あいちトリエンナーレから1年 権力集中とガバナンス

カオスラのハラスメント告発文を読んだ。事実であるとすると、個人のセクハラに限らず、組織としてのコンプライアンス意識やガバナンス欠如も起因したと思う。人間の倫理意識をコントロールすることは難しい。そのためにガバナンスがある。

あいちトリエンナーレから、ちょうど1年。「表現の不自由展・その後」の芸術的評価や、国からの補助金について話題になったが、それより、芸術の専門家でない芸術監督が、独断で作品を選定できてしまう仕組みが一番の問題だと思っていた。芸術監督に権力が集中し、自分の友達の作品を選ぶこともできるし、接待を受けて優遇することもできてしまう。公金を使った芸術祭の私物化が可能だった。

昨年12月に、調査報告書とその結果を受けて今後どうすべきかの提言が公表されていて、権限の集中を解消する組織が提言されていた。

調査報告

あいちトリエンナーレのあり方検討委員会 調査報告書

7.しかし出来上がった展示は鑑賞者に対して主催者の趣旨を効果的、適切に伝えるものだったとは言い難く、キュレーションと、来訪者に対するコミュニケーション上の多くの問題点があった。
(1)作品選定への疑問
 -過去に公立美術館で禁止になっていない作品や新作等が混じり、過去に公立美術館で展示中止されたものを集めるというコンセプトからのズレが生じた。
 -その上、政治性を帯びた作品が多かった一方、わいせつ性を理由に展示を禁止された作品等を展示しなかったため、一部の人々から「政治プロパガンダ」という批判を受ける余地が生じた。

10.展示された23作品の過半が実は2015年の「不自由展」に出されなかったものだった。それにも関わらず芸術監督は不自由展実行委員会に「展覧会内展覧会」の形式で展覧会の開催を業務委託したが、他の方式を事前に検討しなかった。
 -不自由展の実行委員会は、写真撮影の禁止と少女像をパネル展示に代える等の提案を早くから拒絶。その段階から芸術監督は混乱を回避するため企画を断念、あるいはキュレーターチームの協力を得て他の方法での実施を検討すべきだった。
 -芸術監督は、例えば担当のキュレーターを指名し、作家と個別に交渉し、自ら展覧会を作り上げる等の正攻法をとりえた。しかし、キュレーター会議での承認が遅れ、また不自由展の実行委員会は想像以上に頑なであり、交渉に多大な時間を要し、不自由展実行委員会に妥協して、結果的に業務委託方式をとった。 

11.展示の中止とそれによる混乱が生じたことの背景には準備プロセスと組織体制上の数多くの問題点もあった。
(1)不自由展の企画段階で専門のキュレーターチームが参加しなかった
-全般的に当初から芸術監督とキュレーターチームは意見が不一致。その結果、不自由展については芸術監督が不自由展実行委員会との連絡、調整を自ら担当。さらに3人の作家に自ら出展を依頼、交渉も行った。
(2)不自由展の準備においては警備を除いて関係者間のチームワークが十分に形成できなかったこと
契約書の「作品選定は芸術監督、キュレーターチーム、事務局(記述上は形式的に会長と記載)、不自由展実行委員会の4者で行う」旨の定めから逸脱した。
-不自由展実行委員会は多くの調整ごとを検閲とみなし、拒否。その結果、円滑な協力と連携の体制が取れなかった。
-その結果、芸術監督は混乱をもたらすと予見できる大浦氏の新作映像の出展を不自由展実行委員会及び作家だけと進め、キュレーターチームや事務局、会長には事前に一切通報も相談もしなかった(投影準備の作業担当者を除く)。
(3)芸術監督には多大な権限が与えられる一方、判断ミスや錯誤を抑止する仕組みが用意されていなかった。一方で報酬は極めて低く、人事裁量権に乏しく、協賛金集めのための経費すら自己負担を強いる状況にあった。
-芸術監督の選定委員会(2017年6月)において「キュレーション経験のない芸術監督をバックアップする体制が必要」と言われていたにもかかわらず、体制不備のまま準備が始まった。
-芸術監督はジャーナリストであり、アートの専門家ではなかったため、キュレーターとはアート面では同等の立場にあって相互に助言し、あるいは牽制する仕組みを目指した。しかし、十分に機能しなかった。

12.芸術監督に起因するリスクを回避・軽減する仕組み(ガバナンス)があいちトリエンナーレ実行委員会及び県庁に用意されていなかった。
芸術監督の仕事の進め方について疑義や難題が生じた場合、あいちトリエンナーレ実行委員会の顧問や参与(美術館長等)、資金を提供する県庁が助言あるいは牽制すべきだが介入する根拠規定がなかった。
-あいちトリエンナーレ実行委員会において芸術監督は最高責任者と位置づけられていた。しかし、あいちトリエンナーレ実行委員会の事務局は、県庁内の一部門を兼ねており県庁の指揮命令系統の中、知事の下で仕事をする仕組みになっていた。即ち、建前と実態が乖離していた。

*「表現の不自由展・その後」は、他の多くの展示とは異なり、5人の委員からなる「表現の不自由展実行委員会」に対して、出展を委託する特殊な形態をとっている。このため、「あいちトリエンナーレ実行委員会」と個々の作家との間には、直接の契約は存在しない。 (別冊資料1・25ページ参照)

f:id:senotic:20200805181355j:plain芸術監督であった津田氏自身が契約書の手順から逸脱、独断で交渉し事後承認を取り付ける。「表現の不自由展実行委員会」とは委託契約という特別扱いをし、あいトリと展示作家と直接契約がなかった。つまり、中抜き、友達の作品を展示、極端な話、右翼団体暴力団に公金を流すことだってできる状況。いくらジェンダーの数合わせをしても、芸術監督独断で作品の選定と契約をすれば、公平ではなくなる。高いとは言えない報酬で、ご自分の正義でお仕事されていたんだと思うが、公金を使った芸術祭の私物化としか思えない。森友・加計問題を批判できない。美術業界では当たり前過ぎて、議論にもならないのだろうか。

調査において芸術監督の権限集中とガバナンスの不備が認められ、その課題を解消する組織が提言されている。

今後の新しい組織体制

今後の「あいちトリエンナーレ」の運営体制について(第一次提言)

f:id:senotic:20200805182300j:plain

f:id:senotic:20200805182319j:plain

f:id:senotic:20200805182339j:plain

結果、芸術監督の権限は大幅に縮小・限定され、芸術監督の独断で展示作品を決定できなくなった。大村知事が担っていた会長職を民間から起用し、政治の介入や検閲との批判をかわせるようにし、芸術監督の代わりに会長の権限を強めた。会長による影響が大きく、誰が会長を務めるかが重要となる。

大林組 大林剛郎会長

その会長は、大林組 大林剛郎会長の就任が予定されている。

大村秀章知事(60)が6月8日、県公館(名古屋市)で自民党県議団団長の原欣伸(よしのぶ)県議(51)らと向き合い、そう応じた。現代美術に詳しい大林組(東京都)の大林剛郎(たけお)会長(66)をトップに招いて組織委を今秋にも立ち上げ、芸術家ら4人によるアドバイザー会議を設置。県や経済界は「応援団」に回り、名称変更は組織委を中心に議論されることになる。

あいちトリエンナーレ、組織委のトップ候補に大林組会長:朝日新聞デジタル

 17年11月19日付「首相動静」(時事通信)によると、安倍首相は午後4時59分から、東京・虎ノ門ホテルオークラ内の宴会場「アスコットホール」で催された大林氏の親族の結婚披露宴に出席している。12年12月の第2次安倍政権発足以降、安倍首相は大林氏と少なくとも3回会食している。

リニア談合、大林組会長と安倍首相の「親密な関係」(Business Journal) - goo ニュース

津田氏は、集客の成功や特にジェンダーの平等の成果をアピールされるが、芸術の専門家でない津田氏の独断による作品の選定が公平だったとは思えず、むしろ依怙贔屓で不平等だったと思う。結果、芸術監督の権限が大幅に制限され、首相との個人的関係が憶測されている会長の下、組織が稼働することになってしまった。これは、後退ではないのだろうか。

Copyright © 電子計算機舞踏音楽 All Rights Reserved.