地方のサラリーマン家庭から女性音楽プロデューサーへ

日本に限らず知名度のある若い音楽アーティストは、親が芸能人であったりマスタリング エンジニアなど業界関係者であることが多い。日本でコネのない普通の子をファンダムの力で押し上げる例はあるが、作品ではなく人に付くファンの力が大きいので、ファンに対して迎合せざるを得ない。（アーティストに付くファンはアルバムを聴く前に予約してくれるし、グッズも買ってくれる。）知れば知るほど音楽業界は男性社会で、多様性を考慮して組み入れられる女性も、結局は男性目線で評価が高かったり、男性にとって都合の良い発言をする女性であることが多い。一般の企業より音楽業界は自由だと思っていたが、女性にとってより生きにくい場所だと感じている。そういう閉塞感を感じていたところに、海外の若い女性アーティストがDIY的な手法で自分のやりたい表現を実現し成功していることを知り、息苦しさから解放された。
10代の女の子がベッドルームで録音したり友達と作った音楽をYouTubeに上げたらバズって、一躍有名になるというケースにも出会う。知恵と工夫と情熱で、メジャーレーベルの資金力・影響力にも打ち勝ち、成功しているアーティストが世界にはいる。同じ手法は使えなくても、インサイトや勇気を与えてくれるのではないだろうか。そう思って、今までブログに書いてきた女性プロデューサーをまとめてみた。

Rosalía （スペイン）

1年半前に、2つのパソコン、1枚のsound card、1本のマイク、たったそれだけで始め、先日ラテン グラミー賞4部門を受賞した。グラミー賞にも2部門ノミネートされている。スペイン語だけでレコーディングしたアーティストがBest New Artistにノミネートされるのは初めて。
"El Guinchoは家で私とEl Mal Quererを作りました。床の上で、2つのコンピュータ、1枚のsound card、1本のマイク、それだけ。神に誓って。1年半動いてこれが起きたことは信じられないような凄いことです。"

¡Felicidades! @rosaliavt Álbum del Año 🎶👏👏👏 #LatinGRAMMY #20AñosDeExcelencia pic.twitter.com/XD0fCP2xvh

— Latin GRAMMYs (@LatinGRAMMYs) November 15, 2019

 彼女は制作のために借金もし、母親も仕事を辞め妹も手伝い家族一丸となって取り組んだ。MadonnaやBritney Spears、2018年のKendrick LamarのGrammyでのパフォーマンスも担当したCharm La’Donnaが、十分な資金がないにも拘わらず振り付けを引き受けた。J BalvinにWhatsAppで曲を送り、その日のうちにJ Balvinがバースを乗せて返すなど、ネットも駆使して制作した。
ROSALÍA, J Balvin - Con Altura 歌って踊れる敏腕プロデューサー
ROSALÍA - F*cking Money Man ルーツとフラメンコへの情熱
ROSALÍA - Aute Cuture フェミニズムとファッション
ROSALÍA - A Palé スターは影響力を何にどう使うのか

Hoàng Thuỳ Linh （ベトナム）

俳優として人気絶頂であった19歳の時にプライベート動画を流出され、表舞台から一旦姿を消すこととなる。それから10年を機に、無名でも才能のある若者を起用したプロジェクトを立ち上げ、ベトナム国民誰もが知る曲と映像を生み出した。動画の再生回数は8300万回以上、踊ってみた動画やパロディが次々と生み出されている。
未来を奪われた少女の復活 Hoàng Thuỳ Linh - Để Mị Nói Cho Mà Nghe

Powder （日本）

PitchforkのBest New Musicに選ばれ、Gilles Petersonも次世代を担うDJとして注目しているDJで音楽プロデューサーのPowder。長崎に生まれ、サラリーマンも経験し、今年ワールドツアーを成功させた。
まさかの桃子だから桃 Powder - New Tribe

Nina Kraviz （ロシア）

単にロシア美女のテクノDJだと思っている人も意外と多いが、モスクワから遠く離れたシベリアで生まれ、努力して歯科医になり、DJに転身した実は苦労人。訪問する国の文化を愛し、その国の言葉を覚えようとする知性のある女性。
Coachellaブッキングの秘密 Paul Tollettのインタビューから
女も惚れるNina Kraviz ニーナ・クラヴィッツのDJ

Nicki Nicole （アルゼンチン）

2019年の4月まで全くの無名だったが、ネットに上げた歌がバズり、Spotifyのグローバルチャート トップ100入りを果たした、19歳のR&B/HipHop歌手。
ジャージ鼻ピアスにバット 独特の声を持つ魅惑のアルゼンチンギャル Nicki Nicole

Nahae （韓国）

SukieeとLokidという仲間と、スタジオでチキン食べながらという仲の良さで音楽を大量に作り続けている。環境は日本と近いし、日本のプロデューサーとももっとコラボして、お互いの上手いやり方をシェアできる関係ができるといいなと思う。
人がうみだす音楽 韓国SSW Nahae / 12 Questions to Know Nahae, Korean Singer

Alina Pash （ウクライナ）

メジャーレーベルからのオファーも断り、制作だけでなく契約・会計・著作権・ロイヤリティ対応までこなす女性ラッパー/アーティスト。国の独立記念日の式典でもラップを披露した。首都から離れた地方小さな町の出身。
Alina Pash - BOSORKANYA 赤子にかけられた黒魔術
国境を越えて伝わるミュージックビデオ

ONUKA （ウクライナ）

ウクライナの伝統楽器と電子音楽を融合するという独自の方法で、若者も熱狂できる音楽を作った、国内だけでなく海外でも人気のアーティスト。
ONUKA - Vidlik チェルノブイリ原発事故から30年

AURORA （ノルウェー）

ナルニア国のような山と木々とヤギに囲まれたノルウェーの辺境に生まれ育ったアーティスト。マイノリティや弱い人を勇気づけるような作品を生み出し、積極的に発言もしている。
The Chemical Brothersを魅了したノルウェーの才能 AURORA

国の経済が破綻したり戦争があったり、日本と同じくその国の言語を話す人口が少なく市場が小さかったり、そんな中でもたくましく楽しく音楽を作り続けている人がいる。一方、SoundCloudに良い曲上げてた人の多くが、社会人になったらやめてしまう。レーベル、批評家、音楽メディアに女性を増やして、多角的な角度で音楽を見つけて拾い上げてほしいものです。