古いレコードの匂いと記憶

神戸元町のJR高架下にある音楽バー オトハトバ、移転が決まったようだ。再開発を進めたいJR西日本の立ち退き圧力は、相当なものだったんだろう。数あるレコード店や味わい深い店が無くなるのも時間の問題かもしれない。

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元町高架下(モトコー)に連れて行ってくれたのは、予備校友達のモッチだった。Deee-Liteを薦めてくれたり、Soul TrainのVHSを貸してくれる、音楽の趣味が合う唯一の友達。60年代や70年代のビンテージを安く手に入れ、上手に着こなしていた。モトコーは線路の下がアーケードのような通り道になっていて、その両端に店が並ぶ。当時は昼間でも薄暗く、一歩足を踏み入れると、古着、中古レコード、古書、古い建物の匂いがした。店の人もいるかいないかわからない、気配消してるような店ばかりで、古着の奥から古着着た店員さんがのっそり出て来て驚く、そんなようなことが何度もあった。中古家電、仏像、漢方薬、ミリタリー、ペット、ガラクタみたいなものを売る店まで、カオスだった。ビンテージの洋服とレコードを買いに何度も通った。レコードはジャケ買いもした。ほとんど分類もされていないような山積みの中から、裾の広がったパンツに厚底靴とかディスコっぽいのとか選び、家に帰ってワクワクしながら針を落とした。自分の周りは誰も聴いていない音楽、何十年も前に外国で発売された音楽を、時を超えて今自分だけが聴いている、そんな特別感があった。

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去年久しぶりに行ったら、怪しい店はなくなり、夜遅くまで蛍光灯が煌々と照らす明るい通りになってしまっていた。それでも、スニーカー専門店や中古ワープロ店とか残ってたり、店番のおじいちゃんがテレビデオでエロビデオ観てたりして(通行人から丸見え)、変わらないところもあって嬉しかった。オトハトバや、様々な年齢が集う立ち飲み屋など、個性的なお店もできていた。もし電車の音が響く高架下の音楽バーでDJしてた子が有名になったら、夢があるなと思ってた。高架下をフロアに、一度は踊ってみたかった。

"コンバースの聖地"として有名な柿本商店

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高架橋は昭和6年頃に建設され、戦後の闇市が高架下商店街の始まりのようなので、70年以上の歴史がある。『火垂るの墓』で節子が生き抜こうとしていた時代からある場所。阪神大震災で、すぐ近くの新しいビルはたくさん倒壊したが、被害は最小限だった。ハモニカ横丁ジャンジャン横丁、中東の国にあるバザールにも引けを取らないディープスポットだと思う。その土地や時代の個性がある建物を壊しては、新しい建物を建て、テーマパークのような薄っぺらいレトロ風に仕上げる。そこに街や場所独特の匂いはない。全国どの土地に行っても、同じような街並みに均一化されていく。一度壊してしまえば、二度と手に入れることができない観光資源。何百万もかけた海外視察で、大切に守られてきた旧市街が生んでいる経済効果の数々を目にしなかったのだろうかと思ってしまう。

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大きな力を前に、もうどうすることもできない状況なのかもしれない。モトコーには、インスタ映えするディープな写真が撮れるスポットが山ほどある。モトコーがなくなる前に、1枚でも多く写真に残ったり、レコードやカセットテープのファンが素敵な掘り出し物と出会えるといいなと思う。

そして私は、当時からうまいと評判なのに、なぜか一度も行けてない丸玉食堂に、今度こそ行こう。(丸玉食堂と向かいのビル)

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