電算機的 BEST MUSIC 2020年 (1~10位)

今の時代にあった音楽の探し方のコツがつかめてきたことと、YouTubeのおかげで、今年は好きな音楽に大量に出会うことができた。それも、作品を生み出してくれる人が世界中にいてくれるからこそ。それに対し、日本の音楽メディアで扱う範囲がどれほど小さいことか。音楽メディアやキュレーターの質、音楽アーティストのインタビューでの受け答え、世界と日本の差を感じた。
Z世代と一括りにはしたくないが、今年は、10代後半から20代前半のアーティストの活躍ぶりを楽しんだ。海外だけでなく、日本も。ストリーミングやYouTubeのおかげで、言語や地理的距離の障壁が低くなり、ラテン語圏のマーケットの大きさも可視化されてきた。実力や個性のあるアーティストも次々と育っている。スペイン人アーティストや、AYA NAKAMURAのような移民のフランス人等は、、ラテンと西ヨーロッパどっちつかずな感じでグラミーからは外れてしまうが、ストリーミングの再生数を見れば売れていることは歴然。DUA LIPAやILIRAを生んだアルバニアウクライナとロシアも面白い。もちろん韓国も。韓国のインディーズシーンに、確実に次の音楽が育っている。
例えば、もし国内の作曲コンテストに、BTS『Dynamite』が持ち込まれていたとして、誰も評価しなかったんじゃないだろうか。ポップミュージックを評価する人がいないから。審査員は、大抵邦ロック・ヒップホップ・アニソンの男性プロデューサーだから。最近やたら『ILIRA (アルバニア、スイス) ポップミュージックは複雑で高度な音楽』が読まれている。ヒップホップのビートを作るより、BTS『Dynamite』みたいなポップソングを作るのは何倍も難しい。
そして、クィアアーティストの台頭。ジャンルとして成り立つほどクィアアーティストが大勢いる。彼らを押し上げるファン層もある。マイノリティーとして様々な経験や多様な視点から作られる作品は面白い。LGBTQ+に理解のある有名アーティストがフックアップし、有名になったクィアアーティストがまた別の才能あるクィアアーティストをフックアップしている。

①박재범 Jay Park - All The Way Up (K) (韓国)

Jay Parkは、生まれも育ちもアメリカの、母国語が英語のHIPHOP/R&Bアーティスト。KPOPアイドルグループ2PMの元メンバー。1位に選んだのは、単純に、メロディと Jay Parkの声が断トツで好きだから。ポップなR&Bだが、KPOPアイドルの曲とは大きく異なり、甘く特徴のあるJay Parkの声で切ないメロディを聴かせる。年間ベストを選ぶ際に、1年分聴き直す。時間が経過したり、回数を重ねると色褪せてしまう曲もある。聴き始めてもう何か月も経ち、飽きるほど聴いているのに、キュンとなる。これからも長く聴き続ける曲になるだろう。彼のドキュメンタリーも良かった。自らの資産を投じ、リスクをとってレーベルを立ち上げ、韓国の若者をフックアップしたり、故郷のエドモンズと韓国を繋ぐような音楽ビジネスをしている。

②Nerubeats - Test Me (feat. Uyeon)(韓国)

日本のみならず、ポップミュージックは、女や子供の聴く音楽として、過小評価されてきた。KPOPの躍進により、今年は少しだけ価値を理解する人が増えてきたようで嬉しい。日本のプロデューサーNerubeatsさんと韓国のSSWであるUyeonとのコラボ。日本のDTM界隈は、英語が苦手でドメスティック、多ジャンルや他の界隈に興味がなく、同じ人たちとずっと同じような音楽作って満足している(ように見える)。Nerubeatsさんは、自ら海外まで広げてコラボ相手を探し、しかも歌がめちゃくちゃ上手い子の才能を見抜いて、その上彼女の歌の才能を生かせる超ポップな曲を作った。一発で終わりではなく、本作は二作目。日本でBTS『Dynamite』みたいな曲を作れる人が出てきてほしいし、可能性はあると思っている。NCT Uの振付師が、日本人の若い女性だったりする訳だから。そういう才能を見つけて評価してくれる人が増えれば、人材も育つ。

③Trueno, Nicki Nicole, Bizarrap - MAMICHULA (アルゼンチン)

2020 Latin GrammyのBest New Artistにノミネートされた19歳のNicki Nicoleと、ゲットー育ちでフリースタイルラップの優勝経験がある18歳のTruenoのコラボ。二人は付き合っている。Nicki NicoleとBizarrapのファンだったが、コラボ形式で、しかもアルゼンチン国内のみならず、南米の複数ヵ国で大ヒットするなんて予想外の嬉しさ。Nicki Nicoleは、惜しくもラテングラミーの受賞は逃したが、焦らなくてもこれからもっと上を狙えると思う。

④IC3PEAK - Плак-Плак (ロシア)

映像を含めた評価。日本人ウケするのではと思っていたが、予想通り、彼らについてのブログもよく読まれた。全世界的にファンがいて、Pitchforkでも取り上げられた。

DVを扱った作品のようだ。血を白色で表現したり、首を絞めるシーンで人形に置き換えるなど、グロテスクな映像を使わず、ホラーを表現している。黒・白・赤のコントラストが美しい。MVの域を超えたオーディオビジュアル作品と言える。

⑤IC3PEAK - Марш(ロシア)

同じくic3peakの作品。侵略する側の国の国民としての視点が、ロシア語が全く理解できなくとも、映像だけで十分伝わる。反政府的なメッセージを含む作品や音楽活動をすることで、身の危険も感じているという。彼らが安全に音楽活動を続け、また日本にも来てくれることを祈る。

あなたの顔は私と全く同じです
どんな都市にも同じ建物があります

私は人を殺したくありません

⑥Destiny Rogers - On 11 (アメリカ)

今年は自分が好きなラップをたくさんみつけられたおかけで、楽しみ方がわかってきた。Destiny Rogersはメキシコとアメリカのハーフで21歳。スペイン語も話せる。移民やハーフの方が作る文化や言語ミックスした音楽は、新鮮でオリジナリティがあるからなのか、私は惹かれる。彼女はバイデン支持で、選挙に行くようにSNSで積極的に働きかけていたり、マスク着用を促したり、Z世代らしい振る舞いをリアルタイムで確認できたのも面白かった。ちなみに、家系ラーメンのような見た目の日本風ラーメンにハマっているようで、お祝いラーメンとか言って、何かにつけてしょっちゅう食べている。かわいい。

⑦Agust D - 대취타(韓国)

ラップやKPOP嫌いを克服するきっかけになった曲。Agust Dは、BTSのメンバーであるSugaの個人活動名義。BTSのメンバーだから、グローバルチャートインしていたのだろう。BTSの名前しか知らず、ラップとKPOP嫌いの私の心を掴んだ。正直、ラップなんて単純なビートのループに、ブツブツ言ってるだけでしょ、つまんねーと思っていたところがあったが、こんなに豊かに表現できるものだと教えてくれた。MVも多くのKPOPとは一線を画していて、伝統を取り入れながらダサくなっていない、そのセンス。彼は、事故後の後遺症による肩の痛みがひどく、500mlのボトルを持っていられないこともあったそうだが、そのことを全く感じさせないダイナミックな動き。その肩の大きな手術をして、現在療養中。回復し、またこのようなパフォーマンスが観れますように。

⑧Stray Kids - 神메뉴(韓国)

KPOPに興味を持つきっかけとなった曲。ダンスのレベルと、彼ら自身の制作曲していること、ラップのうまさから、それまでKPOPに対して抱いていたイメージが覆った。マッチョで強そうな男性グループはちょっと苦手なので、そうじゃないところも私には良かった。

⑨(sic)boy,KM - Heaven's Drive feat.vividboooy(日本)

私だけではなく、YouTubeのリコメンドをきっかけに、幅広い年齢層の人がこの曲を気に入っていた。知名度やTVCMに起用されていたからではなく、何気なく音楽を再生した人が純粋に音楽を気に入り、その人たちがコメントを残していた。本当は、こうやって音楽自体で評価されるべき。音楽以外の話題性や容姿、ゴリ押し、音楽賞やメディアは歪んでしまっている。

⑩Lucky Kilimanjaro - 光はわたしのなか(日本)

ベストを選ぶにあたり、再度聴き直し。歌詞が素端らしい。2020年春、新型コロナもこれからの状況も全く見えない状況での心境が、見事に歌詞に落とし込まれている。歴史を切り取ったような歌詞。歌詞を聴いて、5月時点の気持ちを、ありありと思い出した。最悪だった2020年、嫌なこと吹き飛ばして忘れようという考え方もあるが、私は命を落とした人、何かを失った人、悲しみも忘れたくないし、しっかりを心に刻んでおきたい。感情の記憶は薄れていくだろうけれど、時々この曲を聴いて思い出したい。

音楽メディアや批評家・ライターさんの年間ベストにも入らないんじゃないかと思って言及しておくと、Awich『洗脳』は、リリック・曲・MVだけで評価すれば、間違いなくこのベスト10に入っていた。ただ、日本のHIPHOP業界やラッパーに対して思うところ、自分は譲れないことがあって外した。

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