オープン・スペース 2017 未来の再創造 @ NTT ICC

実はもう5回も、こっそり足を運んでいた展示。何度でもじっくり堪能したかったので秘密にしていた。会期も残り少なく、特に才能ある方たちには体験してほしいので書く。

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See by your ears
evala
真っ暗な無響室に一人で入り、8.1chスピーカーで立体的に録音された音を聞くというインスタレーション。今まで生きてきた中で、全く体験したことのない感覚だった。無響室は壁と天井だけでなく、床も吸音材で覆われている。吸音材を踏むわけにはいかないので、床の吸音材から少し離して金属の網が張ってありその上を歩くことができる。真ん中に椅子が置いてあり、椅子を囲む上下四方に計8台のスピーカーが設置されている。

椅子に座ると、係りの方は外に出て扉を閉める。ゆっくりと部屋の照明が消え、完全な無音、暗闇となる。日常生活では、部屋を暗くしても家電製品の電源ランプが光っていたり、どれだけ田舎に行っても月明かり等で完全な暗闇を経験することはない。音にしても耳栓や聴力検査室の防音は完全ではない。吸音とはよく言ったもので、音が部屋に吸い込まれる無音の感覚は初めてだ。すぐに音のインスタレーションが始まるのだが、それまでのたった数秒の無音・暗黒にいることで、心が解放される不思議な体験をした。心のザワザワした雑念が、すっと部屋に吸い込まれる感覚だった。暗闇のまま、ちょうど首筋のあたりに音が聞こえ出す。厚いビニール袋かゴム風船を引き裂こうとする。なかなか破れないので力を込めると、はじけて中からサラサラとした砂状のものが飛び出してくる。耳元で女性が艶めかしく息を吸い、吐息を漏らす。木製の大きな樽が背後でゴロゴロと転がる。乾いた音のする鐘が鳴りながら、私の頭の周りを縦に円を描いてグルグルと回る。小川の水がこんこんと流れ、枯葉のまじった砂利道を誰かが歩いていく。屋根ほどの雪に埋もれるが、体の周りの雪を上から下まで何かが踏み固めていく。とても書ききれないが、様々な音が体の周りを駆け巡る。言葉でもっと細かく描写できるほど、リアルな情景が頭に浮かぶ。百聞は一見にしかず、視覚からの情報が87%というが、人間は聴覚からもこれだけの量の豊かな情報を得ているということがよくわかる。(evala氏は、「耳で視る」と表現している。)首を左右上下に振ってみたが、同じように立体的に聞こえるところもすごい。この作品体験から立体音響に対する欲求が高まり、ミュージック・テクノロジーとメディア・アート ~創作と研究の交差点~で22.2 multi-chを体験するのだが、全く立体的に聞こえずひどく落胆した。立体録音/設計(デザイン)/構成の技術とセンスが、かけ離れているのだろう。そして、私には癒しの効果があった。聴覚を研ぎ澄ませ集中することで、常にどこかにある不安や心配事から切り離され、体験後はすっきりとし、さらに充足感もあった。岡ともみ氏の作品はもっとローテクだが、立体映像や22.1ch、風や匂い、触覚を発生させる大掛かりな装置なくとも、8.1chの音だけでこれだけリアルな仮想現実空間が作れる。無響室は高価で、1名ずつしか体験できないという制約が今はあるが、安価に家での楽しめる装置ができれば、音楽、映像、ゲームのように一つの分野として成り立ち、様々な立体音響作品やコンテンツが楽しめるようになるのでは。絵画→動画→3D動画と視覚芸術が広がるように、聴覚芸術ももっと発展する余地があることを知らしめる作品だと思う。
おすすめ
3. Otocyon Megalotis #2 “Chafe”
2. Otocyon Megalotis #1 “Reflection”
1. Our Muse


能量的風景(エネルギーの風景)
袁廣鳴(ユェン・グァンミン Yuan, Goang-ming)
台湾にも原発放射性廃棄物貯蔵施設があり、その近くに住む台湾人アーティストが東日本大震災をきっかけに撮影した映像作品。ドローンやケーブルカムを用い、台湾の原発放射性廃棄物貯蔵施設、廃墟、東京湾を撮影した映像に音が加えられている。プロジェクターの前にレンズのようなものが固定してあり、大きな壁一面に映像が映る。スピーカーは下に2つ。壁一面が映像であることと、ドローンやケーブルカムのカメラワークが素晴らしく、今いる部屋が飛行機のように感じたり、浮遊しているようで没入感が強い。廃墟のメリーゴーランドの中へ浮遊しながらゆっくりと入っていくが、ケーブルカムのケーブルは見えない。メリーゴーランドに鏡があるのにカメラは映らない。開発途中で放棄された別荘街をドローンが進み、そのうちの1棟の窓に突っ込む。ドローンはどうやって保護か着地させたんだろう。風が強いはずの東京湾を、風に煽られることなく飛ぶ。途中、海から少し目線を上がり、東京湾に立ち並ぶビルを見る。ドローンで角度の操作ができるんだろうか編集だろうか。前に進む映像だけではなく、後ろに下がる映像が印象的。廃墟、声は聞こえるのに誰もいない学校、原子力発電の制御室、人々が余暇を楽しむビーチ、ナレーションはないが様々な感情が湧いてくる。時に映像は言葉よりも強く、記憶に残る。

 

Between the Bullet and the Hole(銃弾と弾痕のあいだ)
Aura Satz(オーラ・サッツ)

4メートルほどありそうな大きなスクリーンに映される映像作品。音楽はScanner(Robin Rimbaud)。様々な弾痕の画像、銃弾の映像、古い研究資料が、Scanner氏の金属を叩く煽るような激しいリズムの音楽に乗って映し出される。「1945年まで"computer"は人間、多くは女性を指す言葉だった。」「軍需工場で働いた女性たちの存在は女性の選挙権獲得に繋がった。」そうだ。残忍な映像はなく研究資料のみだが、研究の内容は銃弾でいかに敵を傷つけるかだ。今も地球上のどこかで戦争は起きていて、兵器の研究開発をしている人がいる。それを職業として生活の糧を得ている人たちもいることに思いをはせた。Scannerの音楽、音とリズムが素晴らしかった。半分は音が主役と感じるほど、音が伝えてくるものがあるように感じた。

Juggler
Gregory Barsamian(グレゴリー・バーサミアン)
立体パラパラ漫画のような作品。少しずつ動きを変えた人とモノの彫刻が円柱に順番に張り付けられていて円錐が回転、規則正しく光るフラッシュにより動いているように見える。人はワイヤーでできているのだが、等身大の大きさ。円柱の高さは5メートル程あるように見えて、巨大な円柱が遊具のようにグルグル回転する。万が一破損し鑑賞者に飛んで来ないようにするためか、作品と鑑賞者の間にはガラスかアクリル板がある。「銃弾と弾痕のあいだ」の隣に設置してあるのだが、回転時の音がかなり大きくてうるさい。15分毎に回転と停止が繰り返される。回転し始め、回転から停止が両方の状況を見れるので面白い。
同じアーティストによる作品


Find Out Your Own Face!(自分の顔を探せ!)
企画:渡邊淳司/技術協力:吉田成朗,川瀬佑司
備え付けのカメラで自分の顔を撮影し、目が離れている、眉が太い、鼻が広がっている等自分の顔が少し処理された画像10枚がスクリーンに表示され、何も加工されていない自分のありのままの姿を当てるというゲーム。割と不自然な加工もあるが、簡単ではない。

 その他、言葉でなく振動でコミュニケーションする電話ボックス、絵を描くAIロボット、棒の位置に応じて音と色が変化する部屋等、体験できるメディアアートが複数展示してある。坂本龍一 設置音楽2が始まってから混み出した。3月の金・土・日は夜8時まで開館時間を延長するそうなので、幡ヶ谷 forest limitへ行く前に立ち寄るとか、是非。

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