中西圭三『Woman』(1992年)30年前の女性のエンパワーメント

久保田利伸より、中西圭三なのよね、ストリーミング解禁してほしいのは。もう『Choo Choo Train』作った人がという説明が通じないのではと心配したが、先日年末の大きな音楽番組の締めくくりとして歌われたようだ。

24時間戦えますか?

中西圭三の代表曲『Woman』がリリースされたのは、1992年。ドラマ『東京ラブストーリー』(1991年)の翌年で、バブル崩壊直後。経済の打撃はまだ部分的で、バブルの感覚が抜けきらない頃。

「24時間、戦えますか?」三共 リゲイン

「しば漬け食べたい」フジッコ
山口美江は、上智大学卒業で英語が堪能な元キャリアウーマン、英語のニュース番組のキャスターも務めていた。祖父がドイツ人のクォーターで、都会的な顔立ちながら、一人になりほっと一息つくために欲するのは、和風のしば漬け。タバコでもビールでもない。

25歳を過ぎて結婚していない女性は、12月25日のクリスマスケーキのように売れ残りと言われた。

女性を取り巻く環境

1990年前後、女性を取り巻く環境、特に労働環境はどんな風だったか。

1986年 男女雇用機会均等法 施行

採用における男女平等は努力義務。大卒の女性を採用する会社も少なかったため、大学に進学する女性も少なかった。
男女雇用機会均等法の変遷

(均等法施行前の85年)当時、一般的な企業の女性の採用は短大卒ばかり。四大卒でも女性の総合職採用は限られ一般職枠で銀行に就職した先輩もいました。

「配属も研修も男女平等でしたが、電話に出ると『誰か男性を出してくれ』は当たり前。一般職入社の優秀な女性たちもいるので、同期から『女性からも敵とみられるよ』と。それで、お茶くみや机拭きもやりました」

均等法パイオニア世代 施行30年、女性の奮闘の歩み|NIKKEI STYLE

1989年 第15回参院選 「おたかさんブーム」「マドンナ旋風」

日本社会党委員長 土井たか子が消費税導入およびリクルート事件を激しく追及、参議院選で、女性議員を含め選挙前の倍以上の議席を獲得。

土井たか子 - Wikipedia

1991年 田嶋陽子ビートたけしのTVタックル』出演

フェミニズム研究の田嶋陽子氏がテレビに出演し始める。テレビ番組で女性が怒ることが珍しい時代に、女性の代弁者として支持を得た。舛添要一氏との議論(口論)が、バラエティ的に消費されていた。

イギリスへの留学を経て大学教授として法政大学で英文学と女性学を教えていた田嶋さんが、ブレークするひとつのきっかけとなった『ビートたけしのTVタックル』(テレビ朝日系)に初めて出演したのは1991年。

 当時、女性の社会進出は進みつつあったものの、働く女性は「OL」とひとくくりにされて、結婚や出産で会社を辞めるのが当たり前だった。

 実際、当時の厚労省の調査によれば“女性の”育休取得率は4割。そもそも制度のない会社も多かった。

田嶋陽子さん、かつての女性論客を批判「みんなズルかった」|NEWSポストセブン

「水着のようなコスチュームの女性が、無言のまま出演者に飲み物を配っていた。田嶋さんが戦っていた90年代のバラエティ番組は、今なら考えられないほど偏見と差別に満ちていて、男性中心に回っていた」

平成のはじめに、田嶋陽子がテレビカメラの「向こう側」に語り続けてきたこと

テレビ局の廊下で女性タレントとすれ違うとき、みんな下を向いて知らん顔するんですよ。テレビ局の中で、田嶋陽子の考えに共感してると思われたら、男たちに嫌われると思ったんでしょう。仕方ないなとは思ったんだけど、それはすごく寂しかったです。

TVタックル』だと、視聴率が20%を超えたこともあります。NHKで真面目にフェミニズムを語っても、誰も見ないですよ。当時は出演者も原稿を読むだけだから、言葉も自分の言葉になってなくて、既成の言葉でしょ。私でさえ退屈しちゃう。

その頃、女の人が人前で怒るなんて、考えられなかったんだよね、「女らしくない」って。だから、私が怒ったり、きつくなったりしてると、ほんとに女の評判が下がるわけです。

女の人はほとんどがフェミニストになりたくなかったんですよ。男社会に嫌われたら、女の人は生きていけないから。心の中に不満を抱えていても、構造としての女性差別があるなんて思えないし、思いたくもない。だから、私が言いたい放題言うと、不安になるんでしょうね。男たちは、そこに目をつけて、女同士を戦わせようとする。

フェミニストたちは、私のことを嫌いました」
30年前『いいとも』で初バラエティ “非難の嵐”でも田嶋陽子がテレビに出続けてきた理由 | 文春オンライン

1991年 映画『就職戦線異状なし』公開 

新卒採用の売り手市場だった当時の日本の風潮を描いた作品で、1991年3月にバブル景気が崩壊した後(バブル崩壊後も1992年春頃まではバブルの余韻が色濃く残っていた)に公開された。

就職戦線異状なし - Wikipedia

主題歌は、槇原敬之の『どんなときも。』。

1992年 育児休業法 施行

 育児休業が単独の法律となったのは1992年のことで、女性の職場進出、核家族化の進行等による家庭機能の変化、さらには少子化に伴う労働力不足の懸念等を背景に「育児休業法」が同年4月1日から施行されました。

「改正育児・介護休業法について(その1)」|Web限定コラム男女共同参画ゼミ|フレンテみえ|三重県総合文化センター

1993年 中学校で家庭科の男女共修が始まる

私は文字どおり、男女平等教育の時代に育った。中学校に入学したのは1993年。まさにこの年から、家庭科が男女共修になっている。「1979年に国連で採択された女子差別撤廃条約の批准に向けて、中学校・高等学校の家庭科男女共修の実現へ本格的に取り組み始めた※1」、これがその背景だったようだ。
※1 家庭科教育における男女共同参画社会の実現に向けた学習内容の課題(藤田昌子)

田嶋陽子が日本のフェミニズムにもたらした功罪、なんて書きたくない(山内 マリコ) | FRaU

1997年 改正男女雇用機会均等法 施行

女性も深夜残業が可能に

・事業主に対するセクシュアルハラスメント防止措置の義務化
労働基準法等を改正 女性の時間外・休日労働、深夜業の規制の解消

男女雇用機会均等法の変遷

法律が改正されたものの、女性の先輩社員もいない男性社会がすぐに変わるはずもなく、性差別やセクハラも当たり前。1997年までは、看護といった特別な仕事以外は、女性の深夜残業は認められておらず、働きたい女性はタイムカードを押して帰宅したことにし、隠れて残業をすることもあった。

応援歌

「24時間、戦えますか?」の時代、栄養ドリンクを飲み、応援歌を聴いて生き抜いた。
1983年『ファイト!』中島みゆき
1991年『どんなときも。』槇原敬之
1993年『負けないで』ZARD
1995年『ガッツだぜ!!』ウルフルズ

『Woman』の歌詞

中西圭三『Woman』(1992年)
作詞:売野雅勇、作曲:中西圭三

Woman 君が探してる
未来は君の中にあるよ
Woman 何も恐れずに
夢見るように生きてごらん

朝焼けの河口へと滑る船見ながら
思うまま生きるのは勇気がいると言ったね
自分を信じて歩き出せばいい
心細くても君はもうひとりじゃない

Woman 夢のささやきが
聞こえるドアを叩けばいい
Woman 君が探してる
未来の君が待っているよ

大粒の涙だね何を怯えてるの
この朝が新しい君の始まりの日さ
君がもし夢を棄てようとしても
夢はもう二度と君のこと離さない

Woman 君が探してる
未来は君の中にあるよ
Woman 何も恐れずに
夢見るように生きてごらん

Woman 夢のささやきが
聞こえるドアを開けてごらん
Woman 何も恐れずに
未来の君に出逢えばいい

 「思うまま生きるのは勇気がいると言ったね」女性の話に耳を傾ける優しさ。「大粒の涙だね何を怯えてるの」で痛みを受け止めようとし、「君がもし夢を棄てようとしても 夢はもう二度と君のこと離さない」と、夢を諦めきれない気持ちを察して、後押ししてあげている。「未来の君が待っているよ」「未来の君に出逢えばいい」と成功イメージを抱かせ、勇気づけている。美しさや若さを褒めるのではなく、「頑張れ」も「負けるな」も一言も使わず、肯定する形で、女性を優しく勇気づけている。
先日、TWICE『Fake & True』の歌詞を、女性エンパワーメントソングとして褒めたばかりだが、売野雅勇氏は30年前に、こんな良い歌詞書いていた。『Fake & True』は同性同世代からの強めの発破だが、『Woman』は包み込むような優しさがある。

TWICE『Fake & True』

ないものを願えど 結局癒せない渇きを
だけどきっと望むのを止めなければいつかは
true, true, true

満たされたふりをしないで
believe in your intuition(直観を信じて)
強がりをうらやむことも必要なの
限界を決めない どこまでも
私たちもっと自由なまま輝ける

諦めるよりも 手を伸ばせ
Get it now Get it now Get it now
どっちがいいかなんてもう 分かるでしょ?
Get it now Get it now Get it now

アートに励ましを求めるべきではないけれど、時代が求めるものを大衆文化・娯楽として作ってはいけないだろうか。LGBTQ+の当事者は、LGBTQ+アーティストの作品から勇気をもらっていて、アーティストもそのことを喜んでいる。怒りや恋愛感情を作品に昇華するように、応援したい気持ちも作品にしてもいいんじゃないかな。

朝焼けの河口

中西圭三氏が眺める「朝焼けの河口(Womanの歌詞)」。

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