オープン・スペース 2018 イン・トランジション @ NTT ICC

今回は振動デバイスを用いた触覚体験が多めで、前回の《銃弾と弾痕のあいだ》や《エネルギーの風景》といった歴史や社会問題を含む芸術的な展示よりも、科学技術的要素が強い作品の割合が増えた印象。ウェブの作品紹介にはクレジットが細かく出ていて、多くの専門家とその人の技術が組み合わさり、実現している作品であることがわかる。

 

吉開菜央 《Grand Bouquet/いま いちばん美しいあなたたちへ》
一人ずつの体験で、土日は体験できなかった人もいたそうなので、まずは整理券を取りにこちらの展示に。待ち時間無しですぐに体験できた。向かいのYCAMも整理券が必要、受付が同じなので一緒に予約しておけば良かった。


胸・腹・背中に振動デバイスを装着し、音と風が出る装置に囲まれ、大きなスクリーンの映像を鑑賞する。スクリーンは鑑賞者を囲むように緩くカーブしている。2回体験したが、腹部の振動デバイスはへそ下あたり、胸の振動デバイスは心臓の上になるように装着すると、よりリアルに体験できると思う。
今回振動デバイスを用いた展示作品が他に2点あるが、他の作品とは再現性のレベルが全く違う。特に吐き気を催すときの内臓が絞りあがる感覚、ゴロゴロと腹を下す感覚は非常にリアル。音に関しては、evala氏の8.1ch立体音響と比較すると、あまり立体感は感じない。通常の5.1chのスピーカー配置でも十分立体的に聞こえるので、今回の配置でどのようなメリットや差異があるのか興味がある。前回の展示のときからなのだが、《ジャグラー》の装置の稼働音が非常に大きくうるさい。加えて今回は、《ライヴズ・イン・ジャパン》もかなりの音で他の展示に影響している。遮音や指向性スピーカーなどの対応ができれば、没入感はもう少し上がったかもしれない。吹き出てくる風については、タイミングや風量ともに自然で迫力がある。ただし、新しい機材の香りがしてリアリティが半減。個人的に好みの香りではあるのだけれど。
映像の内容に関しては、感情が入り込みにくかった。黒い塊が対峙しなければならない困難だとすると、戦うための自分の内面の強さや力は、インスタ映えするような花ではなく、もっとドロドロとした生命力あふれる美しさだと思う。人生を生き抜く戦いは、休日の朝のヒーローアクションのようにチープではない。製作費等の制約でワイアーアクションは難しいのだろう、吹き飛ばされる様子が、静止画を小さくしていく手法で少し笑ってしまった。吹き飛ばされる側の視点で、後ろに引いていく映像の方がリアリティが出たのでは。黒い塊に取り込まれ、風化するところまでは一体感があったが、森の土に還り掘り起こされる部分が取ってつけたようで、連続性が感じられなかった。土で汚れた顔がコントみたいだったかな。このシーンの解釈が難しく、それ以前の映像の解釈も考え直さなければいけなかった。粉々になったところで終わっていれば、すっきりと完結していたのだけれど。今回、公共性のある場所での展示ということで、映像は一部黒塗りやぼかしが入ったそう。オリジナルで鑑賞していれば、また印象や解釈も変わったかもしれない。とても残念。どれだけ過激かグロテスクな表現だったのかわからないが、海外からの来場者も非常に多く(おそらく評判が良いから)、技術と芸術を組み合わせた非常に貴重な施設なので、芸術的な観点で検討してほしい。

 

大脇理智+YCAM 《The Other in You》
こちらも一人ずつしか鑑賞できない体験型作品。VRヘッドマウンドディスプレイ(ヘッドフォン付き)を装着し、球体の震度デバイスに両手を置いて鑑賞する。視力がかなり悪いので、眼鏡を外さなければいけないと言われ不安だったが、用意された3種類のレンズの1つをかますことで、かなり視力補正できた。最初はポリゴンのダンサー2人が、腕が当たりそうな近くで踊る。360度、上下からも鑑賞できるので、後ろを振り返ったり、少しかがんでダンサーを下から見てみると楽しい。最近グラフィックも向上してしまい、カクカクしたポリゴンも久しぶり。ダンサーが床に手をついたり蹴ったりすると、振動デバイスがドンという感覚を伝えてくる。伏見はるな氏の《atmoSphere》の繊細で多様な振動と比較すると、振動のワンパターン。作品後半は、自分の体を残したまま宙に浮き、自分の状況を上から下から俯瞰する映像に移行する。頭を左右に振ることで、俯瞰する位置を変えることができる。ダンサーに触れるようなインタラクティブな仕掛けがないので、弟に借りたOculus Rift(市販品で約5万円)と比べて没入感は劣るかな。ポリゴンダンサーが手を差し出してきたり、頭をなでようとしてきたりすると臨場感があったかも。

 

ライゾマティクスリサーチ 《recursive reflection》
さすが、他の展示に比べ圧倒的なわかり易さ。鑑賞者の動きを読み取り、学習し、予測する、というシンプルなステップ。ボールのついた全身タイツ、水玉のZOZOSUITを着用しなくても、服のまま指定位置に立って踊るだけで、動きを正確に読み取ってくれる。読み取りのカメラかセンサーらしいのは、頭上にしか見つけられなかったのだが、何台でどうやっているか気になる。学習している間も、単に「学習中」と表示するのではなく、学習過程を表現した映像が流れている。全身を動かして手を大きく振る、四股のように足を広げて重心を落とす、足をクロスさせて後ろに下げるという風に、異なった特徴をつけ、予測のダンスがどのくらい変わるかやってみた。左右の足をクロスさせると、左右の足を誤認するかもしれないと思ったが、正確に読み取られた。予測の動きは3種類の違いは出た。どういうロジックなのか、もう一段階だけ深く知りたい。正確に短時間で読み取ってくれるのでストレスもなく、楽しくなって変な動き連発してしまった。

 

岡ともみ,渡邊淳司 《もしもし、の一秒前》
まさか岡氏の公衆電話作品がNTT ICCで見れる日が来るとは。ファンとして感慨深い。さすがNTTでの展示とあって、電話ボックスの扉がジャバラ。おそらくNTTの本物。事前に作品解説を読んでしまったのだが、それでも電話ボックスに入り、携帯と比べ重くてゴロっとした受話器を持ち上げ、耳にあて呼び出し音を聞くという動作を経ることで作品に入り込める。電話ボックスの外に6枚のディスプレイがあり、電話のある風景が映し出されている。受話器を上げる毎に、順にそれぞれの場所に繋がる。鳴り響く電話機に反応する人や動物を電話ボックス越しに見る。
自分が大好きな祖母に電話するとき、苦手な上司に電話するとき、相手が出るまでの時間わくわくしたり緊張したり様々な気持ちで相手が出るのを待っていたことを鑑賞後に思い出す。祖母の家の電話機は台所から離れているから長めに鳴らして待つとか、無意識に相手の状況を想像している。これから電話をするとき、相手の状況を想像している自分を意識するだろう。レアンドロ・エルリッヒ展もそうだったが、作品の鑑賞後に鑑賞者のモノの見方や意識を変えてしまう、芸術の力は強い。
ひとつ前の公衆電話作品「シナプスのついたふたつめの嘘」では、電話が繋がった先に人はおらず話しかけて来なかった。その理由として会話が成立しないので、フィクションが崩れてしまうというような説明をされていたが、今回は話しかけてくる。自然なセリフや間合いで、相手から一方的に話されているという気持ちがしない。相手がこちらを見ていないからというのもあるかもしれない。たった半年で前作の制限を取り払ってしまわれた。会話を成立させるプログラムを仕込むとか技術的な方法ではなく、セリフや間合いという手法で。技術を持ち合わせても、あえて技術を使わずアナログな手法をとったりするところが、岡氏の作品の魅力。
一つだけ贅沢を言えば、国際電話の呼び出し音は国内と違うので、変えてあるとよりリアルだった。国際電話かけるときは英語のことが多いから、あの呼び出し音聞くだけで緊張して胃がキュッとなる。
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柴田真歩 《XNN (X News Network)》
いくつかの実際のテレビニュースを文節単位で切ってバラバラにし、ランダムに組み合わせた映像作品。映像はテレビニュース映像ではなく、キャプチャーした映像を白地に黒の手書きイラスト風に変換して映し出しているので連続性がある。
4人がそれぞれ、いつ・どこで・誰が・何をしたかを考え、4人の言葉を繋げて1つの文章にするゲームを思い起こさせる。日米の首相の発言、防衛庁の問題、赤ちゃんパンダ等のニュースがミックスされ1つの文章が生成されるのだが、正直あまり気持ちのよいものではなかった。日米の首相の言葉というのは世界情勢や国の未来を左右し、時として人の命にも影響する。記録された言葉で人が裁かれる。組み合わせであることをわかり易くするために、特徴が異なる印象が強いニュース素材を選んだのではないかと推測するが、言葉を用いた作品であるのに、単なる素材として扱われているような気がした。逆にフェイクニュースや公文書改ざんに対する皮肉が作品のテーマだと解釈できないかも考えてみたが、明らかにフェイクだとわかる素材を選んでいるのでそれはないかな。
文節ごとに区切りバラバラにしたパーツから、文法的に新しい文章を自動生成する技術は素晴らしいと思う。人間が全く考えもしなかった面白い物語を作り出してくれるのだったら、創造的で楽しい。


徳井直生《イマジナリー・ランドスケープ
パノラマ写真を3面の巨大ディスプレイに映している作品と思いきや、3面それぞれ別の場所。風景が似ていて、且つ3面繋がるような画像をGoogle ストリートビューから選び出し、組み合わせている。説明を読めばわかったが、3面の景色があまりに自然に一体化していて、単に風景が映っているように見えてしまう。例えば、3面が別の場所であることを示すように、国名都市名を一時的にでも表示するとか、1面ずつその土地の360度の映像を一旦映して、本来は全く別の場所であることを視覚的に表現すれば、より多くの人が技術の凄さを理解できるのではないかと思った。壁面の映像は、プロジェクターによるものではなく巨大なディスプレイ。なのでどこに立っても自分の影が映らない。
徳井直生氏は、AI DJの方なのか。AI DJの展示もやってほしいな。著作権フリーのネットの曲だけで繋ぐとか。
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《ライヴズ・イン・ジャパン》の音が大きくて、《プライウッド・シティ・ストーリーズ》が聞こえなかった。振動デバイスを内蔵したクッションとリモコンを手に映像を鑑賞する《Haptic TV》は期待していたのだが、映像に芸術的要素がなく、振動パターンが単純で映像と合っていないので、技術体験としてもいまひとつだった。池上高志氏の下記説明文は、一般の人への説明に慣れておられるだけあって非常にわかり易かったのだが、展示物については私の理解が及ばず残念。
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科学、情報処理の基本的な教育は受けているが、残りの作品のコンセプトや技術を理解するのは難しかった。専門家だけではなく一般の来場者も考慮されているのであれば、説明表現、図式、展示方法にもう少し工夫があると嬉しい。

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