している人達は、そのキュレーションの元に小さな輪を作り集まって行くような気がします。小さな輪のまま留まる場合もあれば、例えば海外の小さな輪と複数つながる事で、一挙に巨大化する事もあるのではないでしょうか。

 

Q. 新しい音楽や才能を発掘するのは、とても楽しい遊びだと思います。小笠原さんは、普段どのように音楽を掘っておられますでしょうか?SoundCloudでのdig、SNSでの口コミ、ライブ、Spotifyのプレイリスト、何が一番良い音楽に出会う可能性が高いですか?

A. SNSは、仕事で使う(告知など) 機会が増えて、そうすると個人で使う時間がなくなってしまい、そのためそこを情報源とする事はほとんどなくなってしまいました。Spotifyは決め打ちで聴きたい音楽を探して聴く場合に使っています。継続的に発掘で一番使っているのはSoundCloudです。ここではSpotifyに上げる前の段階の音が聴けます。広すぎる海に放たれる前の良い音と出会える場所とも言えるでしょう。DM機能もあるので、気になればすぐにコンタクトを取る事も出来ます。人により色々な手法があると思いますが、個人的には根気よくここに留まる事で、良い音と出会う確率が高まると思っています。

 

Q. アーティストやAno(t)raksファンの皆さんに、何かメッセージがありましたらどうぞ。

A. 今年はコンピレーションアルバムをリリースの中心として行きます。コンピを下地にして、単独リリース可能なアーチストを絞り込んで行こうと考えています。知名度が低い段階で単独作品を組むと、稀にヒットする事もありますが、せっかく良い音楽なのになかなかリスナーに届かないという歯がゆい経験の方が多く、単独リリースの前にコンピという土台があれば弾みがつくかなと考えました。
コンピを組む事で、次のシーンがおぼろげながらも見えて来たり、また収録アーチスト同士の横の繋がりが出来たりもします。単独作品で知名度を上げる事が難しくても、コンピの中で親和性の高いアーチストと一緒に聴かれる事で一気に知名度が上がる可能性も高まります。
出来れば短いスパンでどんどんリリースして行きたいと考えていますので、ご興味ある方はぜひご応募ください。

応募フォーム (コンピ希望と明記ください)

本日、コンピレーション アルバムがリリースされました。
bandcampで無料ダウンロードできるので、是非聴いてみて下さい。

STEPS 01 / V.A.
「2020年より始まる、シリーズ・コンピレーション・アルバム第一弾。
今回は国内の City Pop、Indie Pop 系アーチストを中心にコンパイルしました。」
各種Subscription -> STEPS 01 by Various Artists
bandcamp

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