ダンスはなぜ今も風営法でも規制されているのか

風営法とは?基本を知りたい方はコチラ→DJが5分で読む風営法

BuzzFeed神庭さんのダンス禁止の記事、小箱やクラブカルチャーを守るどころか、むしろ逆だと思う。神庭さんの記事は、ダンスが禁止されていると多くの人を誤解させている。クラブ自体が世間一般の人には身近な存在ではなく、ましてや小箱の問題はほとんどの人にとって関係のない話。警察への怒りを煽り、世論を味方につけ、小箱を応援したいのは理解できる。しかし、誤解して憤っている人たちが、昼間のペアダンスや盆踊りも禁止されておらず、深夜であっても許可を取れば問題なく踊れることを理解したらどうなるだろう。BuzzFeedだけならまだしも、クラバーや音楽好きも、自分たちに都合よいことだけ主張すると思われ、世間からの信用を失いかねない。

六本木GERONIMOについてはDJブースもダンスフロアもないとのことなので、風営法の解釈運用基準と照らし合わせ、どう考えても特定遊興飲食店営業には当てはまらないと思う。解釈運用基準で明文化してあるのだから、NOON判決もあるし、警察も怖くて実際には摘発できないのでは。ダンス禁止の張り紙の件については、店側からの相談に対して、警察もどうしたら自分たちが指導しなくて済むか考えた苦肉の策だったかもしれない。警察を挑発するのは勝手だが、問題が大きく扱われることで、特定遊興の許可が下りない場所で近隣に配慮しながら営業している小箱まで摘発されることにならないか心配。私は知人からの暴行を受けて警察に相談に行ったとき、正しい手続き方法を教えてもらえなかった。警察に対する不信感はある。健全なクラブであるのに逮捕され、後に無罪となったクラブオーナーの警察に対する不信感や憤りは察するに余り有る。だからと言って、ネット上で大勢の人を巻き込んで警察を批判しても何も解決しない。記事に煽られてネットに怒りのコメントするだけの人が、実際に小箱を応援してくれる訳ではない。それは風営法改正の過程でわかっているはず。

NOON裁判でダンスは風営法の規制対象外という判決が出ていながら、なぜまた規制されるようになったのか、私は知りたいと思った。風営法の解釈運用基準にどのような経緯で特定遊興飲食店営業が盛り込まれたか、風営法改正の経緯を辿りながら、国会の議事録/パブコメ/風俗行政研究会の議事録、全て目を通した。記録はあちこちに散らばっているし、検索上位には出てこない。国会や風俗行政研究会の議事録は、発言全てが記録されているからボリュームがある。でもそれを読んだことで、クラブ周辺に住む地域住民の声、警察が対応してきたクラブ内での事件、クラブがどのように捉えられているかとてもよく理解できた。今は、クラブ/地域住民/警察それぞれの言い分がわかる。なぜ規制されることになったのかを理解しなければ、平行線のままだ。

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過去の経緯を記す記録には、今後どうすべきかのヒントが散らばっている。本当に小箱を愛し、応援したいのであれば読むべきだが、きっと誰も読まないと思うので、例えば読むとどういうことがわかるのか書いてみる。

風営法と解釈運用基準改正の経緯
2014年6月にダンスに係る風営法規制の見直しが閣議決定されている。閣議決定強い。翌月からすぐに有識者を交えた風俗行政研究会が開催。「クラブとクラブカルチャーを守る会」「日本ナイトクラブ協会」「Let’s DANCE 法律家の会・署名推進委員会」も呼ばれて話をしている。警察は良いクラブの話ではなく、一番問題のあるクラブの話をする。隠し部屋とか芸能人しか入れないVIPルームがあり、麻薬や猥褻なことが行われている六本木のクラブ、ハイな状態でクラブで出て近くの公園で麻薬をやっていた事例とか。多くの人が意見を出し合った風俗行政研究会だが、最終的な報告書は参加した有識者全員が承認するのではなく、座長が代表して報告書を提出することで合意。座長が分厚い報告書を作成したとは思えないから、おそらく警察庁の方が資料をまとめたのではないだろうか。報告書には「遊興をさせる営業全般を対象として規制の見直しを検討する必要がある。」という文言が入った。京都大学の教授で、しかも刑法の専門家の高山佳奈子先生が、風営法でなくとも他の法律で懸念される犯罪は取り締まることができ、危険性のない行為を処罰の対象とすることは許されていないといった趣旨のパブリックコメントと根拠を提出されている。しかし警察側はパブコメの結果の中で、これについて触れていない。パブリックコメントよりも風俗行政研究会の報告書を根拠に、風営法や解釈運用基準が改正され、特定遊興にダンスをさせることが加わったように見受けられる。

経緯を辿り思うこと
ごく一部であっても、過去にクラブで犯罪が起き、クラブが近隣に迷惑をかけていたのは事実。法律は国民を守るためのものだから、一番悪いクラブを想定して規制するのは当然。今はクラブでの麻薬や暴力事件を耳にしないが、単に犯罪が減っただけなのか風営法改正のおかげなのかはわからない。風営法でなくとも犯罪を取り締まる法律は既にあるという高山佳奈子先生のパブコメは正論。でも、議事録での地域住民や町内会からの苦情は確かに切実だった。コムアイだって「私も住んでいるところの近くで音がうるさかったら嫌だと思う」と言っている。クラブはハイになって暴れるところだと認識しているクラバーも多く、泥酔してクラブの外で迷惑行為をしているのも目にする。改正の議論の中で、近隣住民からの苦情を受け付ける仕組みや、クラブを出た泥酔者が迷惑をかけないよう早めに酒の提供を打ち切ることが検討されているが、今きちんとできているのかな。警察も、地域住民から何の苦情もないのに、立ち入りや摘発はできないのではないかと推測する。大半の善良なクラブにとっては不条理だが、今の法律と解釈運用基準による規制はあってよいと思う。地域が狭すぎるというけれど、法律と解釈運用基準では地域は限定されていない。各都道府県で決められるようになっている。地元住民の人の理解を得て、各都道府県で交渉すればいい。
小箱は自分たちの権利ばかり主張するのではなく、迷惑行為をするクラバーを追放し、地域住民と良好な関係を作り、クラブ文化をきちんと外の人にもわかるように伝えるべきなのでは。そうやって信頼関係を築いた理解者は、必ず応援してくれるはず。小箱の人は特に、「DJが何かもわかってない。」とかすぐクラブを知らない人を見下したり、「来ればわかる。」とか理解を得る手間を惜しみがちだと思う。


私はご覧の通り、一昔前なら小箱でしか聴けなかったようなインディーズの音楽を愛している。小箱で夜中踊れなくても困らないと書いたけれど、小箱が無くなればいいとは決して思っていなくて、むしろもっと幅広い層が遊びに行けるような場所になってほしいと願ってズバズバ書いた。警察への不満をネットでつぶやいていても何一つ解決しない。箱の人もクラバーもBuzzFeedも、もっと建設的で夢のある話しようよ。

 

最後に、「国会議員のじじいはクラブで踊ったことないから理解できないんだろ。」的なつぶやきをよく見るが、日本共産党山下芳生議員がおそらくクラブ京都メトロのことを、国会で熱く語ってる。
参議院会議録情報 第189回国会 内閣委員会 第14号
「私も、行ったことないので、この質疑に先立ちまして先週末、京都の老舗クラブM、それから一番大きなクラブW、行ってまいりました。
そこで、老舗のクラブMの経営者の方はこう言っておられました。若者が純粋に音楽が好きで好きでたまらない、そういう人たちが、同じ趣味を持つ人たちがやってきて、共に楽しい時間を過ごすのがこのクラブMだとおっしゃっていましたね。それが、毎日の勉強あるいは仕事の疲れを、ここで仲間と出会うことによって、その時間を過ごすことによって元気になって、また明日から頑張ろうと、これが私たちの場所なんですと、こうおっしゃっておられました。これ非常に大事な場所なんだなと思いました。
それからもう一つ、私がそのクラブの経営者の方に話を聞いて感じたのは、このクラブという場所は単にダンスを踊っている場所ではないなと。新しい文化が生まれてくる場所、要するに新しい文化を発現させるというか、インキュベーターのような機能を持っているのがクラブだなというふうに感じたわけです。
例えば、この老舗M、オーナーの方が私にこのスマホの動画を見せて聞かせてくれました、ここでどんなことがやられているか。非常にちっちゃいんですよね、Mさんは。もう数十人入れば満席、満杯ぐらいなところなんですけれども、そこで二十五周年イベントが昨日ありました、こんなことをやりましたと。アメリカのギタリストを、物すごいテクニシャンなんですけれども、その美しいメロディーの途中にギーッとこう何か騒音、雑音のようなものが、でもこれが全体としては非常に心地よいものになるんだと。これは、まだメジャーにはなっていない。しかし、それを聴くためにやっぱり数十人集まって、若い人だけじゃなくて五十代、六十代の人も来てそれをずっと楽しんでいると、立ちっ放しで。こういうものが生まれる場所なんだと。」

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